第87話:高級車とコンビニとは

 ホテルの方の問題にも取り組んでいる最中だ。山口さんの問題を何とかしないといけない。あれから約1か月経ってしまったけど、山口さんがカレーを出せる状態になったらしい。


 まずは、営業じゃないけど「試食」で出してみることになった。ちゃんと平日を選んだので、「朝市」もそれほどお客さんは多くないはず。


 材料や調理道具を持って行くので、最初だから俺たちが車で迎えに行くことにしたのだ。


 荷物が乗るって意味ではレクサスのSUV。以前は泥付きの野菜をたくさん乗せたけど、今度はカレーの材料を乗せることになろうとは……


 今日も東ヶ崎さんが運転してくれている。俺たちは、山口さんの家の前まで迎えに行くことにした。彼の家は福岡市内にあり、マンションの1階に車を付けた。マンション前は少し道幅が狭い一方通行。手早く荷物を積んだら移動することにした。



「おはようございまーす! 狭間さん! すごい車ですね!」


「おはようございます。荷物が乗るのがこれしかなくて……」



 段々、さやかさんと同じようなことを言うようになってしまっている……しかも、これ借りものだし。



「あの……こんな高級車にカレーの材料載せても大丈夫ですか!?」



 うん、以前の俺と同じようなことを言ってる。まさか、一千数百万円の車にカレーの調理器具とスパイスを載せると思わないじゃない? まあ、泥付きの野菜を載せたのは、俺くらいじゃないか?


 荷物を積み込んで出発!



 こういうときって、席順が難しい。東ヶ崎さんが運転するので、必然的に運転席。山口さんはお客さんなので、後部座席の左。奥側という説もあるけど、乗り込んでからシートを横に移動するのはめんどくさい。ドア側が最上位でいいと思う。


 俺が助手席に乗れば、さやかさんは後部座席の右になる。



「しゃ、社長さん! お、おはようございます!」


「はい、おはようございます」



 後ろでは、山口さんがさやかさんに挨拶していた。荷物の積み込みがあるので、降りなくていいと俺が言ったから車内で挨拶することに……



「今日は、僕のためにありがとうざいます!」


「はい。おいしいカレー期待していますね」


「は、はいっっ!!」



 ニッコリ営業スマイルのさやかさんに山口さんが飛び上がる様に恐縮していた。まあ、無茶苦茶 高級車で迎えに来てしまったし……ホントにこれしかなかったんだよ。彼には さやかさんがどんな人として映っているんだろう?


 それにしても、さやかさんの営業スマイル。あれは、もしかしたら大学にいる時の「クールさやか」では!? ちょっと見たい気がする!



「あ、あの! すいません! 途中、コンビニに寄ってもらえないでしょうか!」



 しばらく移動したところで山口さんが申し出た。



「あ、いいですよ。東ヶ崎さん、コンビニ見つけたらお願いします」


「かしこまりました」



 コンビニに車を停めて店に入ると、山口さんが飛びついてきた。



「狭間さん! 狭間さんって何者なんですか!?」


「なんのことですか?」



 ちょっと、なんで山口さんがこんなに動揺しているのか分からない。



「なんなんですか! あの高級車! 走る財産じゃないですか!」



 うまいこという。



「あと、美人運転手!」



 あ、東ヶ崎さんが喜ぶかも。



「あと、美人社長の隣とか、僕 心が持たないです! 何とか席替えするか、狭間さんも後ろに来てくださいよ!」



 ああ、それか。できるだけ広く座ろうと思ったど、居心地悪いとかえって良くないよな。



「分かりました。じゃあ、俺も後部座席に移動します。ちょっと狭いくなりますよ?」


「あんな広い車、僕 乗ったことないですから! なんか落ち着かないですよ!」



 それは申し訳ないことをした。俺も感覚がマヒしてきているところだ。


 コンビニに寄らせてもらったので、場所代がてらコーヒーを買う。最近のコンビニコーヒーは味も中々侮れない。



「山口さん、コーヒーご馳走しますので、1個持ってもらえます?」


「? いいですよ?」


 俺は、さやかさんたちの分も含めて4個コーヒーを買って、2個ずつ運ぶことにした。



 ■同時刻コンビニ外では……


 一人の肌が褐色の男性がコンビニ周辺を履き掃除していた。



「しゃっしゃっせー!」


「あ、どうも」



 さやかと東ヶ崎は座りっぱなしも何だと思って、一旦 車外に出て身体を伸ばしていた。狭間と山口が気軽に話ができるように店内に一緒に入るのは控えたようだ。


 飲み物は狭間が買ってきてくれるだろうと、さやかはぼんやり考えていたので、わざわざ店内に入る必要もない。


 そこで、褐色のコンビニ店員に挨拶された。日本人じゃないので、年齢は分かりにくいけれど、まだ20代だろう。



「オジョウサン、いー車に乗ってますね!」


「ありがとうございます。日本語お上手ですね」


「アイガトございまーす。ごゆっくりドーゾ」



 そういうと、男は再び掃除に戻る。


 その作業は中々に細かく、いわゆる「やらされ仕事」ではなく、隅まで気を入れて掃除していた。


 さやかは何となくその男性が気になり、ぼんやり眺めていた。



 *



「お待たせしました。コーヒー買ってきました」


「あ、はい。行きましょうか」


「あ、後半は俺も後ろに乗ります」


「? はい。分かりました」



 無事、運転席に東ヶ崎さん、後部座席に山口さん、俺、さやかさんという並びでスタートするのだった。



「あ、コーヒーだと零れますか?」



 東ヶ崎さんがカップホルダーに紙コップのコーヒーを置いたまま走り出したので、山口さんが気にしたみたいだ。



「東ヶ崎なら、秋名山でもコーヒーを零さずにドリフトできますから大丈夫ですよ」


「ド、ドリフト!? 安全運転でお願いします」



 冗談のつもりだったのに、世代が違うのか空振りに終わってしまったようだ……






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