(3)


 万が一、伊原が罰ゲームのことを知って逆上してきた時のために、保険を用意しておきたいんだよね。だからなな、伊原に告白して。服脱いで迫って、襲わせて。その一部始終を動画で撮影してほしいの。それさえできれば、伊原への種明かしはしなくていいよ。



 多香子の言葉を時間をかけて咀嚼し、呆然とした。「そんなの、無理に決まってるでしょ……」そう呟く私に、彼女は淡々と続けた。



「大丈夫。動画は万が一に備えて、あたしが持っておくだけ。絶対に悪用はしないよ」


「……本当に? それで、ゲームは終わり?」


「約束は守るよ。友達じゃん」



 反吐が出そうな言葉だ。だけど、本当にそれで伊原が何も知らずにいられるなら、受けるべきじゃないだろうか。私の口から全てを話し、笑い者にされて、傷付くくらいならば。



 私は条件を飲むことにした。決行は夏休み最後の水曜日。シナリオは明日連絡すると言われ、その場は解散になった。



✳︎✳︎✳︎


 帰り道、神堂にメッセージを送った。


[ごめん。次の水曜日、伊原と二人で会っていいかな]

[え〜!? なんで? まさか告白?]


 神堂の質問に、胸がチクリと痛んだ。


 告白……。多香子が考えたシチュエーションで、多香子が考えたセリフを、多香子のシナリオ通りに演じる。そんなの告白とは言えない。だけど、神堂に本当のことは言えなかった。



[うん。伊原に告白する]

[そうなんだ。頑張ってね]


 意外とすんなり引き下がってくれたことに安堵した一方、普段は憎まれ口を叩いてばかりの神堂の素直な応援が、苦しかった。

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