第83話:若き料理人の悩みとは
「狭間さん! カレー食べていきませんか!?」
なんか、ついさっきのデジャヴを感じるのは気のせいか!?
厨房で金髪で短髪の山口さんに声をかけられた。休憩に行っていいことと、カレーの話を聞きたいことを告げると、スキップしそうな勢いで準備してくれた。
若い! 21歳ってこんなだっけ……?
*
ところ変わって、休憩室。
ここは、料理人が仕込みの間などに休憩したり、事務仕事をする部屋だ。長テーブルを2つくっつけて正方形に近くなった机に、パイプイスが6つ。残りは畳んで壁に立てかけてある。
打ち合わせなんかする時は、あのパイプイスがフル活用されるのかもしれない。
「これが僕のカレーです! ぜひ、お二人食べてみてください!」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
長テーブルの上に小皿よりちょっと大きいくらいの皿にカレーだけが入ったものが一つ。そして、ご飯が盛られたお皿が一つ、それぞれ俺とさやかさんの前に1セットずつ置かれた。
山口さんに促されて、俺とさやかさんは休憩室でカレーを食べていた。なんか変な空間だな……
「あ、美味しいです!」
先に声を上げたのはさやかさん。感想が早い!
「美味しいでしょ!? どうですか? どうですか? 狭間さん!」
「うまいです」
いや、そんな聞かれ方したら、それ以外言えないんだけど……
「僕は、スパイスの最高の組み合わせを見つけたんです!」
「ほほう!」
「ターメリック、クミン、コリアンダーを1:1:1なんです!」
「へー」
そう言われても、カレーのスパイスのことなんて、こっちはさっぱりだし……コンサルは何でも知ってる必要があるんだろうか……食べ物関係の悩みだったら山岡さんしか解決できないんじゃないだろうか。俺では究極のカレーみたいなものはできないし。
「辛さは好みで、チリペッパーを小さじ半分くらい……」
「山口さん、それはご自分で?」
「はい、そうです。YouTubeを見てスパイスカレーにハマって、YouTuberの人のレシピを元にしてアレンジしました」
うーん、何からツッコめばいいか……頭ごなしに否定すると若い芽を摘むことになる。こういった話は話し方が難しい。
「それで、山口さんはどうしたいんですか?」
「自分の店を持ちたいんです!」
「それは素晴らしい!」
「このカレーで勝負したいんです!」
「と、いうと具体的には店舗の目処とか資金の目処とかは……?」
「これからです。クラウドファンディングとかで資金を出してもらおうかと」
「なるほど…」
俺は無意識に顎を触っていた。人は悩んだときになぜ顎を触るのか。
「俺達 森羅万象青果をやっていますが、実はコンサル会社もやってます」
「わお! マジですか!?」
「山口さんの話を聞く以上、絶対成功してもらわないといけないので、具体的にお聞きしますね」
「何でも聞いてください! 厳しいってのも分かってますから!」
「これは、ちゃんとしたデータか分かりませんけど、飲食店は2年後までに50パーセント、3年後までに70パーセントが廃業するって聞いたことがあります」
「めちゃくちゃヤバイじゃないですか!」
「できるかどうか分からない博打みたいなのは商売とは呼びません。それは単なる博打です」
「……そっすね」
「俺達コンサルは100パーセントはないにしても、成功するべくして成功する仕掛けを準備します。お店オープンの時には勝ちは確定している状態です」
「なんか凄いですね!」
「クラファンは、既に山口さんのファンの人がいないと、何にもないのに他人にお金を出してくれる人はいません」
「……はい」
「そうなると、ファンを増やすとこから始めないといけないです」
「あー……」
山口さんがちょっと脱力した。「そりゃダメだ」と思っているのかもしれない。
「あと、お金。飲食店だと普通のお店で2000万円くらい、
「居抜きって何ですか?」
「居抜きは、既にカレー屋さんをやってた店舗が廃業して、設備なんかはそのまま残ってる物件をいいます」
「なんかそこでカレー屋やって潰れたのに、僕がやっても潰れそうですよね……」
「新店舗は自由にレイアウトとかもできるんてすけど、2000万円ですからね……」
「そっかぁ……」
休憩室の空気が沈む。これで彼のやる気が起きるとは思えない。
「狭間さん、『朝市』のあれ。そろそろ解禁しようと思ってたんですけど、どうですか?」
さやかさんが話に入ってきた。
「朝市の……? ああ! あれ!」
「なんですか? あれって」
山口さんが前のめりだ。
さやかさんが、休憩室で立ち上がり、どや顔で話し始めた。
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