第88話:僕のスパイシーカレーとは
今日は木曜日、平日だ。お客さんの数もそこそこだから余裕がある。時間的には山口さんの「カレー屋デビュー」の日となる。ゆっくり対応できるのはこちらとしてもありがたい。
時間的にもまだ朝の9時。昼の時間にカレーが準備できていればいいので、3時間もある。時間的にも、心的にも余裕がある。
さやかさんと東ヶ崎さんは裏で書類仕事が待っているので、処理してくれている。凄く助かる……
*
必然的に俺が「屋台」の方を担当することになった。
「屋台」は基本的に縁日などの夜店の屋台と同じくらいの大きさ。ただ、持ち運んだりする必要がないので、木でガッチリ組んである。
底には、キャスターとストッパーが付いているので、「朝市」の建物内を楽に移動させることができる。
カレーを作るには、炊飯器でご飯を炊いて、カレーを鍋に作れば完成だ。
別に100人分も200人分も作る必要はない。そんなにたくさんお客は来ないのだから。それに、今日は試食の日。20人前くらい作れば十分と考えているし、山口さんにもそう伝えてある。
「じゃあ、山口さん荷解きを始めて料理に取り掛かれるよに準備してください。水はあそこから汲んでくるようになります。電源は天井からぶら下がっているコンセントから引っ張ってください」
「分かりました」
山口さんが荷解きを始める。それほど多い訳じゃないけど、運びやすいようにまとめてあった。
「光ちゃんは、うちから貸出するフライパンとかお皿とかを持ってきてあげてください」
「はいー、了解ですー」
光ちゃんが敬礼と共に荷物を取りに行く。
「狭間さんーーーーー!」
「どうしたんですか!? 山口さん!」
光ちゃんの姿が見えなくなったと同時に、山口さんが袖に掴まってきた。早速トラブルだろうか。
「ナンすか、あの可愛い子! あれも狭間さんの彼女ですか!?」
んー、「あれも」ってなんだ。「あれも」って。彼女は さやかさんしかおらんわ!
「彼女は、うちのスタッフです。社員ですね」
「でも、下の名前で呼んでたじゃないですか!」
「ああ、彼女は……」
説明がめんどくさい……
「そういう子なんです」
「どういう子なんですかっ!?」
不毛なやり取りをしていると、光ちゃんが両手にフライパンやら鍋やら炊飯器やらを一気に持って来た。マンガだったら、目の前で全部ぶちまけるやつだな。
と、そう言っているそばから、屋台まであと少しの何もないところで躓いて盛大に転んだ。
ガッシャーーーーーン!!
「あーーーーーーー!」
「だ、大丈夫ですか!?」
俺と山口さんが駆け寄り、光ちゃんを起こしてあげて、あちこちにぶちまけた炊飯器やらを拾う。なぜ一度に全部持ってくる!?
「
「大丈夫ですか?」
派手に転んだから、ケガしたかもしれない。
「大丈夫っすー。ほらー、お皿はステンレス製だし。炊飯器は電気が入るか見ないとだけどー、凹んでないですー」
「いやいや、光ちゃんの方が、です。ケガしてたら大変でしょう?」
「せんむー、すげー! 惚れたかも。ケッコンをゼンテーにオツツキアイしてくださいー」
90度のお辞儀と共に言われた。
……冗談にしてはセンスがない。しかも、
「あーあー、ありがとうございます。彼女に相談してみまーす」
「アハー、ソッコー、フラれたー」
なんか余裕あっていいなぁ。きっと俺よりリア充だろうなぁ。
「狭間さん、やっぱり!」
今度は山口さんだ。色々めんどくさいし! なんか似てるな、この二人!
「あー、これは彼女の冗談ですからー……」
「光さん! 狭間さんがダメなら僕と付き合ってください!」
「んだと!? 誰だ、
口悪るっ! でも、光ちゃんのゆっくりした口調だとなんか、笑えてくる。
「どこ中だー、てめー しめっぞ、ゴラァーーー」
「あー、光ちゃん。こちら、山口さん。お客様だから。タンカを切らない様にー」
「
態度が180度変わって、可愛く接客し始めた。掌を頬に当てて、笑顔でポーズは可愛らしく見えた。この子も相当面白い子だった。掘り出しもんだよ、もう。
「いいとこ見せて、光さんに認めてもらうんだ」
そういいながら、カレーの準備を始める山口さん。もう、目的が変わってるから! カレーショップ!
***
予定では1時間ほどでできるはずが、倍の2時間かかってカレーが完成した。最初なので色々手間取ったのと、コンロがカセットコンロで火力が思ったより弱かったらしい。
保温程度ならば問題ないのだろうけど、調理となると……
屋台は移動可能なので、ホースをつないでガスを使うのは大変だ。IHに変えて電気にすれば改善できるのか、こちらとしても調査が必要だ。
長時間煮込むものは家で調理することになり、食品衛生法に引っかかってくる。対策としてその場合は、朝市で煮込んでもらう必要があるので前日から入ってもらう必要がある。
ただ、山口さんのカレーは1人前なら30分もかからないそうなので、当日の調理で対応が可能だ。
試食を配ってみて、その結果もまとめることになった。
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