(7)


 ボタンを外そうとする私の手を、伊原がそっと止めた。



「ごめん……服を着てほしい。あと、俺なんかに言われなくてもわかってると思うけど、もっと自分を大事にした方がいい」


 伊原はそう言い放ち、立ち上がろうとした。私が服を着る間、部屋から出て行くつもりなんだろう。



 あーあ、伊原に振られちゃった。いや、別に、振られてもいいじゃん。嘘の告白なんだから。違う。私はこんな風に伝えたかったんじゃない。動画、このシーンだけじゃ足りないよね。伊原が好き。私なんか死ねばいいのに。……伊原、ごめん。


 一瞬の間に、色んな感情が頭の中を駆け巡る。



 私は立ち上がろうとする伊原の手を掴み、そのまま自分の方へ向かって、勢いよく引いた。伊原は必然的に、私に覆い被さるような形になった。


 困ったような、心配するような、そんな顔で私を見下ろしていた。



 もう、いい。

 この角度なら、バッチリ撮れているだろう。最後のミッションは達成した。もう十分だ……。一刻も早く、この場から立ち去りたかった。



「変なこと言ってごめんね。服着たら帰るね。ちょっと出て行ってもらってもいい?」


 伊原はこくりと頷き、体を起こして部屋から出て行った。扉が閉まると同時に、本棚からスマホを回収し、動画をストップした。


 服を着て、リビングで待つ伊原に声を掛けること無く、家から飛び出した。伊原は追ってこなかった。



✳︎✳︎✳︎


[告白どうだった? ちゃんと言えた?]


 その夜、神堂からメッセージが届いた。返す気になれなかった。応援してくれた神堂のことも、裏切ってしまった。返す資格が無いと思った。



 [約束の動画]とメッセージを添えて、多香子に動画を送信した。そのままスマホの電源を落とし、眠りについた。

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