第57話:アフターストーリー(5/8)

■進化する株式会社森羅万象青果


 これまで野菜を集めるのは「グループの長」のところだったけれど、コンビニ程度の小屋を建てて株式会社森羅万象青果として「野菜直売所」を作った(駐車場だけはやたら広い)。


 農家の方は求められた野菜を求められた量、ここに納めるだけで収入になる。


 価格については、農家の人にも商売の感覚を身に着けてもらうために、店頭での販売価格は各自で設定してもらった。高すぎれば売れずに売れ残るし、安すぎると自分が損をする。


 同じタマネギでも、ある農家は3個入りにして、ある農家は5個入りを作る。どちらが売れやすいか肌で学ぶのだ。これにより、商品力が上がっている。


 森羅が仕入れの場合は、価格交渉していた。それでも農協に卸すよりは高いので農家の方も積極的に動いてくれている。


 現金が即 手に入ると分かると人は強い。誰にも何も言われなくても自ら積極的に動くし、すごく活き活きしている。


 この直売所の「小成功」によって、さやかさんが更に大きな仕掛けを準備したいと言いだした。


 その「大きな仕掛け」とは、新しい「野菜直売所」を作ると言うもの。郊外に、大型駐車場完備で、安普請ながらスーパーくらいの建物を造る計画。


 東ヶ崎さんの調査によれば、小規模農家が周辺に約2000軒あるので、以前視察(デート)に行ったあの野菜直売所のようにできる可能性がある。


 ただ、「集客」が弱い。近所から集まった野菜を森羅が買い上げるとしても、一般客がいないと運営し続けるのは難しい。


 以前行ったところは、六次産業化していて、加工食品の販売もしていたし、飲食店もあった。休みごとにイベントも開催してあった。同じことをしても軌道に乗るまでには何年もかかりそうだ。



「集客かぁ……」



 視察のために「野菜直売所建設予定地」近くの店で昼食を取りながら俺がつぶやいた。



「狭間さん、これおいしいですね!」


「たしかに、味が染みてます」



 たまたま入った店は、焼き肉店。近所にここしか飲食店が無かったので、消去法でここになった。今日日きょうび、郊外にもコンビニはあるけれど、食事をしようと思ったら味気ない。さやかさんもいるし、飲食店に入りたかったのだ。


 地域の畜産農家が自ら経営しているお店らしく、精肉店と焼き肉店が横並びで出店していた。いま、俺たちがやろうとしているのは、この店の野菜バージョンと言ったところか。しかも、規模が大きいやつ。


 ところが、このお店、昼の12時を過ぎたところだというのに俺たち以外の客と言えば2組だけ。とても儲かっている様には見えなかった。料理もおいしいのに。


 さやかさんが「おいしい」と言ったものは、付け合わせで食べられるようになっている肉じゃがだった。派手さはないけれど、味がよく染みている。


 近所の農作業の人に向けたお店なのか、味は少し濃い目でしっかりした味付けだった。JKでも和食がおいしいとか感じるんだなぁ。


 こんなおいしい料理があっても、市内から車で約1時間。それでも、市内からの集客は難しいのだろう。



「私たち以外にも集客したい人はたくさんいると思うんですけど、その人たちは、どこでどんなことをしているんでしょうね?」



 さやかさんが、焼肉を食べながらの普通の一言。ほんの何気ない一言だった。ここで俺は閃いた。



「俺たちは集客の素人ですよね。集客したい人たちが集客できるようにしたらいいんじゃないですかね」


「?」



 伝わらなかったよね。小首を少し傾げた さやかさんはとても可愛かった。



「まず、『野菜直売所』内には飲食店を作りますよね」


「そうですね。その方が楽しそうですし」


「『野菜直売所』の場所を農協の選果場のすぐ近くにするんです」


「センカジョウ……ってなんですか?」


「農家さんたちが野菜を持ち込む農協の施設です。大きさを調べたり、袋詰めしたり、一時保管したりする場所です」


「あ、はい。『選果場』ですね」



 さやかさんがスマホに「選果場」ってメモしてた。



「そこには働いている人がいるし、農家さんもよく来ています。すぐ横に『野菜直売所』を設置したらそこの職員さんと持ち込みの農家さんがお昼ご飯を食べるようになります」


「なるほど……」



 さやかさんは、まだ合点がいかない様子。



「農協で希望の価格にならなかったものは、『野菜直売所』に持ち込んでもらえます」


「あ! はい!」


「『野菜直売所』内には、常設店の他に屋台形式で1日から出店できるようにしたら飲食店を始めたい人の挑戦の場にもなります」


「おもしろいですね」


「その上で、販売所、飲食店、さらにイベントスペースを作ります」


「イベントスペース?」


「はい、ある時は、農作業機械展をしたり、ダンスやピアノの発表会をしたり、ご当地アイドルの交流会とか、バーベキューをしたりできるようにするんです」


「少しフワフワしてますね……」


「『農作業機械展』をするときはメーカーの人が農家さんを集めてくれます。意外といい場所が無くてメーカーさんは場所を探しています」


「その場所を提供する、と」


「その通りです。ダンスやピアノは習い事で定期的に『発表会』を開催します。お子さんが発表する場合、ご両親だけではなく、おじいちゃんおばあちゃんも来られます」


「あ!」


「ご当地アイドルはコアなメンバーが日本全国から集まります」


「そういうことですね!」


「はい。バーベキューは市内だとできる場所がないので人が探してでも集まります。肉も野菜も直売所でそろうようにします。つまり、昼ご飯を食べる人の近くに飲食店を作って、常日頃 集客したい人が集客できる場所を作って、気がつけば『野菜直売所』にいる環境を作ります」


「なるほど! ピアノはうちに使ってないグランドピアノがあるからそれを提供します」



「使ってないグランドピアノ」というパワーワードが聞こえてきた。あの家のどこかにグランドピアノが置かれているらしい。



「また忙しくなりますね!」



 さやかさんは、実に楽しそうだ。言ってしまったからには、企画書にして実現していくことになりそうだ。

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