第96話:さやかママ登場
「ただいまー!」
「あ、お帰りなさいママ」
「はい、ただいま。変わりない?」
「はい」
夕方、さやかママが帰ってきた。この人が、さやかママか。美人で想像していたよりも若い感じ。さやかさんのお姉さんと言っても信じるかもしれない。
「お帰りなさいませ」
「はい、ただいま。よくやってくれている様ね、東ヶ崎」
「いえ、とんでもございません」
東ヶ崎さんとは上司と部下みたいな関係なのかな?
「初めまして! 狭間です。すいません、お留守の時に……」
「あなたが狭間さん! いいのよ、高鳥から聞いてますから」
この場合の「高鳥」はさやかパパかな。なんとなく下から上まで見られると値踏みされているような……
*
みんなでリビングに移動した。いつものように、東ヶ崎さんがコーヒーを準備してくれた。
「たまたま時間が空いたからねぇ」
「今回はいつまでいれるんですか?」
さやかさんが質問した。なんだかその表情は嬉しそうだ。
「今日の夜には発つ予定よ」
「そうですか……」
さやかさんが少し寂しそうな表情に変わった。そりゃぁお母さんがいたら一緒にいたいよな。確かに、彼女はもう大学生だけど、いつからかは知らないけど、こんなに家に両親が帰ってこないんだったら寂しかっただろうな。
たまに会ったら甘えたいはずだ。
「あの、夕飯つくったので、よかったら一緒に食べられませんか?」
「あら、ありがとう。狭間さんが作ってくれたの? このにおい気になってたのよ」
「すいません。思ったより強烈なにおいになってしまって。あ、カレーの先生がいて、一緒に作るつもりが、ほとんど作ってもらってしまいました」
「そうなの。でも、気になるわ。いただいて行こうかしら」
「はい」
用事が何にしろ、これで食事は一緒にするだろうから、さやかさんが さやかママと過ごせる時間は確保できただろう。
*
カレーの盛り付けは東ヶ崎さんがやってくれた。彼女が盛るとなんとなく様になっている。お店のカレーに見えるから不思議だ。
「まあ、きれいな盛り付けね!」
やはり、さやかママも東ヶ崎さんの評価が高い。
「全くです。東ヶ崎さん優秀で……俺だとこうはいきません」
「まあ、東ヶ崎だったの。さすが上手ね」
「恐れ入ります」
東ヶ崎さんは表情を崩さない。やっぱり上司と部下的な関係かな? でも、食卓は同じなので、いわゆる主人とメイドの関係ではないらしい。
「カレーもおいしいわ! こんな本格的なスパイスカレーが家で食べられるなんて」
「ネパール人の元シェフと福岡のホテルの料理人の見習いの方が作ってくれました」
「まあ」
「やっぱり、ライさんと山口さんだったんですね!」
さやかさんが話題に入ってきた。
「そうです。彼らはカレーつながりで一緒になると何か面白いことが起きると思って。今日もスパイスについて山口さんがライさんに質問してました」
「合作だったんですね」
「ええ、山口さんのカレースキルが上がってましたよ。ライさん親切に教えてくれていたし、やっぱり人と話すのが好きなんですね」
「そうですか、そうですか。狭間さんも すーっかりライさんと山口さんとも仲良くなってー」
なぜか、さやかさんがちょっと不満そう。ヤキモチ? 彼らは男だからね。
「狭間さんの周囲の人は、狭間さんのためによく動いてくれている様ね」
さやかママがちらりとこちらを見て言った。
「確かに、周囲に優秀な方が多いのでよく助けてもらってますね」
「そう言えば、あの人のチームも動いていたって言うし……」
「あの人」はさやかパパのことかな? 何か頼んだっけ?
「お母様はどんなお仕事をされているんですか?」
「私? 私は主にコンサルね。小規模の会社や店舗のコンサルをやっているの。あの人が大企業、私が中小っていう住み分けね」
「へー、すごいですね! それじゃあ、うちの『朝市』も相談させていただこうかなぁ」
「まあ、本当に困ったらね。まずは、お手並み拝見したいわね」
そう言われるとプレッシャーだな。少し前までは順風満帆と思っていたけど、あと数日でお隣にライバル店がオープンするし、それがあの領家先輩だしなぁ。
「分かりました。もしもの時はお声かけさせてもらいます」
「ところで、さやか その後 大学は大丈夫なの?」
「その後」の「その」とはあのカラオケのことだろうか。
「はい、怖いくらいに何もなくて。学校でもその3人を全く見ないんです。あと、学校で仲良くなった子たちと一緒ですし、さらに、東ヶ崎さんも来てくれたので安心です」
「そう。それは良かったわ」
あれ? もっと根掘り葉掘り聞いたりしないのかな? 実の娘にトラブルがあったのに……それだけ東ヶ崎さんを信用しているってことかな?
その後、食後にゆっくりコーヒーを飲み、また仕事に出てしまった。夜に出るってことは翌日朝から仕事なのかな?
■その日の夜 リビング
「さやかママ……清花さんだっけ? 結局5、6時間しかいなかったですね」
「はい。ママは忙しいし、基本パパのところに行くので」
やっぱり少し寂しそうな さやかさん。
テーブルの隣に座っていたので、手を握る。
「昔からですか? 寂しかったでしょう?」
「私には東ヶ崎さんもいたし、今は狭間さんもいてくれます」
「大丈夫ですよ。俺も東ヶ崎さんも さやかさんと一緒です」
ふ、と さやかさんが微笑んだ。
「それにしても、ライさんも山口さんもよく狭間さんのために動いてくれてます」
「二人ともカレーつながりでしたから。それより脈絡もなく夕飯がスパイスカレーで清花さん大丈夫でしたかね?」
「ママ喜んでましたから、よかったと思います。それよりも、ママも狭間さんのことを沢山聞いていました。興味があるんだと思います」
「そうですかねぇ。俺は特に普通の人間なんで……」
「そうかもしれません。でも、だからこそ みんな狭間さんを信じてますし、付いてきているんじゃないでしょうか」
そう言ってくれた彼女もまた俺のことを信じてくれている。俺は益々頑張る必要があるな、と感じた。
それはそうと、さやかママの視線が少し気になった。値踏みしていると言うか、どこか信じていない人を見る目。
まあ、初対面だし、娘の彼氏だし、思うところがあるのかもしれない。
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