第111話:屋台バトルの結果とは

 開始から1ヶ月経過して屋台バトルの結果が出た。当初の予想では、現場で実際に経験していた山口さんが圧勝だと思っていた。


 いくらホテルの料理人でも一から準備するのだから慣れも必要だと思うし、いきなりトップギアにはならないと思っていたのだ。


 既に出店しているデメリットとしては、常連さんは既に山口さんのカレーを食べているだろうから、他のメニューに行くだろうと言うことくらい。


 実際はテレビやラジオ、ネットの影響で新規のお客さんがかなりいたので杞憂に終わった。


 単純に作業に慣れているという理由で、山口さんが数を伸ばし、比例して売上げもトップだった。


 この結果は、リアルタイムでWEB公開されていたため、数が伸びたやつが人気と思ったお客さんで山口さんは2次曲線的に売上げを伸ばしていた。


 ただ、サンドイッチと丼はかなり作業に慣れるのが早く、価格も比較的手頃だったことから時間経過とともに数を伸ばしていった。


 しかも、一人では対応できないと判断した店主が次からは友達なのか、家族なのかを連れてきて対応していた。別に一人で売らなければならないルールはなかったので、頭がいい考えだった。


 ステーキは焼き目を付けるだけとはいえ、それなりに時間がかかり、そこがネックとなり数が伸び悩んでいた。


 メニュー自体はすごくおいしいのだけど、屋台向きではなく、店舗を構えての営業向きだったかもしれない。



 *



 結果は……ローストビーフサンドが優勝した。


 写真映え狙いの若い男女にニーズがあり、一応手に持って食べられること、とにかく肉が食べたいという男性客のニーズもとらえていた。


 そして、ローストビーフはさすがホテル仕込み。やわらかく年配者でも食べやすかった。


 結局、老若男女にニーズがあるメニューが勝利した。蓋を開けてみれば、商売のセオリー通りの結果だった。


 最終日はオーダーストップの18時過ぎにすぐ結果発表した。


 3位から発表で、2位のとき。


『2位、山口シェフのスパイスカレー!』



「「「わーーーーー!!」」」



 周囲の大きな歓声に反して、山口さんは男泣きに泣いていた。散々研究して作り上げてきたカレーが後から参入した兄弟子に負けたのだから。



「山口さん、お疲れ様でした」


「はざっ、狭間さんーーーーーっ! 負けましたーーー!」


「1位は逃したかもしれませんが、先輩方相手に2位ですよ。誇っていいんじゃないですか!?」



 相談に乗り始めたときは、店舗の事どころかメニューも十分考えられていなかったくらいだ。短期間にすごく成長したと思う。


 実際、カレーは鏑木総料理長も認めるほどになっているのだから。


 実店舗なら、売上が1位にならなくてもお店が儲かっていればいいのだから、十分目標を達成していると言っても過言ではない。俺は山口さんの肩に手を置いて、頑張りを労い功績を称えた。



「おう、金髪ーーー」



 口が悪いのは光ちゃん。


 発表後、仕事を片付けて山口さんのところに来たみたい。



「光さん! すいません! 負けました!」



 なぜ、彼女に謝るのか?



「カレーまだあんのー? 1杯食べたいんだけどー」


「1杯くらいならあります!」


「まあー? 最初よりうまくなったみたいだしー? 今度感想くらいは言ってもいーけどぉ?」


「ありがとうございます! ううう……」



 せめてもの慰めか、同情か、はたまた気になり始めたのか、光ちゃんが山口さんに声をかけていた。


 ここの二人がうまくいったらいいんどけどな……


 なんだか心があたたかくなったところで、静かに立ち去ろうと思ったら、光ちゃんがカレーを持ってこっちに来た。



「せんむー、2位のカレーっすよー。はい、あーん!」



 一口すくって口に入れようとしてくる。


 いやいやいや、そこは山口さんにしてあげるところでしょ!


 後退りしていたら、後ろの人にぶつかった。



「あっ! すいません!」


「なんか浮気の気配がしますー」


「さやかさん!」



 マスコミ対応していたはず……



「げーっ、正妻ーキター!」



 さやかさんを見て、光ちゃんが180度Uターンした。



「金髪ーーー! 自分のカレー食ってみーーー!」


「光さん! あーんしてくれるんですか!?」



 あ、やっぱり、いい雰囲気?



「狭間さんはこっちに来てて下さいーーー!」



 俺はさやかさんに襟首掴まれて、連れて行かれてしまうのであった。

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