第2話:絶望しても人は腹が減るとは
朝になって、いつものアパートで目を覚ました。スマホのアラームは午前3時を示していた。
いつも起きる時間だけど、そんな必要はもうなかったのに……目が覚めても悪夢は覚めてくれなかった。俺はクビになったのだ。
高校を卒業してこの会社に就職してそろそろ10年になる。休みは少ないし、給料も少なかったけれど、一生懸命働いていた。
それが突然クビになった。いま住んでいるワンルームのアパートも一応、社宅扱いになっていたから出ていかなければならなくなった。
人生って恐ろしいなぁ。仕事が無くなった瞬間、家もなくなったし、お金もそんなに有り余っている訳じゃない。
昔は少しの間だけいい感じだった専務……裕子さんとの関係も完全に断たれた。
母子家庭だった俺は、母を早くに亡くしたので、頼れる身内ももういない。会社の人も頼れなさそうだし、割と詰んでるかも。
仕事を失っただけで自殺を考える人の気持ちが今ならわかるかもしれない。
職場のグループチャットはまだ生きていて、情報が流れ込んでくる。それが余計に痛い。
『狭間突然クビとか何やったんだろうな!?』
『横領とか使い込みとか言ってなかったっけ?』
『マジ終ってんな』
『悪いことするヤツはいなくなって当然!』
『俺は信じてなかったけどね!』
なんかひどいことを言われている……一緒に仕事していた時は、書類を書いてやったり、他の会社との融通の連絡とか取りまとめてやってのに……こうして手のひらを変えられると人間不信になりそうだ。
俺は絶望して何もする気が起きないでいた。
そうは言っても腹は減る。昼を過ぎた頃には腹の虫がぐーと俺に空腹を伝えていた。人は絶望しても腹が減るらしい。
フラフラと近所のスーパーに歩いて行った。スーパーに行くと、ついつい野菜売り場を見てしまう。鮮度はどうか、種類はどうか、価格はいくらなのか、売れ筋はなんだ。
これはもう、職業病だな。その仕事もクビになったんだけどな。
14時では まだ割引の弁当もお惣菜もない。人気の弁当も売れてしまっているだろうから、当たり障りのない弁当しか残っていないだろう。
実際、弁当売り場には人はまばらで数人のサラリーマン風の男とおばあちゃん1人くらいしかいない。
この際、味はどうでもいいや。手ごろな価格で、売られている弁当を買って帰ろう。視線は弁当を追いかけているのだろうけど、多分、今の俺には何も見えていなかった。
食べたいものなんてないのだ。別にどれでもいい。目の前にあるものを手に取ることにした。
「狭間新太さん! 見つけました!」
俺が弁当売り場のショーケースから「野菜たっぷりちゃんぽん」を手に取ったとき、急に名前を呼ばれた。そこには、まるで予期しなかった人物が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます