第124話:領家先輩の悩みとは
「狭間専務、このちびっこエルフは何ですか?」
「領家くん、きみにもこれがエルフに見えるか……」
さやかさんに頼まれたので、領家くんの相談事を聞くために朝市に来ていた。控室でお茶を飲みながら話を聞くことにした。
エルフはどこに行くにも帽子をかぶっていたので、ここに来るまでに何とかかんとかやめさせた。挨拶するときに帽子被ってるのも失礼になるし、せっかくのきれいな髪を隠してしまうのはもったいないとも思ったからだ。
服装も例の半ズボンじゃなくてスカートを指定した。
「ちょっ! おまっ! ボクのことを『これ』とか言ったな! お姉様に言いつけてやるからな!」
小学生か……
「ちょっとしばらく面倒を見ることになって……ちなみに、チルドレンだから、俺よりもきみ寄りだから」
「そうなんですか!」
領家くんがエルフの方を向いて聞いた。
「きみ、所属は?」
「所属は清花様のところです。まだ学生なのでお仕事はしていません。九重エルフといいます。よろしくお願いします」
「よろしくね。狭間専務と一緒なんていいなぁ」
エルフが領家くんに深々と頭を下げて挨拶した。ここでもか……そう言えば、領家くんも『チルドレン度』が高そうだから、エルフの尊敬の対象なのか……
……「チルドレン度」って何?
「あの……領家さんとお話しできて嬉しいです」
「いやいや、僕なんて全然だよ……」
エルフはテレまくってる。真っ赤になってるし……まったく、その1/100でも俺に尊敬を向けてくれ。
「それで、相談って何だろう?」
「あ、失礼しました。『屋台』が増えてきて試作をしたり、プレゼン用の食材の料理場所が無くて、何とかならないかと思って……」
領家くんが相談事を聞かせてくれた。
とりあえず、今はエルフはスルーして、領家くんの相談事を解決したい。エルフの前にはお茶とお菓子を置いて黙らせておいた。
「どういうこと?」
「例のホテルの件以来『屋台』の問い合わせと申し込みが多いです」
「ああ、それはいいね」
「プレゼンのために料理を持ち込まれるのですが、仕上げをする場所がないんです」
「ああ、大体は調理して持って来てくれるけど、最後の仕上げの温めとかってこと?」
「はい。基本的にそうなんですが、先日は『ふわふわオムライス』がウリの方だったんで、たまご部分を調理したいと言われまして……」
「なるほど、そうか。事前の持ち込みだと屋台の調理器具は使えないし、お店は使わせてもらえないよね」
今までは、ちょこっと温めとかだったら、既にある飲食店の調理場を使わせてもらったりしていた。それも最近では各店忙しいから難しい。
「そうなんです。どこかに料理スペースを設けたいんですが、それなりの設備があった方がいいのかなって……」
「あー。実は、前回増設したとき、『入口』だったところの鉄骨を2階の高さまで追加しておいたんだよ」
ホントは事務所にしようと思っていたところだけど……
「確かに元の『入口』の上に2階ができてましたね」
「そそ。2つの建物を繋ぐ増設部分はイートインコーナーにしたので、においがこもらない様に天井を高くしたからそれに合わせてね」
「2階に料理スペースを作りますか?」
「そうだね。せっかくだからちゃんとしたキッチンにしようかな。社長に相談しておきます」
「助かります」
「他は何かあるかな?」
「いえ、それ以外は特に問題は起きていません」
さすがチルドレン、優秀だ。まだ学生兼責任者なのに問題がほとんど起きてない。お金はかかるけど、問題は解決しそうだ。少し安心して俺たちはコーヒーを飲んで一息入れた。
「領家くん、学校の方はどうなの?」
なんか会話が苦手なお父さんが中学生の子供と久々の会話するみたいになっちゃったけど……
「ありがとうございます。お陰様でほぼ卒論も終わってて、後はまとめだけです」
「そうなんだ。くれぐれも学業は優先してね」
「はい、ありがとうございます。さやか様からも言われているので、そこの約束は絶対守ります」
「それがいい」
それを聞いて安心した。彼は、黙ってたら寝ないで仕事しそうだし。
「狭間専務、僕 今すごく充実してます! 清花様には申し訳ないですけど、一番仕事をしているって充実感を味わってます」
「そか。それは良かった。でも、頑張りすぎないようにね」
「はい、狭間専務が僕の仕事の責任を負ってくれているので、思い切って動けます。その分、期待を裏切らないようにします!」
彼はまだ学生だ。責任者代理として仕事してもらっているけど、ホントに責任を押し付けたら潰れてしまうだろう。
権限は渡すけど、失敗した時の責任は俺が取るように考えている。さやかさんにも宣言したので、有言実行という訳。
ただ、彼は有能で問題を起こさない。
判断に困る時は、こうして事前に相談してくれるので大きなトラブルはなかった。さすがチルドレン。こんなすごい人材を何十人も何百人も育てていると思うと、さやかパパと さやかママの凄さを感じるばかりだ。
*
「昼になったし、ご飯でも食べようか」
「あ、はい。僕がご馳走しますよ!」
「何言ってるの。こういう時は年上が払うもんなんだよ。カッコつけさせてよ」
「じゃあ、ご馳走になります!」
領家くんが俺の顔を立ててくれた。
昼食は「朝市」内の飲食店で食べて行くことにした。ここで食べればお金を落としていけるし、お店の人とコミュニケーションも図れる。さらに、サービスの質とかお客さんの立場で見れるという訳。
「エルフもご飯食べるだろ? 何がいい? 色々あるから見て来たら?」
「っ!」
ご飯は食べたいけど、俺に対して素直になれないってところだろうか。
「心配するな。お前の大好きな『お姉様』からお金を預かってるから遠慮なく好きなものを食べていいぞ」
「ふんっ」
エルフが控室を出て食べ物を見に行った。まあ、東ヶ崎さんからお金を預かったのは嘘だけどね。
おいしいものは素直に食べたいものだ。後は、彼女が何を選ぶか見たら10代の女の子の気持ちもリサーチもできる。
まあ、そういう理由付けをしてご馳走しようと思ってるだけだけど。
「あの子、狭間専務に好意的じゃない感じですか?」
エルフが出て行った後、領家くんが心配してくれた。
「まあね、なんか嫌われちゃって……」
「僕から言いましょうか? 一応『兄』ですし……」
「いや、いいんだよ。俺はあの子の事 別に嫌いじゃないし。若い時ってやり場のない怒りみたいなのって少なからず持ってるよね。文句を言う相手もいて良いんじゃないかな?」
「狭間専務、お父さんみたいですね。僕、彼女が羨ましいです。僕にはそんな人がいなかったから……」
「やめてよ。俺にあんな大きな子はいないよ」
*
エルフが昼食に「屋台」のメニューを選んだので、俺と領家くんも倣って屋台のメニューを注文してイートインコーナーで食べた。
俺としては、昼時の忙しい時のお客さんの流れとか、店の混み具合とか駐車場の混み具合とか、チェックすべきところがたくさんあるので、エルフを領家くんに任せてちょっと席を外した。
憧れの人みたいだから、話す時間を作ってあげた……つもりはないけどさ。
*
ボク、九重エルフには不満なことがあった。あの領家さんが、お嬢様とお姉様を誑かす「あいつ」の言うことを聞いていること。あんな一般人の言うことなんて無視して領家さんが一人で動けばもっとすごい成果が出るに違いないのに!
ボクは控室で領家さんと二人だけになったので聞いた。一言 言ってやりたい! 領家さんも目が覚めるはず!
「どうしてなんですか⁉ 領家さん程の方がなんで、あんなヤツのいいなりなんですか⁉ ボク納得いきません!」
「え⁉ 狭間様のこと悪く言う人いるの⁉」
「何ですか、その『狭間様』って⁉」
「普段はそう呼ぶのを禁止されているからね……せめて本人がいない時くらい……狭間様はすごい方だよ! 僕の絶望的な失敗を取り返してくれた上に、さやか様の会社に入れてくれたんだよ!」
「そんなのお嬢様の采配に決まってます。あいつは横で見てただけでしょ!」
「僕の失敗は普通の失敗じゃなかったからね……お嬢様を危険にさらして……比ゆ的な意味じゃなくて一度は死んでお詫びしようと思たほどだったよ」
「そんな……領家さん程の方が⁉」
「多分、狭間様以外ではどうしようもなかったと思う……命の恩人だと思ってるよ、僕は」
「それは領家さんが良い人だからです! あいつはそこに付け込んでます!」
「狭間様は近い将来、さやか様と結婚されて高鳥家を引き継ぐと思うよ? そうすると自動的に『チルドレン』も引き継ぐからファザー……狭間様の場合はブラザーかな? 僕たちのトップになる方だと思うよ」
「そんなのあり得なくないですか⁉ 一般人ですよ⁉ そこら辺にいる感じの」
「ふふふふふ、エルフちゃんにはそう見えてるんだ……なるほど、それで東ヶ崎さんが……」
領家さんが何か納得しているようだったけど、ボクには分からなかった。納得いかないことだけは間違いなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます