第55話:アフターストーリー(3/8)

■さやかの本心


 さやかさんの会社、株式会社さやかは、株式会社森羅万象青果を100%子会社にした。


 吸収でも合併でもなく、子会社化したのだ。そこの改善を頼まれた時、俺は一番最初にさやかさんに質問をした。



「何故、森羅をつぶさなかったんですか?」



 夕飯時に家のリビングで食事をしている時に訊ねてみた。


 ちなみに、夕食は豚の生姜焼き。東ヶ崎さんが作ってくれたのだけど、このレベルの食事が家で出てくるとか もはや外食しなくていいと思えるほどだった。



「それはいくつかの理由がありますね」



 きちんと飲み込んでから さやかさんが答えてくれた。



「一つ目は、単純に『敵を作らない』ってことでしょうか。仕事をして、いつか刺されたら適いません」


「なるほど」


「一度の失敗でクビにしていたら人は育ちません。それよりも、失敗を経験した人の方が同じ失敗はしませんよね。もう、そそのかされないでしょう」


「さやかさん すごいですね。ホントに高校生?」


「同じ理由かもしれないですけど、ご家族のことも考えました。倒産させてしまうと必ず離職者がでます。ご本人たちは自業自得でしょうけど、そのご家族のことまで考えると、ですね」



 少し照れながら答えてくれたけど、本当にこの子は高校生だろうか。俺が高校の時は人にはそのバックに家族がいるなんて考えたこともなかった。


 当然、彼女にも実体験として思えるほどの人生経験はないだろうから、普段から経営者のお父さんやお爺さんが そのようなことを言っていたのだろう。さやかさんを通して、二人の人柄の良さが伝わってきた。



「後は、現実問題として、一から作り上げるより既にあるものを利用した方がコストは安いし、期間も短くなります」



 とても現代的な考え方だ。俺が「会社を興す」と考えたら「既にある会社を買う」という発想は まず出てこなかっただろう。


 もちろん、それができる資金力と、人脈があったからだとは思うけど、考え方の根本からが俺とは違うと感じた。



「まだあります。狭間さんに農家のお宅に連れて行っていただいたので、農家さんたちの安心感も考慮しました。私が農家さんだったら、狭間さんにまた来て欲しいと思ったはずです」


「そうですかね。喜んでくれれば嬉しいですけど」



 これは、タマネギや空心菜を作っている佐々木さんの家のことだろう。



「森羅は創業50年以上の会社なので、ネームバリューはあります。『どこと取引しているか』は年配の方にとって重要です。年配者は変化を嫌いますしね」



なるほど、俺が森羅にいないとそれは実現しないのか。



「俺がクビにされた噂は結構広まっていたので、この場合マイナスだったのでは?」


「それは、狭間さん自身が専務となった名刺を持って、高級車で挨拶に行けば解決することです♪」


「それって、俺 めちゃくちゃ嫌味なヤツじゃないですか?」



 思わず苦笑いがこぼれる。


 

「ついでに、私も連れて行ってください。10代の美少女社長を彼女にしているとなればやっかみが酷くて、そのうち私しか味方がいなくなります♪ そしたら、私が甘々に……」



 久々にさやかさんの どや顔が見れた。邪悪な顔というか、意地が悪い顔というか……どこまで本気だろう。そのうち俺また孤立しそう……



「それだと、私が慰め役になりそうですね?」



 会話の途中で珍しく東ヶ崎さんが割って入った。



「……やっぱり、狭間さんはお一人であいさつ回りしてください。東ヶ崎さんを敵に回したらいけないのです。それに、おいしいところを搔っ攫われるのは面白くありません」



 ほんの1秒考えて、損得を比較したのか、ついさっきと180度 さやかさんが言っていることが変わった。


 軽口はいいとして、それだけのことを考えて森羅を潰さず子会社にしたというのか。18歳の少女の今後が恐ろしいと思う反面、ずっと見てみたいと思う俺だった。



「ただ、社員たちには世の中『塞翁が馬』ではなく、『因果応報』だということをある程度は叩きつけてやりますよ。私の狭間さんに とんでもないことをしでかした人たちですから」


「ほ、程々でお願いします」



 訂正、彼女は見ておかないと暴走しそうだ。ずっとそばにいよう。キシシと邪悪な笑顔を浮かべる彼女を見ながらそう思う俺だった。

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