(7)


「お前ら最低だよ。なんで友達にそんなことできんだよ。あの子はお前らのこと友達だと思って……」


「待って、涙目なんだけど! キモっ! 悪いけどさぁ、こっちはあんな奴友達と思ったことないから!」



 遥が興奮した様子で言い終えると同時に、パンッ!と鋭い音が響き渡り、教室が静寂に包まれた。まさか……。


 目立たぬようにドアの窓から中を見やると、遥が赤くなった頬を押さえながら、伊原を睨み付けていた。



「お前、誰に向かって手上げてんだよ!」


 怒り狂った遥が伊原の胸ぐらを掴み、相模がまあまあ、とそれを宥めた。



「めんどくさいことは置いといて、別にお前の彼女ってワケじゃないんでしょ? ならどうなってもいいよね?」


 途端、伊原が思い切り相模の鳩尾みぞおちを蹴り上げた。相模はよろよろと体勢を崩し、激しく咳き込んだ。



「テメェこの野郎……!」

 

 相模のアイコンタクトを受け取った3人の取り巻きが伊原を押さえ付け、相模が容赦無く伊原の頬を殴り付けた。



 大切な人が、どんどんボロボロになっていく。私なんかを庇ったせいで……。


 今すぐ先生を呼ばないと。頭では分かっているのに、金縛りに遭ったように、怖くてその場から動けない。



「なんでだよ……」

「ハァ? 何?」


 消え入りそうな伊原の声に、相模は殴る手を止めた。



「あの子はお前らのために一生懸命やってきただろ! なのになんでそんなことができんだよ! お前ら人間じゃねーよ!!」


 こんな時ですら、伊原は、私のために怒っている。目と頬を腫らし、鼻血を垂らしながら、ただ私のために怒っている。

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