第75話:スーパーの人に話を聞くとは

 アポの時間はスーパーの方が先だった。「領家りょうけ先輩」案件は気になるけど、スーパーが先だ。



「着きました。教えていただいた場所のスーパーです」



 東ヶ崎さんが到着を知らせた。

 ここは、「スーパーバリュー」という名のスーパー。



「市内でも割とはずれの方ですね」


「この辺りは昔から住んでいる方が多くて、どちらかというと年配者が多い場所ですね」



 古いスーパーに裏の従業員 出入口から入った。



 *



 スーパーの従業員用事務所は意外に狭かった。10畳程度しかなく、高鳥家のリビングの方がずっと広いほどだった。


 かなり年配のオーナー店長を さやかさんに紹介した。とりあえず、名刺交換。



「株式会社さやかの高鳥さやかです」



 ニコッと笑顔で名刺を出す。新入社員感は抜けきれないけれど、だいぶ様になってきた。


「平井です」



 オーナー店長の名刺を受け取った。



「どうぞ」


「ありがとうございます」



 安普請なテーブルに使い古した湯呑にお茶が出てきた。色々言わなくてもこのスーパーがあまり儲かっていないのは明白だった。その上、70歳はいっているであろうオーナー店長で5年後、10年後は考えても大丈夫なのか……



「狭間さん、久しぶりたいね!」


「ども! いつもお世話になってます」



 未だに野菜を納めさせてもらってる。少し世間話をしてから本題に入った。



 *



「スーパーなんてやるもんやなか! いっちょん全然儲からん!」



 年配オーナー店長がそこからスーパーについて話し始めた。



「でも、赤字という訳ではないんでしょう?」



 さやかさんが無邪気に聞いた。



「持ち出しこそないけど、商売としては儲からんよ!」



 自己資金を使ってまで運営している訳ではないということなので、本当の意味で赤字ではないらしい。ただ、働くだけ働いて利益が出ないのも赤字と言っていい。



「失礼ですけど、ご年齢的に引退はお考えではないんですか?」


「辞められんとですよ」


「どういうことですか?」


「この店がなくなったら、この辺一帯のおじいちゃん、おばあちゃんの買い物するとこがなくなるったい!」


「それだけ大事なお店なんですね」


「そうそう!」



 ほんとに地域に根付いているお店らしい。



「お店の中を見せていただいてもいいですか?」


「よかよ! あんたんごたあなたみたいな若ーかー人が若い人が見てってってくれたら見ていってくれたら、店も若返えろーごたー若返るかもしれない



 年齢的に博多弁が強いので、さやかさんには多分あんまり伝わってないな。



 *



 お店の中で働いている人は女性が多いようだ。パート従業員と言ったところか。



「すいません、少しお話いいですか?」



 さやかさんが、歳の頃なら60歳という感じの女性従業員に声をかけた。



「あら、可愛い子! 私の若い時とそっくり! いいわよー、どうしたの? なに聞きたい?」



 どうして、この年齢の女性はそういうジョークを言うのか。



「このお店で働いて長いんですか?」


「そうねぇ、もう10年? いや、20年かな」



 長い! パートで10年って……そして、10年か20年って幅が広い! 多分、さやかさんが生まれる前から この人はここで働いていたのだ。



「お困りのことはありますか?」


「そーねー、店長が死ぬことかなぁ、死んだらお店つぶれちゃうからねぇ、あっはっは!」


「……」



 このツッコめないやーつーもジョークなのか……さすがの さやかさんでもとっさの返しは思いつかない。



 設備、売り場、働いてる人、色々見せてもらった。「こんな」というと失礼だが、これだけボロボロになったスーパーでも各所に仕入れ元は持っている。


 ある程度の従業員は必要なので人件費は必要なのに、劇的にお客さんが増える見込みはない。つまり、出費は決まっているけど、収入はどんどん減っている状態。設備の入れ替えまで考えると、ドンとお金が出て行くことが決まっている。


「先細りの商売」とオーナー店長が表現した。この日は、話を聞いただけで、お礼を言って帰った。


 仕入れ先を教えてもらっても、そのビジネスが儲からないのならば参入する意味がない。ちょっと考える必要があるかもしれない。


 比較的すぐに引き上げたのは、もう一つの件も気になっていたからだ。そう、あれだ。

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