第68話:女性陣の作戦会議とは
「じゃあ、まずは乾杯!」
男性一人が声高らかに会のスタートを宣言すると、全員がそれに続いて「乾杯」を叫んだ。その後、なぜかみんなで拍手。
「では、まずは新入生の自己紹介から行きましょう―!」
パチパチパチパチパチパチ
「では、そちらの髪の毛ブラウンの可愛いあなたから!」
一番 端にいた女性が指名され挨拶をしていく。どうも「学部」と「学科」、「名前」を言うみたい。
あとは「趣味」とか? 親しみを持ってもらうために?
狭間さんと異業種の企業回りをしている時によく聞かれたのが「何屋さん?」だった。
私の名刺は2つあって、1つは森羅万象青果のもの。これを出すときは「野菜の仲卸」と名乗る。
もう1つは、コンサル業。現在、森羅しかないのでちょっと微妙だけど、会社を買い取って経営を正常化させるのが仕事。この名刺を出すときは「コンサル」を名乗っていた。
みなさん何屋か言わないのは、まだ学生だから?
私の場合言うべき? どちらで挨拶すればいいのか……それともみんなに倣って学部と学科と名前と趣味だけ言えばいいの!?
横から順番に佐藤さん、田中さんがやはり学部学科、名前、趣味しか言わなかったので、それに倣うことにした。
「商学部経営学科の高鳥さやかです。最近の趣味は、野菜の直売所めぐりとレストランの開拓です。よろしくお願いします。」
「おー! 野菜の直売所いいよねー! 高鳥さん料理もできるの?」
目の前の男性に質問された。
「はい、時々は作ります」
「おおー! ポイント高いねー!」
私の自己紹介は無事終わり、隣の新里さんにバトンが渡った。
自己紹介が終わるころには、テーブルにサラダと料理が届いていた。左右のクラスメイトがサラダを手早く取り分け、男性陣に手渡していた。
会話としてはかなり砕けた内容ばかりで、全然情報交換とか、仕事の話とか将来進む方向などの話にならない。
私は渡されたサラダを素直に食べて、周囲のお話に耳を傾けた。
学校の話は少し出るけど、アルバイトの話、出かけた話、テレビ番組の感想など取り留めがない。
そして、会がスタートして30分くらい過ぎた頃に一人の男性が「席替えターイム!」と宣言し、席がシャッフルされた。
上級生はお酒を飲む人もいたので、徐々に話し声が多くなり、笑い声も大きくなっていった。さらにしばらくした頃だった。
「すいません、ちょっとお化粧直しに」
「あ、私もー」
「私も」
「高鳥さんも一緒に!」
「あ、はい」
一緒に来た新里さん、田中さん、佐藤さんが一斉にトイレに立ち、私も呼ばれた。
トイレでは、2つしかない鏡の前で3人が立ち、本当に化粧直しをしていた。
「どう? どう?」
「やっぱり、領家先輩しかなくない?」
新里さんが口紅を塗り直して、右、左と顔の見え方を鏡でチェックしていた。
「分かる! でも、あの猫飼ってる人は?」
「誰それ?」
「ほら、猫飼ってて食べ物はカレーが好きって言ってた人! 猫好きに悪い人はいないわ!」
「うーん、私はパス! 犬派だし」
ビューラーで睫毛を曲げ直している田中さんが答えた。
「まどかちん面食いだもんねー」
「顔は絶対! あとお金も!」
ここでも話には取り留めがなかった。
「高鳥さんは?」
「私ですか?」
急に話を振られてしまった。ここまでくれば、鈍い私でも分かる。どの人の印象が良かったか、ってこと。
「うーん、私はちょっと……」
「え? 領家先輩は?」
「はい、カッコイイと思います」
とりあえず、話を合わせておいた。人が「良い」といっているものを わざわざ「悪い」とか「興味がない」とかいう程 子供ではない。
「えー? 高鳥さんも領家先輩狙い!?」
「あ、いえ。私は別に……お付き合いしている方もいますし」
「あー、意外!」
「〽いーけないんだ。〽いーけないんだ。彼氏に秘密で合コン?」
「いえ、言ってきました」
「うわ、冷めきってるんだ。それで、新しい恋を? よし! 私が後押ししましょう!」
「あ、あの、いえ……」
この時、外では全然 別の打ち合わせがされていることを私は知る術もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます