第62話:アフターストーリー(8-2/8)
なぜか、休みの昼間からさやかパパとリビングでお酒を飲むことになった。料理は東ヶ崎さんと さやかさんが作ってくれるらしい。
それだけで最高だ。その上、魚はブリとカワハギが取り寄せられているらしい。さらに、日本酒も。
たしか、「喜多屋」の極醸大吟醸って言ってたな。地元の日本酒で山田錦ってお米を35%まで磨いて仕込む超贅沢なお酒だ。1升で1万円を超える高級なやつじゃなかったかな。
ブリは、地元では正月に欠かせない魚だけど、冬は通しておいしい。
カワハギも地元の魚で、メンボとも呼ばれている。その名の通り、皮を剥がして調理するのだけど、身もおいしいし、肝もおいしいと人気だ。刺身、煮つけの他に、鍋もうまいと思う。
とりあえず、東ヶ崎さんがお酒とちょっとした小鉢だけ持ってきてくれてお酒を飲み始めた。
「『朝市』はさぁ、スタートとしては最高の状態と言えるよ」
「ありがとうございます!」
さやかパパが、俺のお猪口に日本酒を注いでくれた。その後、返杯した。お猪口での乾杯が正しいマナーかどうかは知らないけれど、義理の父になるかもしれないこの人とは盃を交わしたかった。
「ちょっと人気が落ち着いたら、テレビの取材が手配できるから。今だと飲食店の大食い企画とかが人気かな。大食いメニュー作ってもらわないといけないけどねぇ」
これ以上ないと思えるくらい色々考えたつもりだけど、さやかパパにしてみたら、まだまだ色々な引き出しがあるらしい。
「Youtuberさんとブロガーさんの協力も頼めるよ?」
「マジですか!?」
「案件待ってる人たちもいるからねぇ」
すげぇ。まだまだ発展する未来しか想像できない。こんなに色々が簡単に手配できるわけがない。「朝市」を立ち上げると聞いたときから密かに準備してくれていたのではないだろうか。
さやかパパの娘に対する溺愛ぶりが伝わって笑いがこぼれた。
「大社長、揚げレンコンと いかめんたいです。あと、これ」
「ありがと」
東ヶ崎さんが、メモを にこやかな さやかパパに渡した。一瞬、表情が厳しくなったのを俺は見逃さなかった。
「なんですか?」
「……あぁ、長谷川……って社員について調べてたんだ」
「はい」
そう言うと、さやかパパは、渡されたメモをぐしゃぐしゃに握りつぶした。
長谷川リーダーの件……俺は追いかける道筋が途切れてしまって、暗礁に乗り上げていた件だ。
「結果から言うと、追い詰めきれなかった。ごめんねぇ」
再び、にこやかな顔に戻って さやかパパが謝った。
「そうですか……」
「ただね、うちの関係の会社には顔と名前をリークしといたから、そこでは採用しないね」
「はい」
「あと、公務員とかは過去の経歴を未だに調べてるから森羅に問い合わせが来るからまず受けられない。大企業も過去の会社に連絡するところもあるから同様だろう」
「……」
「まぁでも、日本には中小企業は400万社あるって言われてるから……」
「森羅でも県内と周辺の仲卸には連絡入れてます。同じ仕事はできないでしょうね」
警察に言ってもワイドショーをにぎわすような大事件でもない限り大々的に動いてくれるわけじゃない。
住民票やら戸籍やらも当たってくれているらしいけど、相手は夜逃げ同然で姿を消している。居場所が分からない人間は訴えることも難しいのが現実だった。
逃げる人間は、死に物狂いで逃げる。そのクレバーさは日々の業務で正しいことに使って欲しかった。
「まぁ、これだけ探してこんな感じだから、普通の仕事は出来ないよね。うちの調査力半端じゃないから」
さやかパパの片方の口元だけ吊り上がった少し邪悪な笑みは本当に見つからなかったのか。実際は見つけたけど、何らかの闇の組織的な何かが始末してしまったのではないかと思う程だ。
……思うだけにした。
「まぁ、気を取り直してさ! あ、東ヶ崎ちゃん。『百年蔵』の方も出してよ。」
「承知しました」
次のお酒に変わったのは、単に気持ちの切り替えなのか。それとも……東ヶ崎さんも淡々としているのが、底知れない恐ろしさを感じさせられたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます