第122話:さやかさんの事情聴取とは


「狭間さん……」



 さやかさんが彼女の部屋でベッドに座り、目を閉じて少し顎を上げている。完全にキスの体勢だ。


 あれ? どうしてこうなった!?


 俺の事情聴取のために さやかさんの部屋に連れてこられたはずだ。



(ちゅっ……ちゅ……)



 女性から迫って来てくれたんだ。マンガやラノベじゃないんだから、こんな据え膳、当然おいしくいただきますけど?


 さやかさんの頭を撫でたり、髪に触ったりして、再びキスをした。



「よっと」



 ベッドの横に座って、さやかさんの方を向く。



「どうしたんですか? さやかさん、言ってみれば妹が会いに来てくれたんでしょう?」


「でも、あの子……」



 可愛いから、やきもちかな? それも嬉しいのだけど。でも、相手は小学生だ。そんなところにまでヤキモチを妬かれても……



「JKですし……」


「はぁ?」


「あの子、現役の高校1年生なんです! 狭間さんが大好きな高校生!」


「はあ!? あれで高校生!? 小学生じゃなくて!? あと、いつから俺はJK好きキャラに!?」



 とりあえず、さやかさんの頭を撫でながら、俺が落ち着こう。さやかさんは、やたらJKに怯えていると思ったら、ここにつながっていたのだろうか。何とかして安心させないと。



「実は、今日指輪を買いに出ました。とりあえず、婚約指輪のつもりです。でも、デザインも色々で俺にサプライズは無理そうでした。だから、今度一緒に見に行きましょう!」


「!」



 瞬間的に顔が真っ赤になるさやかさん。



「その途中で迷子を拾っただけで、全然変なつもりじゃなかったんですよ? さやかさん? 聞いてます?」


「は、はひぃ!」



 軽く抱きしめると、ふわっと彼女のいい匂いが鼻孔をくすぐる。



「俺は、さやかさんだけを見てますから、こんな美人が不安にならないでください」



 さやかさんも俺の背中にそっと手を回してきた。



「狭間さんはやっぱり悪い人です。私はもう何があっても狭間さんから離れられないんですからね?」


「俺って前世でどんなカルマを積んだんでしょうね?」


「狭間さんはカッコいいから妥当です」


「こんなところで褒めてると、ベッドに押し倒されてしまいますよ?」



 さやかさんの肩を軽く押すと、彼女は容易にベッドに仰向けに倒れ込んでしまった。すかさず彼女の頭の横に肘をついて、彼女に覆いかぶさるように近づく。



「あ、あの……」



 二人の顔が近づくと さやかさんの目が泳いでいる。珍しいし、可愛い。めずらかわいい!



「緊張してますか?」


「狭間さんがいじわるです」



 よしよしと頭を撫でる。安心したのか、観念したのか、目を閉じるさやかさん。再度顔を近づけようとした時だった。




((テトテトテン……テトテトテン……))



 唇を重ねたところで、二人のスマホが同時になった。



「うーーーーー、東ヶ崎さんかな」


「きっと、東ヶ崎さんですね」



 二人起き上がって、顔を見合わせ笑いがこぼれる。



「うーん、ちょうどいいタイミングで邪魔が入った……」


「ふふふふふ」


「じゃあ、もう一回キスだけ……」



 そう俺が言った後、さやかさんに軽くキスをした。



「じゃあ、もう少しだけ」



 今度はさやかさんがそう言った後、さやかさんが俺にハグをした。



「じゃあ、行きますか!」


「エルフのために」

「妹のために」



 俺達は、5階のさやかさんの部屋から2階のリビングに移動することにした。



 *



 今度はリビングの下のローテーブルの方だった。広いスペースのところに神妙な顔をした東ヶ崎さんとエルフが正座していた。


 何となく緊迫した空気を感じながらもその前に行き、俺も正座して向き合った。横に さやかさんが普通に座って、俺の腕を組んでニコニコしている。



「狭間さん、お騒がせしてすいませんでした。あと、エルフを助けてくださりありがとうございます」



 東ヶ崎さんが深々と頭を下げた。


 それを横目に見たエルフも同様に頭を下げた。もはや土下座の様相。



「ちょっと、東ヶ崎さん何もそこまで」


「いえ、あとはこの子が大変失礼なことを申し上げました……」



 再度頭を下げられてしまった。



「東ヶ崎さん、そこまでしなくても」


「お姉様! こんなヤツに頭なんて下げないでください!」



 東ヶ崎さんが頭を上げ、エルフの方を向いた。



「エルフちゃん、悲しいことを言わないで。あなたは今、どなたに何を言っているのか、理解していないだけよ」


「でもでも、あれ見てくださいよ! どう見てもお嬢様がたぶらかされています!」



 さやかさんが横でニコニコして俺の腕を組んでるからなぁ。俺って彼女を誑かせているのだろうか。



「はーーーーー。分かりました。あなたはしばらく私の傍にいてください。そして、自分の目で確かめなさい」


「!」



 エルフが驚きの表情を浮かべた。



「それって、しばらくお姉様と一緒に暮らしていいってこと……?」


「そう言いました」



そのまま東ヶ崎さんが さやかさんの方を向いた。



「お嬢様、よろしいでしょうか?」


「東ヶ崎さんが良いなら、私は構いませんよ?」


「狭間さんは……」


「俺も大丈夫ですよ」



 まあ、対岸の火事みたいなものだし。



「お嬢様の許可もおりました。ほら、お礼を言って」


「さ、さやかお嬢様ありがとうございます」



 エルフが深々と頭を下げてお礼を言った。うーん……



「さやかさんには素直に頭が下げられるんだな」


「当たり前だろ! お嬢様だぞ!」



 さやかさんは「神」、東ヶ崎さんは「憧れのお姉様」、俺は「彼女たちを誑かす悪い男」という設定(?)で奇妙な共同生活がスタートしてしまったのだった。

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