第69話:密かに進められるミッションとは


「あ、ごめん! ちょっと電話が入ったみたい!」



 領家りょうけ健一けんいちは合コン会場から一旦外に出て、電話を受けていた。



「お疲れ様です。領家です」



 店のドアを閉めて、電話の内容が他の人間に知られない様に会話を始める。



「はい、はい、はい。いました。高鳥さやかさん!」



 しばらく電話の相手の話を聞いた後、再び答える。



「いや、めちゃくちゃ人気ですよ! あれは難しいです。あ、はい。分かりました。やるだけやってみます」



 押し切られる形で電話を切り、スマホをズボンの後ろポケットに仕舞い、合コン会場に戻るのだった。



 ■高鳥さやか サイド


 合点がいかないまま化粧室からテーブルに戻った。左右には新里さん、田中さん、佐藤さんがいる。



「あ! こっちです、領家先輩!」


「あ、はいはい♪」



 領家先輩が店の外から入ってきた。外に出ていたみたい?



「最近どんなことしてるんですか?」


「うーん、最近はねぇ……あれ? あれ!?」



 急に慌てた様子でジャケットのポケットやカバンの中を探していた。



「あ、スマホどこかで落としたかも! ない!」


「マジですか!?」


「うわ! 高鳥さん、ちょっと番号言うから僕のスマホ鳴らしてみて!」


「はい!」



 急に言われて、言われるがままにスマホを取り出し、聞いた番号をタップしていく。



 ブーン、ブーン、ブーン



 どこかでバイブ音がする。



「あ! あった、ズボンの後ろのポケットだった! 普段こんなとこ入れないから気づかなかった!」


「見つかって良かったです」



 どうやら、見つかったみたいでよかったらしい。


 入店から1時間半ほどしたらお店からオーダーストップの案内があった。



 何人かはだいぶ酔っぱらっているみたい。


 会計は女性が1000円。男性が5000円。女性の方が飲んだり食べたりする量は少ないのは分かるけど、この配分は偏り過ぎ。つまり、そういうこと。


 私は間違えていたらしい。帰ったら狭間さんに謝らないと。狭間さんが不機嫌な理由も理解できた。恥ずかしい……


 帰ろうとしていた時、お店の前でみんながたむろしていて、誰かが叫んだ。



「二次会はカラオケです! 歩いてすぐそこだから! みんな俺に付いてきてー!」


「「はーい!」」



 こういう場合、誰に言って抜ければいいのか……



「高鳥さんいこ!」



 新里さんが促す。



「私は……」



 断ろうとしている所に、領家先輩が来た。



「今年の女子は美人さんばっかりで嬉しいな。もうちょっと話がしたいな」


「はい……」



 新里さんが嬉しそうに答えた。なぜか当然全員行くような流れになり、全員カラオケに……



 *



 カラオケ店では、キャパ10人くらいの部屋が4つ借りられていた。私は、新里さん達と一緒の部屋に入ったけど、領家先輩とそのお友達ちらしい、片岡先輩(?)と佐々木先輩(?)もいた。


 10人の部屋で男女7人いると割とギュウギュウとした感じ。



「名前なんてーの?」



 ウーロン茶を飲んでいた時に隣の席の男性に聞かれました。こっちが片岡先輩? それとも佐々木先輩の方?



「高鳥です」


「高鳥 何ちゃーーーん?」



 どうも酔っぱらっているみたいです。声が大きい。



「さやかです」


「さやかちゃん、きゃわいーねー!」


「ありがとうございます」



 顔が近い。もう帰りたい。一刻も早く帰りたい。



「ねえ、俺 BM持ってるから今度どっかいこーよ!」


「はぁ……」


「片岡! お前飲み過ぎだって! 高鳥さん困ってるだろ!」



領家先輩が止めに入ってくれた。



「いいだろ! お前には まどかちゃんがいるだろ! 俺はさやかちゅわーんだから!」


「領家、いっつもお前ばっかりモテるんだから ちょっとくらい良いだろ!」



 ここで、もう一人の男性も酔っぱらってるかたほうについてしまった。これは良くない。



「すいません。帰ります」



 そう言って、カバンから財布を出そうとしたら、腕を掴まれた。



「帰らなくていいじゃん! もう少し俺とお話してくれよ!」


「すいません。帰ります!」


「さやかちゅわん、3月までJKだったんでしょ? 『合法JK』好きなんだよー、俺!」



 こういう時に女性の友達は助けにならない。目をそらして無言。それはしょうがない、当然かもしれない。



「ちょ! ちょ! ちょ! お前ら飲み過ぎだって!」



 領家先輩が慌てて止めようとしてくれているけど、ちょっとした揉め事みたいになってしまっている。


 なんとか部屋のドアを開けて、外に出ようと試みたけど、後ろから服を掴まれた。



「待ってって! 大丈夫だから!」


「ちょっと! すいません! 帰ります!」



 絶望的な気持ちになっているところに開けたドアの隙間から外に更に2人の人影が見えた。


 もうダメだ……ちょっと気が遠くなりかけた。

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