(11)
「遥から聞いたよね。3ヶ月くらい前、伊原に友達になろうって言ったの、あれ嘘なの。多香子が考えた罰ゲームで、私はそれを実行する役だった」
伊原は勢い良く体を起こし、驚いたような顔をした。
「……俺が佐山から聞いたってこと、何で知ってるんだ? もしかして聞こえてたのか?」
「うん。たまたま掃除が終わって、教室に戻るタイミングで……全部聞いてたの」
罰ゲームのこと、動画のこと、伊原が殴られている間、止められなかったこと。彼は怒るだろうか。呆れるだろうか。反応が怖くて、拳を固く握り締めた。
「アイツらが言ってたこと、気にしなくていいからな」
放たれた言葉の意味を理解できず、思わず「え?」と聞き返した。伊原は私の目をじっと見つめ、再び言い聞かせるように「気にしなくていい」と言った。
そこには怒りも呆れも存在せず、ただ私を傷付けたりしないよう、慎重に言葉を選ぶ彼の優しさだけがあった。
「なんで怒らないの……? 伊原のことずっと騙してきたのに。私のせいで、あんな動画が広まったのに。相模に殴られたのだって私のせいなのに、どうして……?」
伊原は返答に窮した様子で、何も言わなかった。その時、頭の中に一つの可能性が思い浮かんだ。
「伊原、もしかして罰ゲームのこと、最初から気付いてたの?」
「ごめん……」
ばつの悪そうな顔をして答える彼を見て、居た堪れない気持ちになった。鈍感だと侮っていたのに、始めから全てバレていただなんて。
最初の頃、距離を縮めるために一生懸命話題を振ったり、多香子のシナリオ通りに告白したりしたことを思い出し、途端に恥ずかしくなった。伊原はどんな気持ちで、私と一緒にいてくれたんだろう。私の下手な芝居を見て、なんて浅ましくて憐れな奴だと思っただろうか。
「分かってたのに、どうして……?」
「途中で止めたら、契約不履行とみなされて、責められるのは笹川だろ?」
そうだ。彼はそういう人だった。自分のことはいつも後回しで、自分を傷付けようとした私なんかを庇うのだ。
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