3. 平和な休日

(1)


 夏休みに入り、週3回のペースで予備校に通った。


 一人ひとりの学習スペースがパーティションで区切られていて、配布されたビデオとテキストで黙々と勉強する。お腹が空いたら、適当なタイミングで、休憩スペースで食事を済ませる。そこは学校と比べると自由で、快適だった。



 その日も予備校を終え、家路に着くと、リビングから母と姉のけたたましい笑い声が聞こえてきた。


「ただいまー……」

「あのね、お姉ちゃんが行きたかったインターンの選考通ったんだって!」


 母が興奮した様子で詰め寄って来て、思わずよろけてしまう。「良かったね」、そう返した時には母はすでに背中を向けていて、「ご馳走作らないとね!」と、姉に向かって話し掛けていた。



「お姉ちゃん、おめでとう」


 ソファで寝そべる姉にそう伝えたが、当然のように返事は無かった。忙しない様子でスマホを操作している。恐らく、友達やサークル仲間に報告しているのだろう。



 4つ上の大学生の姉は、私と正反対で、容姿に恵まれ、器用で社交性があって、友達も多い。両親は、そんな姉をすこぶる可愛がっている。私は家でも教室でも、居心地の悪さを感じていた。



 伊原に会いたい。ご飯をつつきながら、テレビを観ながら、お風呂に入りながら、そう思うことが増えた。

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