第110話:朝市の屋台バトルとは

 朝市は、あれからさらに進化していた。旧「入口」を「朝市」に取り込んだだけじゃなく、「入口」と「朝市」を繋ぐ部分にも増設してかなり広くなっていた。


 一番最初の「朝市」から3倍の広さになっていたところに「入口」取り込みと増設で当初の5倍の広さになっていた。場所も増えたら、お客も増えた。スタッフもさらに増やしていた。


 駐車場も広くなり、より多くのお客さんに対応できるようになっていた。店の裏手のキャンピングカー用のスペースも充実して、泊まることもできるようになっていた。


 そして、ここにきてホテルとのコラボ企画として料理人が自ら屋台を引っ提げて得意料理を提供する企画が話題になっていた。


 料理人たちの頂点が決まったら総料理長とガチバトルというのも注目されている事象だった。


 テレビの取材もラジオの取材も雑誌の取材も来た!


 そして、その対応はJD社長のさやかさんが対応した。これがまた話題になっていた。話題になる事柄が多すぎて話題が渋滞していた。


 領家くんは店長見習いとして経験の長いスタッフと共に店全体の面倒を見てくれている。


「朝市」としてもお客さんが一定以上には入ってないとホテル側に申し訳ないので駐車場スペースを一部使って出店などのイベントを開催した。



「せんむー、今回出店増えましたねー」



 横でしみじみ見ているのは光ちゃん。その横には山口さん。山口さんは自分の店の準備は大丈夫なの!?


 ちなみに、さやかさんと東ヶ崎さんはテレビやラジオの取材に対応してくれている。



「毎回同じだと飽きるから、いよいよ本業の的屋てきやさんに依頼しました」


「テキヤってなんスかー?」



 若い子には「的屋」は通じないのか!?



「お祭りの出店なんかを専門でやってる人たちだよ」



 的屋さんは昔から、いわゆる反社会勢力とつながりがあったり、そのものだったりすることがあったが、今回契約したのは、地元でヒーローショーを生業にしていて、その副業で屋台を運営しているという。


 これまでも付き合う人と会社は高鳥家の調査部が調査してくれているのだけど(有料)、今回は一応念入りに調べてもらっている。


 まあ、本業のヒーローショーも呼べるようになったので、これはこれで子供に人気だ。狙って「朝市」に来てくれるようになるのは良いのだけれど、チラシなどで事前告知が必要なので、諸刃の剣だ。今回に限っては「屋台バトル」の宣伝を行うのでそのついでにできるので、ロスは少ない。



「金魚すくいなついっスー。メデキン可愛いー」



 な。あと「懷い」は「懐かしい」か? 彼女とはそんなに歳は離れてないと思うけど、生きてきた場所が全然違うんだろうな。時々分からない……



「亀すくいも人気っスねー」


「ミドリガメね」


「正式名称知ってるっスかー? ニシピッピミシマメマメって言うんスよー」



 それだと「豆」だから。豆って2回も言ってるし! 正しくは「ミシシッピーアカミミガメ」な。ツッコんでいいのか正直分からない。ネタなの?



「せんむー、お好み焼きとたこやき奢ってくださいー」



 光ちゃん、本格的な屋台でお店のことを忘れて楽しもうとしているのでは!?



「今回、『食べ物系』の屋台は控えてもらったんだよ。金魚すくいみたいに『体験型』中心にしてもらったんだ」


「えー!? お好み焼き食べたかったっスー」


「我々も『屋台』を出す訳なので、そっちで食べてあげてください。山口さんとかもいますし!」


「光さん! 僕のカレー食べてくださいよ! ヤバいですから!」


「あうー……」



 あまり嬉しくはないらしい。まあ、光ちゃんは山口さんのカレーを売るのを手伝ってたし、「売る側」って言う意識で食べたいって思わないのかも。


 飲食店とかでバイトしていると、そのお店のメニューが食べられなくなるとか聞いたことあるし。


 ホテルの料理人がお好み焼きを出すかもしれないので、食べ物系は被りを嫌って的屋さんには控えてもらっている。ホテルとのコラボが終わったら出しても面白いかもなぁ。


 実際、タコ焼きは既にあって、すごい人気だ。1日中焼き続けても間に合ってない状態だし。



 *



 メインとなる屋台は非常に面白い展開だった。今回、朝市の「屋台バトル」に参加する料理人は有志だけで20人。料理人が全部でどれくらいいるのかは知らないけど、全部で100人近くいるのかもしれない。


 その中で、「自慢料理」がある20人が名乗りを上げた形だ。流石に一度に全員出店してしまったらホテルの方が手薄になるだろうし、「朝市」としても屋台だらけになってしまう。


 そこで最大5店ずつ出店してもらって、トータル売上金額で競うことになっている。できるだけ条件を揃えるために、営業日数や曜日はみんなトータルでは同じになる様に調整されている。



 山口さんは当然「スパイスカレー」。その他「低温調理ハンバーグ」、「やりすぎ多層ラザニア」、「俺のカレー」、「厚さ10センチとんかつ丼」、「たっぷりローストビーフサンド」、「ナイフが要らない厚切りステーキ」など、聞いただけで一度は食べてみたいメニューが目白押しだった。


 もちろん、「朝市」の俺とさやかさん、「ホテル」の大垣総支配人、鏑木総料理長は試食して価格や店名、商品名のアドバイスを行っていた。(そうでないと既に経験がある山口さんが有利過ぎた)


 「低温調理ハンバーグ」は味もうまいが食感が新しい。1人前1500円と強気価格だが、他と比べると単価が高いので数が出なくてもいいという戦略だ。調理に時間がかかるのが弱点なので、そんなにたくさん出せないので、安くしない方が都合がよかった。


 「やりすぎ多層ラザニア」は通常のラザニアより層が多くて写真映えも期待できる。1食800円が受け入れられるかどうかが勝負と言える。


 「俺のカレー」は山口さんのスパイスカレーの反対の考え、本格欧風カレーだ。1食400円で数の勝負に出たらしい。特別な味という訳ではないけれど、話題性に便乗した商売人らしいメニューと価格設定だった。


 「厚さ10センチとんかつ丼」は、厚さ10センチもある豚肉を10時間もかけて低温調理して加熱し、最後に衣を付けて揚げたとんかつを使ったどんぶりだ。もしかしたら、日本一の厚さのとんかつではないだろうか。それでどんぶりを作るのだから、見た目にも味にも話題になること必至だ。


 「たっぷりローストビーフサンド」はその名の通り、薄切りのローストビーフがこれでもかと挟まれたサンドイッチ。味も間違いなく、断面もキレイで、写真映えも狙った欲張りメニューとなっている。


 「ナイフが要らない厚切りステーキ」はこれまた低温調理で内部まで火を通した上に、専門の機械で強い衝撃波与えて繊維の細胞を破壊して長時間煮込んだ様な柔らかい食感のステーキだ。


 こうなるともはや「料理」というより「科学実験」に近かった。それでも、安い肉で分厚く、柔らかい食感のステーキが提供できる。既に屋台のメニューのクオリティを超えていた。


 ちなみに、以前の「朝市」の問題であった「コンロの火力の弱さ」は、ガスの方は小型のプロパンボンベを導入して、電気の方は動力(200V)のペンダントコンセントを天井から降ろしてIHのヒーターを使えるようにして解消していた。


 本格的な料理も可能になっている。さて、勝負の行方は!?

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