第123話:新しい朝とは
「東ヶ崎さん、今朝の朝食は何事ですか?」
「ふふふ、お詫びとお礼です♪」
今朝は朝ご飯がすごく豪華だった。量も質もかなり気合が入っていた。
「はわわわわ! お姉様のご飯を食べられるなんて! しかも、お姉様とご一緒に!」
エルフは目が輝いている。こいつは背が低い上に頭が小さいので幼く見えるが高校生らしい。金髪と白い肌であることを考えると本物のエルフのようだ。もっとも、耳は尖っていないけれど。
「あなたがここで朝食を食べられるのは、狭間さんとお嬢様のお陰ですからね!」
「……あいつは何にもしてないじゃないですか」(ぼそっ)
「こーら!」
「……」
エルフは俺のことが気に入らないらしい。そりゃぁ、そうだろうなぁ。大好きな尊敬するお姉様と神とも崇めている さやかさんと一緒に暮らしているしなぁ……
テーブルにつく前なんか、さやかさんに土下座してお礼を言っていたし。エルフにとって、さやかさんは もはや神だな。
ちなみに、俺に対しては舌打ちしてた。目が合ったら「ちっ」って言ってた「ちっ」って。
「エルフちゃんは休学したんですよね?」
さやかさんが東ヶ崎さんに訊ねた。
「はい、少しの間だけこちらで勉強させた方がいいと思いまして……」
東ヶ崎さんがそう判断したということは何か思うところがあったのだろう。まあ、俺にはあまり関係がないと思うからいいけどね。
「狭間さん、私とお嬢様が学校に行ってるときは、エルフちゃんは狭間さんが連れて行ってください」
「「はあーーーーーっっ!?」」
俺とエルフの声がハモった。
対岸の火事くらいに思っていたら、目の前が燃えていた!
「お姉様! ボクがこんなヤツと一緒にって!」
「あなたは狭間さんのことが気に入らないんでしょ? どこがどう嫌いなのか、見て来たらいいじゃないですか。報告は受け付けますよ?」
「そ、それは……」
東ヶ崎さん、策士だな。でも、俺から彼女が学ぶことなんてあるのだろうか。しかも、エルフは俺のことを嫌っている。そんな相手の「いいところ」を見ようとしても見つかるものだろうか。
「お姉様、ボクがこんなヤツと一緒にいて何かされないか心配じゃないんですか!?」
「狭間さんはそんなことをなさいませんよ」
「ボクをトイレに連れ込もうとしたんですよ!?」
いや、してないから! お前こそ俺をトイレに連れ込んで胸を触らせようとしたじゃないか!
「狭間さん、本当ですか?」
さやかさんがこそこそ話のボリュームでこっそり聞いてきた。勘弁してくれ。
「俺に幼女をトイレに連れ込む趣味はありません。でも、さやかさんは気を付けないとダメかも。隙あらば連れ込みます」
「もう! そんなこと言って……」
いかん、心がやさぐれているのか冗談の質がだいぶ低い……こんなことを続けていたら、いつかさやかさんに愛想を尽かされてしまいそうだ。
「ところで、今日はどうなんですか? 大学? それとも仕事ですか?」
「今日は朝い……」
「お嬢様、今日は大学でレポート提出があります」
さやかさんが言いかけたところで珍しく東ヶ崎さんが遮った。
「あれ? そうでしたっけ?」
「はい、この間 書いたあれです」
「では、登校しましょうか。狭間さんは朝市に出勤してください。領家先輩が相談があると言われていたあの件を聞いてあげてください」
「了解です」
エルフが東ヶ崎さんにこっそり聞いていた。
「『領家先輩』って、まさか情報収集部の領家健一さんのことじゃないですよね?」
「清花さまの部隊のことよね? 恐らくそうですよ。最近まで私には秘匿されていた情報みたいだから確証はないですけれど」
「そうなんですか!? サウザントのお姉様に秘匿するって……可能なんですか!?」
「清花様自ら動いておられた件ですからね」
「清花様が……!? どんな大きなプロジェクトですか!? 国家プロジェクトみたいなものですか!?」
「狭間さんです。清花さまが狭間さんの実力を測る目的で動かれていました」
「ええっ!? あの清花様が!? こんな虫けらごときのために動かれたんですか!?」
東ヶ崎さんが苦笑いしている。こそこそ話だけど、全部聞こえてるし。
それにしても、エルフの俺に対する評価てめちゃくちゃ酷くないか!? そして、俺はしばらくこいつと一緒に過ごすんでしょ!? 気が重いわぁ……
*
「それでは狭間さん、エルフちゃんをお願いします」
東ヶ崎さんが深々とお辞儀をした後、さやかさんと共に学校に行ってしまった。俺にとって辛い時間が始まりそうだ。
「ちっ」
玄関でさやかさんと東ヶ崎さんを見送った後、エルフがこちらを見てあからさまに舌打ちした。
「お前は、黙ってたら可愛いんだから、舌打ちしたり、悪い言葉を使ったりしたらもったいないぞ」
「ふんっ! お前なんかに言われたくないよ!」
俺の評価低っ!
「お前のことはしっかり見てしっかり報告して、お嬢様とお姉様の目を覚まさせてやるんだから!」
「ガンバレヨー」
いつの間にかまた変なことに巻き込まれていることに気づいた俺だった。
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