(8)


 私が、伊原を助けないと……。


 なんとか自分を奮い立たせ、ガクガクと震える足で階段へと向かった。一番下の階まで辿り着いたところで、廊下を歩く先生の姿が目に入った。



「た、たす……助けてください!」


 声を振り絞ると、先生はすぐこちらに気付いてくれた。事情を説明しながら、一緒に階段を駆け上がった。



✳︎✳︎✳︎


「お前ら何やってる!」

「やばっ! タナ先来た!」


 先生の姿を確認するや否や、取り巻きは慌てた様子で教室から逃げ出した。相模は舌打ちをしながら机を蹴り付け、そこから立ち去った。


 多香子と遥の姿は、すでに見当たらなかった。



 教室の床にぐったりと横たわる伊原のもとへ駆け寄り、強く抱き締めた。息は乱れ、瞼と頬は赤紫に腫れ上がり、辺りに血が飛び散っている。



「い、伊原……しっかりして。死なないで……」

「これくらいで、死なないよ……」


 伊原は笑顔を作ろうとした。私を安心させるためだろう。その痛々しい姿に、涙が止まらなかった。



「おい大丈夫か! とりあえず保健室まで運ぶぞ」


 先生が駆け寄ってきて、伊原を軽々と背負った。



「すみません……。彼女は関係ないんです」

「もう喋るな。話はさっきの奴らに聞く」


 先生は落ち着いた声で伊原に言い聞かせた後、「保健室まで付いてきてくれるか?」と私に言った。

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