(5)
昼休みはいつも多香子たちへのゲームの進捗報告に使われたが、それも今日で終わりだった。
チャイムが鳴り終わると同時に、多香子は若葉を連れて教室を出ていき、遥は一人俯きながらお弁当を取り出していた。
伊原の席を振り返ったが、姿が見当たらなかった。隣の席のクラスメイトに聞くと、どうやら担任から職員室に呼び出されていたらしい。
嫌な予感が当たってしまった。成績は悪いものの、授業態度は真面目な伊原が呼び出されるなんて、動画の件しか考えられない。まさか、担任にまで広まっているなんて……。
固く目を瞑り、唇を噛み締めた。私は一体、大切な人にどこまで迷惑を掛ければ気が済むのだろう。
✳︎✳︎✳︎
昼休みが半分ほど過ぎたところで、伊原が教室に戻って来たのを確認し、すぐさま彼の元へ向かった。
「伊原、ごめん……。話したいことがあるんだけど、いい?」
「わかった、パン食べながらでもいい?」
伊原は何ともないような様子で答えた。一緒に教室から出て、人が居ない北校舎の4階に移動した。幸い、教室には煩い男子も委員長もおらず、何か言われることは無かった。
「ごめんなさい……。私、あの動画……」
「ああ、ごめんな。その件で、今日色々聞かれて大変だったろ」
伊原の返答に、視界が滲んだ。どうして、こんな時ですら、他人の心配をするんだろう。
「そうじゃなくて! 私はどうでもよくて……伊原、さっき担任に呼ばれたんでしょ? 動画のことだよね? 本当にごめん……」
「別にいいよ。大学には行かないから、先生の評価とかどうだっていいんだ。
俺はいいから勉強に集中しな。夏休み、予備校頑張ってただろ」
伊原はそう言って軽く微笑んだ後、窓の外を見ながらパンをむしゃむしゃと食べ始めた。どうして動画を撮っていたのか、誰が広めたのかなんて、一切追及してこなかった。
外を見ながら食べているのも、泣いている私の姿を見ないようにするためだろう。どこまでも不器用で優しい、彼は。
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