第81話:人材と土地とは


「パパ、単刀直入に言うと、『朝市』のために人材と土地を借りたいの」



 高鳥家の飲み会(?)または夕食会(?)でさやかパパの興味深い話の腰をブチ折って、本題をねじ込んできた。



「土地はねぇ、もう買ってるから建物を増やしたいなら増やしてもいいよ。その代わり、もっと儲けてよね」


「それは、善処します」


「あと、もっと敷地を広げるかもしれないから、追加で土地の買収を……」



 さやかさんが、そこまで言いかけたところで……



(プルルルル)「あ、ごめん、ちょっと電話だ」


「はい、どうぞ」


 さやかパパが、横を向いて電話をし始めた。



「ハニー! どうしてるー? うん、うん……」



 どうやら、さやかママかな?



「え? どういうこと? えー、嘘ーーー。あとでギクシャクするの嫌だよぉ?」



 何か揉め事かな?



「大丈夫だって、いま一緒にお酒飲んでるしぃ」



 どうやら東ヶ崎さん関係かな?



「絶対後で怒られるから……分かったよ。うん、じゃあね。愛してるよ」



 さやかパパが電話を切って、テーブルの上に置いた。



「なんでもなかった」



 嘘だーーーーーっ!



「あ、ごめん。話なんだっけ?」


「そう! 土地です。『朝市』の土地を広げたいんです」


「あーーー、あそこねぇーーー。それが、広げた後の隣は誰かに買われちゃったみたいでさ」


「そうなんですか?」


「うーん、『朝市』の成功で地価が上がってると思うんだけどねぇ」


「しょうがないですね……」



 さやかさんが少し不満そうだけど、引いたみたい。



「あとさ、いい人はさぁ。そんなにポイポイいないからね?」


「サウザントでもハンドレットでもいいから、いないですか?」


「うーんとねぇ」



 さやかさんにしては、強引な話の運びじゃないかな?



「どんな人がいいの?」


「アイデアがたくさん出て、そのアイデアを実行できて、アピールはするけど、謙虚で人当たりが良くて、何より信頼のおける人……ですかねぇ」



 唇の下に人差し指を当てて少し上を見ながら さやかさんが答えた。そんな人材いる訳がない。そんなのサウザントだよ。東ヶ崎さんクラスだよ。



「東ヶ崎ちゃん、誰か心当たりない?」


「ちょっとデータベースを当たってみま……」


「やっぱり後で! 食事の時は食事! 仕事の話はあとで!」



 東ヶ崎さんが言いかけたところで、さやかさんが止めた。



「そうだね、せっかく作ってもらった料理だし、温かいうちに食べようか!」



 さやかパパも同意だったらしい。


 とりあえず、土地は使っていいようになったし、近況報告もできた。当初の目的は既に達成しているのに、なんか変だったな。後で聞いてみるか。



 結局今回もたくさん話を聞いて、飲んで……へべれけになるまで飲まされてしまったのだった。



 ■翌日夕方

 夕方まで二日酔いから抜けられなくて大変だった。ようやく何とか頭痛くらいで何とかなるとこまで復活した。


 さやかパパは翌日朝からどこかに飛んで行ってしまった。本当に忙しい方だ。そして、酒が強い!


 リビングで出された野菜スープを飲みながら、さやかさんに訊きたいことがあったのを思い出したので訊ねてみた。



「あれ何だったんですか?」


「あれって何ですか?」


「昨日、チルドレンの話が出たら、強引に話題を変えて……」


「ああ、チルドレンはいいんですけど、その説明のために東ヶ崎さんを引き合いに出していたじゃないですか!」


「はい」


「あれが嫌でした! なんかもっと、普通に接したいのに……」


「さやかさんの中では、東ヶ崎さんはあくまで『お姉ちゃん』なんですね」


「まぁ、私はあんなに優秀じゃありませんけど」



 ちょっと拗ねてる。可愛いな。だから、東ヶ崎さんが調べ物をしようとして席を立とうとしたとき止めたのか。


 あんな状況じゃないと、東ヶ崎さんは さやかパパと一緒に食事をしたり、まして隣に座るってのは難しいのかもしれないな。


 さやかさんはそれを守りたかったってことか……

 姉思いの良い妹じゃないか。



 ■同日夜

 その後、リビングのソファでテレビを見ていたら、東ヶ崎さんが目の前の床に座った。



「狭間さん、ありがとうございました」



 なんか、今度は東ヶ崎さんから深々とお礼を言われてしまったけど、全く身に覚えがないんだけど……



「修二郎様と食事ができて、夢の様でした」


「俺は全く何もしてませんよ?」


「でも、狭間さんが来られてから ゆっくり食事をしたりお酒を飲まれたりする機会があって、私も料理作らせていただいたり、お世話ができて嬉しいんです」



 その表情は本当にうれしそうだった。何一つ俺の手柄じゃないのにお礼を言われるとこそばゆい。



「本当にさやかパパのことを好きなんですね」


「好きなんて、私如きがおこがましいです。尊敬申し上げているだけです」


「うーん、何となく羨ましいなあ。そんな風に慕ってもらえて。俺がさやかパパの年になるころに、未来の東ヶ崎さんみたいな人に同じように慕われている未来は全然想像できないし」



 羨ましいのか、嫉妬なのか、さやかパパの偉大さを感じてしまった。



「そんなことありませんよ。狭間さんはすごい方です。あのお嬢様が選ばれた方ですから」


「まさに、それだよね! 俺のどこがいいのか……全然分からないから、アピールのしようが無くて……」


「ふふふふふ。これはお嬢様大変そうですね」



 東ヶ崎さんが楽しそうなんだけど……まあ、楽しいならいいか。


 今日は頭が痛くて何もできないけど、明日は「森羅」関係でホテルに行くことになってるし「朝市」の方も見に行くことになってる。


 忙しい一日になりそうだ……



 ■おまけ

 ちなみに、東ヶ崎さんが「サウザント」だとして、5000人に1人の逸材だとして、そんな人が10人も20人もいるとしたら、「チルドレン」は10万人とかになってしまう。


 日本の人口が1億2000万人だから、10万人ってなるとあり得ない数字じゃないかと思って東ヶ崎さんに聞いてみた。



「あ、それなら海外もあるからです」


「か、海外……」


「最近 うかがった話だとガーナとか、フィリピンとか……」


「ガーナ……チョコレートの……」



 フィリピンはまだしも、ガーナとかってチョコレートのイメージしかないな……



「ガーナの方にしてみたら、チョコレートは全く知らなかったって言われてましたよ」


「そうなんだ……」


「ボクシングが盛んで、日本の子どもが野球やサッカーをするようにボクシングをするそうです」


「全く知らなかった……」



 日本人10万人支援してたらいくら稼いでも追いつかない。人数も規模も発想もやっぱり俺の考えているところを完全に超えていた……

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