第3話:弁当売り場の彼女とは

 昼の時間を過ぎてしまったスーパーの弁当売り場には人はほとんどいなかった。そんな中、1つの弁当を買い物かごに入れた時に、名前を呼ばれて呼び止められた。



「狭間さん! 探しました!」



 そこにいたのは、……高鳥たかとりさやかさん。俺が勤めている……勤めてた株式会社森羅万象青果のアルバイト事務員の高鳥さんだった。


 彼女はまだ現役の高校生だったはず。ロングの髪の毛はいつも後ろで一つに縛ってあったし、いつも事務員の制服を着ていて、メガネをかけていた。なんにせよ、こんな時間に、こんなところにいる人じゃない。


 一瞬、分からなかったのは、今の姿が普段とあまりにも違ったからだった。


 まず、ロングの髪の毛は縛られておらず、そのままストレート。


 メガネはかけておらず、服は学校の制服だったのだ。確か、市内の何とか言う頭のいい高校の制服だったはず。ブラウスとスカート、襟にはリボンがついている。スカートは年頃なのか短め。



「高鳥さん? なんでここに?」


「狭間さんが急に会社クビになったって聞いて、飛んできました!」



 確かに、高校生の彼女の場合、アルバイトなので17時ごろに会社に来て、19時にはあがる。俺がクビになったの昨日の昼過ぎ頃だったから、俺が家に帰った後、会社に来てそのことを知ったのだろう。



「なんでスーパー!?」



 会いに来てくれたとしても家じゃないの!? なんで真昼間のスーパーで会うんだよ!?



「狭間さんの住所……知らなくて……家の大体の場所は聞いたことがあったから」



 そう言えば、普通の会話の中で家の大体の場所を話したことがある。他にも、自炊はあんまりしなくてスーパーで買うことも話したことがある。探偵みたいな子だな。


 なんにせよ、会いに来てくれたのは素直に嬉しい。ただ、高校生にまで心配される今の状況が情けない。



「来てくれてありがとね。心配かけてごめんね。なんとか元気だから。じゃあ」



 簡単にお礼を言って分かれることにしよう。わざわざ来てくれたのは家が近かったのかな?



「私、絶対おかしいと思います!狭間さん悪くないです!」



 あぁ、そうか。若いときの独特の正義感か。確かに、君の言っていることは正しい。ただ、世の中には、正しくなくても通ることが往々としてあるのだよ。


 数学のように答えは1つではないし、求めても答えは出てこない。そもそも正解だってあるのか分からないのか世の中なんだ。



「狭間さん! うちに来ませんか!?」


「は!?」


「会社クビになって、アパートも1週間で出ないといけないって聞いて……それなら、うちに来ませんか!?」



 俺は、その「1週間って話」をいまここで初めて聞いたよ……

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