(2)


「お待たせ……」


 息を切らしながらコンビニの前に座る多香子に声を掛けると、彼女は意外と早かったね、と微笑んだ。



「お願いがあって来たの」

「なな、えらいじゃん。夏休みもちゃんと伊原と交友してたんだね」


 被せ気味に多香子が言った。どうしてそれを知っているの? 私の疑問を感じ取ったのか、彼女は言葉を続けた。


「手駒が多い分、目撃情報も集めやすいんだよ。夏祭りまで行っちゃって……神堂は邪魔だったけど、随分絆を深められたんじゃない?」



 多香子は愉快そうに笑った。私は気圧されないよう、もう一度話を切り出した。


「あのね……お願いなんだけど、伊原への種明かしは、やめさせてもらえないかな……」



 気を付けていても、やっぱり声は震えてしまった。でも、ちゃんと言えた。おずおずと顔を上げると、多香子は呆気に取られた様子でこちらを見つめている。



「何で? それは駄目。最初に言ったはずだよ。このゲームの醍醐味は、ななが種明かししたときの伊原の反応を楽しむことだから」


「一生のお願いだから……。私はどうなってもいいから、伊原を傷付けたくないの」



 多香子は途端に腹を抱えて笑い出した。


「もしかしてなな、伊原のこと好きになっちゃったの? あんな陰キャ? あり得ないんだけど」


 ヒィヒィ笑う彼女を見て、どうして私はこんな人に必死にしがみついていたんだろうと思った。こんなことまでしないと得られない友情なんて、最初からいらなかった。



「はぁー……。そこまで言うならいいよ、種明かしは無しで」


 ひとしきり笑った多香子がケロリとした顔で言った。私が歓喜しながら「本当に!?」と聞き返すと、彼女は「ただし、一つだけ条件がある」と続けた。

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