第73話:スーパーの仕入れ元とは

「今まで考えたこともなかったんですけど、スーパーって結構難しいです」


「お店でメモしてましたね。ちょっと見せてください」



 さやかさんが作った夕食を食べた後、リビングでくつろいでいる時に俺が話し始めた。


 ちなみに、夕食のメニューは「カレー」。キッチンで さやかさんと東ヶ崎さんが並んで料理をしている姿は見ていて微笑ましかった。


 二人して、俺のためにご飯を作ってくれていると思うと、もはや罪悪感というか、背徳感というか、なんだか悪いことをしているような気さえしてきた。


 それでも、あのエプロン姿はとてもいい! 特に後姿がいい! もういいです。俺変態で結構です。


 おっと、メモの話に戻るか。



「これです」



 さやかさんと東ヶ崎さんがいるテーブルの上に置いた。



「野菜、肉、鮮魚、酒、雑貨、パン、弁当、総菜、花、加工食品、牛乳、たまご、ごみ袋」



 これらは全て別々のところから仕入れていると思われるものだった。



「思った以上に多くないですか!?」



 さやかさんが驚いていた。



「たしかに、多分、コンビニもこんなもんだから、個人で始めようと思ったらかなり大変ですね」



 コンビニはなんだかんだ言って本部から一括で手配なので、一つ一つ仕入れ先を探す手間はない。その代わり、高いフランチャイズ料を支払う必要がある。



「これを3つのグループにしました。『A:すでに手配できる』『B:手配できそう』『C:見当がつかない』です」




 A(すでに手配できる):野菜、弁当、総菜

 B(手配できそう):肉、鮮魚、パン、花

 C(見当がつかない):酒、雑貨、加工食品、牛乳、たまご、ごみ袋



「野菜は言うまでもないですが、弁当と総菜は既に『朝市』で出してます」


「そうですね」


「『肉』は一括りにしてますが、『牛肉』と『豚肉』と『鶏肉』で別の仕入れ先の可能性があります。商店街なんかではいまだに『鶏肉専門店』もありますし」


「確かにそうですね」



 さやかさんが感心しながら話を聞く。



「加工技術が必要なので、精肉店に入ってもらうことになります」


「そうですね」


「同様に、鮮魚は、鮮魚店に入ってもらう必要があります」


「はい」


「パンは、『朝市』でも焼けそうですが、窯くらいは準備が必要です。花は市場からの仕入れなので簡単には入れずに、やはり花屋さんからの出店を募る感じです」


「『B:手配できそう』だけでもかなりの参入障壁ですね」


「はい」



『参入障壁』とは、新しく同業他社がその業界に入るときの「入りにくさ」のこと。分かり易い例だと、「飛行機」だ。


 機体を買うのも高いし、空港の使用にも許可が必要で、費用も高額だ。整備する場所も必要だし、整備士もいる。しかも、迂闊に参入したら、従来の会社が運賃を値下げして期待した収益が上げられない。


 こう考えると、スーパーは周囲の生活には欠かせないものでありながら気軽に始められない業種と言える。


「お酒は酒屋さんでしょうけど、見当がつかないのは、牛乳やたまごはどこから仕入れたらいいのか……」


「思った以上にハードルが高そうですね」


「実は、1件当てがありまして……以前、俺が激安で野菜を卸していた店覚えてますか?」


「ああ、あの もはや狭間さんとの個人取引みたいになってたとこ!」


「そうです! あそこのオーナーと話が聞けます。行ってみますか?」


「もちろんです!」



 明日の仕事がどんどん忙しくなっていく。自分で進めて、自分が忙しくなる。マッチポンプ、マッチポンプ。

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