第90話:外国人の苦悩とは


「狭間さん、ひかるさんと仲良くなってましたね。なんで誰彼構わず仲良くなっちゃうんですか!?」



 車中でなぜか責められている。でも、やきもちは嬉しいもんだ。


 「光ちゃん」は下の名前なんだけど、中途半端に引きずられて さやかさんが「ひかるさん」って呼ぶのも面白い。


「光ちゃんはうちの社員ですし」と言いながら、さやかさんの頭でも撫でておくか。



「うぅー、狭間さんが頭を撫でるー。私 騙されてるー。狭間さんの女たらしー。人たらしー」


「人聞きが悪い……」


「私も たらされてますから! 東ヶ崎さんもそう思うでしょ!?」



 運転中の東ヶ崎さんにも話を振るさやかさん。



「はい、私もはざまさんに たらされてます」



 もはや、なんかちょっと卑猥に感じるし……東ヶ崎さんの口元が笑ってる。絶対いま俺は揶揄われている!



「今から私も たらしに行きます!」



 さやかさん、その言い回しは何とかならないもんか……



「なんか良い人いたんですか?」


「はい、ビビッと来ました! 実はもうアポ取ってます」



 *



 30分後、喫茶店で会ったのは……



「こちら、ネパール人のライ・ラプタさんです」


「ライ・ラプタです」


「誰ーーーーー!?」



 褐色の肌の外国人がそこにはいた。全然話が見えてこない。


 喫茶店で俺とさやかさんが並び、向かいにこの謎の人物が座っている。東ヶ崎さんは、その隣。



「あのー……さやかさん?」


「この間、コンビニで働いておられるのをお見掛けしてビビッと来たんです。まあ、お話を聞きましょう」


「……はい」



 何か考えがあってだろう。さやかさんに従った。



「現在のご職業を教えてください」



 さやかさんが尋ねた。



「ゴショクギョ?」



 難しい日本語はダメらしい。



「Whats your job?」


「Oh,job!」



 東ヶ崎さんが通訳にまわった。この人、通訳もできるの!? 凄過ぎない!?



「コンビニ スタッフです」


「ご出身……どこの国から来ましたか?」



 さやかさんも簡単な日本語に切り替えたみたい。



「ヌパー です」



 ヌパー…ネパールか! 俺には違う単語に聞こえる。ネイティブの英語だ。高卒の俺的にはドキドキする。



「コンビニではずっと働きますか?」


「うーん、かんがえチュウです」


「それはなぜ?」



 次々さやかさんが訊いていく。



「お店もうすぐなくなります。スタッフいらなくなる」


「潰れるってことですか?」


「ツブレル…?」


「Bankruptcy」(ボソッ)



 困った時は東ヶ崎さんが登場。相変わらず、タイミングなども絶妙だ。



「オー! チガイマス。『ガッテイ』です。Store merger!」


「合併らしいです」


「合併!」


「そう、『ガッペイ』です!」



 所々、東ヶ崎さんがサポートしてくれるのでちゃんと話ができてる。


 うろ覚えだけど、ネパール人は英語が使えるはず。少なくとも一般的な日本人より熟達していたはずだ。


 ここからは、割と込み入った話で彼が英語で話すのを東ヶ崎さんが通訳する形で話を聞いた。



 コンビニはブランド合併で近所にある店舗と一つになるらしい。だから、スタッフは半分ほどにされるので希望退職を募っている最中とのこと。


 彼にはそのコンビニ以上の職は無く、困っているとのことだった。


 もしかしたら、ビザとかあるなら失業してると申請も難しいのかも。



「日本語はむずかしいですか?」



 俺も一応質問してみた。



「はい。とてもむずかしい」


「でも、コンビニで働いてますよね?」


「コンビニはコトバをベンキョーするがっこーがあります。コンビニようのことばのがっこー」



 新事実! そうだったのか!



「日本人はYesとNoがむずかしい」



 そうかな。



「『いいです』はYes? or No?」



 なるほど。



「『Excuse me.』は『すいません』。『Thank you』も『すいません』。『sorry』も『すいません』」


「た、たしかに……」


「『タバコは吸わないです』も『すいません』」


「確かに!」


「これは、にほんごがくせいのジョークです」



 ニカッと笑って言った。面白い! この人意外に面白い!



「どんな仕事がしたいですか?」



 今度は、代わってさやかさんが質問。



「ヒトとはなすシゴトがしたいです」


「例えば?」


「うーん、うるシゴト。オキャクサンからシツモンされて、ワタシがコタエマス」


「イイですね!」



 あ、さやかさんに、カタコト日本語が伝染うつった。



「ワタシ、オキャクサンたすけます」


「狭間さん! 私、この人 雇いたいです!」


「ええ!?」


「何の仕事頼みますか!?」


「うーん、まだ分かりませんけど……」



「朝市」での品出し? 販売? いまいちピンとこない。



「ナンデスカ?」


「My boss wants to hire you.(私の上司があなたを雇いたいと言ってます)」


「me!?(私!?)」



 東ヶ崎さんが、何か通訳してくれている。いいのか、そこまで話しちゃって。


 さやかさんは、謎の行動力を見せるからなぁ。彼のことは一旦保留にしてもらって帰りがけに相談だな。



「あ、最後に。カレーは好きですか?」



 さやかさんが聞いた。興味津々みたいだ。



「カレーダイスキ。ヌパーからスパイスをオクッテもらってる。ワタシつくります」


「!」



 カレーというキーワードで山口さんと繋がりそうだけど、それだけで1人雇ってしまうのは危険だ。


 その後も、色々聞いてからその日は保留にして別れた。



 *



 帰りの車の中だった。俺のケータイが鳴った。


 スーパーバリューのオーナー店長平井さんが倒れたらしい。そして、俺とさやかさんを呼んでいるらしかった。


 俺達は翌日オーナーの所に向かうことにした。

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