第5話 バレリーナ

 親が子どもを整形させる・・・こういうのは意外とありそうだ。最近「親に整形させられた私が、母になる」というコミックが話題になっているが、お母さんの毒親ぶりが振り切れてて、珍獣を見るような気分だった。


 母親になるっていうのは大変らしい。


 会社で知り合った子持ちのお母さんに聞いた話だと、母乳のお母さんが偉くて粉ミルクは駄目とか、自然分娩の方が上で帝王切開は駄目、1人子は駄目とか、専業主婦以外は子供を持つべきじゃない、食事は手作りじゃない等々・・・色々面倒なことを言って来る人がいるようだ。


 子ども自体についても、身長、目が二重かどうか、スポーツができるか、部活や習い事でレギュラーか、勉強ができるか、学校で人気者かどうか等々、マウントし合う人もいるそうだ。


 結局人間、自分が持っている物を基準にして自分を偉いと思いたいものなんだ。住んでいる場所の住所、顔、家柄、学歴、職業などを基準に人を見下す人もいたりする。


 俺の知り合いにAさんという女性がいた。まあまあの美人だったと思う。

 でも、集団で目立つほどでもない。その人はお母さんにとにかく女性は美人でないと駄目と言われて育てられたそうだ。


 足がきれいになるように、子供の頃から、椅子の生活。正座は駄目。

 姿勢がよくなるようにとバレエを習わされていた。

 あとは、ピアノと声楽。宝塚にでも入れたかったのだろうか。

 でも、彼女は宝塚に入るのは無理だった。遺伝的に背が低くてスタイルがよくなかった。お母さんはすごくきれいな人だったそうだけど、やはり背が低かったらしい。


 幼稚園から女子大の付属幼稚園に通わせていた。複数の習い事と塾を掛け持ちしていた。

「学校の宿題が異様に多くて毎日終わらせるのが大変なの・・・でも、習い事もいっぱいやってるから、寝るのが毎晩11時とかで・・・」

 親が厳しすぎて、Aさんは家に帰るのを嫌がるようになった。小学校で仲良くなった友達は不良だったから、隠れてタバコを吸い始め、中学生の男子と隠れて交際していたそうだ。

「夏休みとかには、友達と遊びに行くって嘘ついて彼氏の家に行ったりしてて。小6で初めて妊娠して、中絶したの。産みたかったけど、親に反対されて中絶した。中学でも2回妊娠して、どっちも堕して、高校は付属に進学できたけど、すぐやめちゃった」

「じゃあ、中卒?」

 俺は尋ねた。

「うん。でも、困ったことないし。バレエやってる人は中卒も普通にいるから」

 どうやら、バレエをやってると、留学するために高校をやめたり休学して行くことになる。だから、中卒もあり得るとか。Aさんはグレてしまったけど、中学を出てからバレエだけはずっとやっていたらしい。海外に留学したそうだけど、背が低くて海外でやるのは無理だと最初からわかっていた。

 でも、中卒だと恥ずかしいから、親が拍付けのために行かせただけだった。


「あっちでも彼氏ができて、結婚しようか迷ったけどお金がない人だったからやめて日本に戻って来たの」

「へえ、すごいね。じゃあ、フランス語できる?」

「ちょっとだけ。でも、生活するのには困らないし・・・」

「いいなぁ。フランス語」

 俺は語学が苦手だからそう思う。

「彼氏フランス人?」

「うん。フランス人のセックスってすごいの。3日に1回セックスするって言われてるけど、もっとしてた」

「へぇ」

「フランス人は1回が長いの・・・すごく丁寧で気持ちよかった」

「へぇ。すごい愛されてるんだね」

「でも、フランスって恋人をすぐ変えるんだよ。日本人は結婚するまでに5人くらいと付き合うのが普通っていうじゃない?でも、フランス人は20人くらいなんだって。私と付き合ってる間も浮気してそうな感じだった。でも、ハーフの子どもうみたかったなぁ・・・」もっと、セックスについて聞きたいけど、変な雰囲気になるのが嫌でやめといた。

「結婚しないの?」

「してくれる?」

「俺は絶対結婚しないから」

 俺は笑って胡麻化した。こんな女は冗談じゃないと思う。生理的に受け付けない。

 彼女と会ったのは、銀座のクラブだった。40前半。普段はバレエ教室の助手をしてるけど、数万しかもらえないから20代からずっと水商売をしているそうだ。親はどう思ってるのかなぁ・・・。


 表向きはフランスに留学経験のあるバレエの先生。

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理想の子ども 連喜 @toushikibu

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