(10)
「私、自分の何もかもが嫌い。顔も、中身も、声も、名前も全部……!」
言い終えた後で、ふと我に返った。無意識に口をついて出た言葉だった。ボロボロの伊原に向かって、私は何を弱音なんて吐いているんだろう。そんなこと言える立場じゃないのに。
「そうか。俺はそうは思わないけど。綺麗な名前だよ。笹川七って、七夕みたいで」
伊原がぽつりと呟いた。
--何でお姉ちゃんみたいにできないの?
--あたし、あんたみたいに生まれなくて良かった。
--姉ちゃんは優秀だったんだけどなぁ。
--ななちゃんと同じ班やだ。
--これ買ってくれるなら一緒にいてあげる。
--こっちはあんな奴友達と思ったことないから!
今まで、両親や姉、先生、友達に言われてきた言葉が脳裏を過った。悪意の有無にかかわらず、どれもが私を深く傷付けるナイフのような言葉だった。
自分の名字がずっと嫌いだった。家族の中で、私だけが出来損ないだったから。七という響きも嫌だった。ラッキーなことなんて何も無いから。私にはそぐわない名前だと思っていた。
どこにいても居心地が悪かった。いつも何かが恥ずかしくて、誰かに謝りたい気持ちで一杯だった。
「七夕みたいで、綺麗……」
けれど、伊原のその一言で、今まで自分を苦しめていた呪いの効力が不思議と薄れた気がした。初めて、自分の名前を綺麗だと思った。
「ありがとう。私、伊原に言わなきゃいけないことがあるんだ」
私は涙を拭い、真っ直ぐに彼に向き直った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます