第2話 不登校

 お母さんはクラスでいじめがあると訴えたが、学校側は否定した。本人もプライドが高くて否定していた。

 彼は学校に行かなくなった。両親がどんなに怒っても、殴っても、引きずっても無理で、保健室通学も嫌がった。それからは、家族とは全く口を利かなくなった。今もほとんど口を利かない。話すのはかっとなって口答えする時くらい。


 部屋に引きこもって、一人で本を読んだりしていた。図書館にだけは行くから、祖母が一緒に付き添って平日昼は図書館に行って本を借りて読んだ。


 彼は祖母にだけは素直に従ったが、家では暴れていて、母と姉には暴力を振るうようになっていた。母親はそのことを実母には言えなかった。恥ずかしかったからだ。

 

 しかし、祖母は意外にも学校に行けと言わなかった。

「怜君はお勉強ができるから大丈夫よ。中学から私立に行けばいいのよ」

 彼もそう思うようになった。

「おじいちゃんも中学校は私立だったから、同じところに行けば?」

 祖父は名門中学に通っていた。彼はそうすると答えた。


◇◇◇


 彼は不登校になってからは、家にいるだけの生活になってしまった。両親は共働きだから、昼間はおばあちゃんが娘の家に行って世話をする。家が近所だったからだ。それで、英語のフリースクールに通わせていた。ネイティブスピーカーがいない中途半端なところ。学費は高いけど、友達が一人もいないと将来コミュニケーションが苦手な人になると思って、通わせていたそうだ。彼は周囲を見下していたから、友達は一人もできなかった。そういう所に行っても、彼は先生たちと喋るだけだった。


 好きな男の先生がいて、いつも話しかけていたら「君とばかり喋っていられない」と言われたそうだ。それから、彼は誰とも喋らなくなってしまったらしい。フリースクールに行っても漫画を読んだり、ゲームをしているだけ。親は焦って勉強させようとするんだけど、やっても仕方ないと言って何もやろうとしない。


 家ではストレスを溜めて暴れたり、自傷行為をしたりしていたらしい。リストカットみたいに剃刀で切るというより、腕にシャープペンシルや針を刺していたそうだ。夜、頻繁に暴れたりもした。昼夜逆転してしまった。フリースクールにも通えなくなったし、近所では頭のおかしい子として認知されるようになっていた。


 そして、ネットと出会う。

 母親は教育ママだから、スマホを買い与えなかったけど、祖母がクリスマスプレゼントにパソコンをプレゼントしてしまった。それからは1日中パソコンをやって過ごすようになった。親は有害サイトを見られないようにフィルターをかけていたが、頭がいいから外してしまった。親が帰ってくる頃には、履歴も消して、フィルターを再設定した。


 さらに、おばあちゃんは、自分と連絡を取るためにと携帯もプレゼントした。それで、知らない人とチャットをするようになった。リアルで友達がいないんだから、ネットでもできなかったらしい。

 

 そのうち、おばあちゃんが病気になって、家に来られなくなってしまった。

 それからは、さらに生活が破綻していった。家族は朝出かけてしまう。家に1人で留守番している。1日中ネットを見る。有害サイトでもなんでも興味のあるものを1日中見ていたらしい。


 その頃は、本気で自殺を考えていたらしい。ネットで楽に死ねる方法を調べていたそうだ。


 小6の夏に彼は劇的に変わったらしい。いきなり勉強し始め、家で暴力を振るわなくなった。自傷行為もしなくなった。それで、最終的にはかなりいい中学に合格した。奇跡と言えるレベルで、やっぱり頭がいいんだと思う。学校での成績もかなり良くて、いつも学年1桁台だ。


 でも、いつも死にたいと言っている。


 彼は勉強はできても、集団で孤立してしまうタイプ。こういう人はどんな仕事ならできるんだろうか。ゲイだから結婚して子どもを持つのも難しそうだし、彼の老後は誰が面倒をみるんだろうか・・・。勉強ができても、見た目がそこそこ良くても、経済的に困っていなくても、彼の将来は暗い。


 親が変な教育をしたせいでこんな風になってしまったのか、もともと彼の性質なのかはわからない。たぶん、両方なんじゃないかと思うけど、親が早期教育をしてなかったら、今みたいにはなってないだろう。それか、小学校から先取しているような私立学校に通っていたら、もっと才能が開花したかもしれない。


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