第71話:帰り道の車の中は
帰りの車では、東ヶ崎さんが運転してくれた。後部座席に俺とさやかさんが座ったけど、さやかさんはずっと俺に抱き着いていた。
「もう大丈夫ですよ」
「……」
返事はない。
ここで、俺は気づいたけど、普段ケンカなどしないので、ここにきて手が震えていた。相手が大したことなかったから何とかなったけど、そうでなかったら今頃どうなっていたのか……
それにしても、東ヶ崎さんに調べておいてもらってよかった。やっぱり彼女の仕事に無駄はない。
「……狭間さん?」
俺に抱き着いたままで さやかさんに呼ばれた。
「なんですか? さやかさん」
「怒らないんですか?」
「さやかさん、もう反省してるでしょ? 反省している人にそれ以上言っても言い過ぎって言うか、それは俺が言いたいだけってことだと思うし」
「……大人ですね」
「まあ、そこそこには」
「……ありがとうございます。助けてくれて」
「何か起こる前でよかったです」
いや、ホント。何か起きてからだったら俺は後悔しても後悔しきれなかっただろう。普通の合コンでそんなに危ないことは起きないだろうし、初っ端から悪いのに当たってしまったみたいだ。
「私、『合コン』って、この前の県人会みたいな『交流会』だと思ってました」
「あーーーーー、それで……」
「一応、ネットでも調べたんですけど、『仲間内の交流会』って……」
どうりで堂々と合コンに行ってくるって言って行った訳か……そこまでは予想できなかった。これまでの言葉の意味が理解できた。
そんな会だと思っていたとしたら、俺が「迎えに行く」と言ったら子ども扱いしていると誤解するだろうし、機嫌も悪くなろうというもの。納得だ。
俺に物足りなくなって、失望したんじゃなくてよかった……
「私も自分の人脈が欲しくて……」
「失敗もありますよ。慌てずに行きましょう、社長」
「ズルいです。カッコよすぎます、狭間さん」
少し納得がいかない様子の さやかさん。
「それにしても、よくあんなところを通りかかりましたね」
「たまたま、愛ちゃんとデートでした」
「むーっ」
あ、ちょっとお
「冗談です。そこは、東ヶ崎さんが調べてくれました」
「……東ヶ崎さん、ありがと」
顔を上げて運転席の東ヶ崎さんにお礼を言う さやかさん。
「いえ、何事も無くて良かったです」
視線は動かさず、前を見ながら運転しながら答える東ヶ崎さん。彼女は基本冷静だ。
*
家に帰ってからの さやかさんは別の意味で大変だった。
「私がもうダメだって思った瞬間、そのドアの向こう狭間さんがいたんです! あり得ますか!? あのタイミング!」
「ベストタイミングでしたね!」
俺がどれだけ凄かったかを東ヶ崎さんに興奮気味に話す。東ヶ崎さんもその場にいたのだから、知っているでしょうに……
なに、この羞恥プレイ。しかも、東ヶ崎さんは、家ではぶんむくれで不満たらたらだった俺を見てるのに……
2重の意味で汗が止まらない。やめてー。やめてあげてー!ソファーで一人のたうち回る俺だった。
■合コン後日談 高鳥さやかサイド
「やっぱり、男はいざという時に女を守れる人じゃないと!」
「分かる!」
大学の講義室で新里さんが主張していました。田中さんも佐藤さんも同意らしい。あの日までは、最優先が「顔」だったはずでは……。
「佐々木先輩とか酔っ払ってた二人は停学だって! 日数的に実質留年らしいよ」
「あ、学校にバレたんだ!」
「領家先輩が学校に報告したらしいよ。佐々木先輩と片岡先輩は
「領家先輩って自分にメリットないのになんで学校に報告したのかな?」
「さー? ちゃんとしてるって事じゃない!? カッコイイよね!」
領家先輩は一応、助けてくれようとしてはいた。
「ところで、高鳥さん この間の方は彼氏ですか?」
もう話題が別のことに移ったみたい。
「はい。心配して見に来てくれたみたいで……」
「ケンカ強かったですね! 何か格闘技を!?」
「いえ、普段 全然そんな感じじゃないので私もビックリしました」
「最高じゃないですか! あんまり手が早いのもなんですし」
「あの後、手が震えてたって言ってました」
「きゃー! 高鳥さんのために頑張って戦ったんですね!」
そうだ。狭間さんがケンカしてるのなんて見たことがない。帰ったら、改めてお礼を言わないと。
「年上ですか!?」
「は、はい」
「きゃー!」
「どんなお仕事を!?」
「会社役員を……」
「きゃー!」
「他にもお友達いませんか!? 高鳥さん、合コンセッティングできませんか!?」
森羅の営業さんなら独身者が何人かいますけど……社長の私が話を持っていったら変な意味になってしまわないかな?
この後も、私は次の講義が始まるまで狭間さんの事を根掘り葉掘り聞かれるのだった……
もう合コンはコリゴリです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます