7. 決別

(1)


 グループトーク退出の件を問いただされるかもしれないと覚悟していたけど、多香子たちが私に構うことはもう無かった。多香子と若葉は二人で行動するようになり、遥は半ば強引に大人しそうなグループに入れてもらったようだ。


 噂の詮索のこともあり、人付き合いが煩わしくなった私は、一人で行動するようになった。不思議と孤独は感じなかった。むしろ、4人で居たときよりも息がしやすくなった。


 窓の外に広がる鱗雲をぼんやりと眺めながら、無理をしてまで友達でいる必要なんてなかったんだ、と思った。



✳︎✳︎✳︎


 謹慎を終えた伊原が登校すると、教室には小さなどよめきが起こった。しかし、当の本人はそれを全く意に介さない様子で私の席へとやって来て、一言、おはようと言った。


 私が挨拶を返すと、伊原は軽く微笑み、自席に着いてイヤホンを付けた。その毅然とした態度に、クラスメイトはたじろぎ、誰も声を掛けられないようだった。



「ねぇ、相模先輩殴ったのホントか聞いてよ」

「何でだよ、お前が聞けよ……!」

「もういいじゃん、どうでも」


 もしくは、問題児で有名な上級生に楯突いたことで、図らずも箔が付いたのかもしれない。


 相変わらずひそひそ声は聞こえたが、それもイヤホンを付けると、ぴたりと止んだ。代わりに、ピアノの優しい音が流れ込んでくる。伊原の好きなアーティストの曲だ。指でリズムを取りながら、次の授業の準備を始めた。



 ここは本当に、かつて私が恐れた箱庭だろうか。たった一人でも、自分の味方がいる。それだけで、あれほど気にしていた周りからの評価や視線が、気にならなくなっていた。今まで頭を悩ませていた全ての問題が瑣末さまつなものに思え、自分のすべきことが明確になった気がした。


 残り一年半、勉学に励み、東京の志望校に合格する。上京して、両親と姉のいないところで暮らす。


 もし、合格できたら……その時は、伊原に想いを伝えてもいいだろうか。こっそり後ろを振り向き、相変わらず机に突っ伏している彼を見つめた。


 よし、やるぞ!

 自分を奮い立たせるように、新しいノートのページを開いた。

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