4. 破綻
(1)
毎週水曜日は伊原のバイトが休みのため、3人で遊ぶことになった。図書館、カラオケ、夏祭り、色んなところへ行った。夏祭りでは伊原が浴衣を着てくることを密かに期待したが、願いも虚しく、普段通りの私服だった。
気付けば、夏休みも残り1週間となっていた。そして、私と伊原が友達になってから、ちょうど3ヶ月が経とうとしていた。
夏休み中、多香子たちから新しいミッションを言い渡されないか不安だったが、4人のグループトークが動くことは一度もなかった。恐らく、私抜きのグループがあり、そちらは活発なのだろう。もしくは、もう罰ゲームなんて飽きてしまったのだろうか。
3ヶ月が経過する前に、多香子に言わなければならない。伊原へ罰ゲームの種明かしをするのはやめさせて欲しいと。これは、私から彼女への最初で最後の反抗になるだろう。震える指で発信ボタンを押そうとした、その瞬間だった。
[木津 多香子]
スマホの画面に多香子のアイコンと着信画面が表示され、息が止まるかと思った。このタイミングでの多香子からの電話。確実に、良い話ではないだろう。
でも、決着をつけるには今がベストなのかもしれない。声が震えないよう深呼吸し、応答ボタンを押した。
「……はい」
「楽しそうだね」
機械のような声で多香子が言った。その言葉に、一瞬思考が追い付かなかった。
「楽し……そう?」
「うん。あんた毎日楽しそうだね」
多香子が続けた。今まで聞いたことのない声だった。無感情なようでいて、どこか嘲るような、羨むような……よく分からなくて、怖いと思った。
「最後のミッション、今から話すよ。駅前のコンビニにいる」
多香子がそう言い終えると同時に、ブツッという音が耳に響いた。電話が切られたようだ。私は混乱した頭で、急いで外に出る支度をした。
言いたかったことが、何も言えなかった。
いくら自分を奮い立たせていても、高圧的な話し方をされるだけで、心臓が縮み上がり、何も言えなくなってしまう。そんな自分が、情けなくてしょうがなかった。こんなことで、直談判なんてできるのだろうか。
いや、やらなくては。伊原を傷付けるくらいなら、自分が傷付いた方がよっぽどいい。元はと言えば、こんなゲームを受けた私が悪いのだから。
両頬を叩いて気合いを入れ、スニーカーを履いて外へ出た。熱気を切るようにして、駅前へと走った。
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