(13)
「ねぇ、君は蛍くんのことが好きなの?」
神堂から発せられた言葉に、暫く理解が追い付かなかった。私が伊原を好き? そんなはずはない。伊原はこのゲームにおける被害者で、私は加害者だから。そんな感情を抱いて許されるわけがない。
「好きじゃない……」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、神堂は「どう見ても好きにしか見えないけど」と、こちらを真っ直ぐに見つめて言い放った。
息のしづらい教室で、伊原と過ごす休み時間が唯一の癒しになっていたこと。笑顔を見る度に、胸が締め付けられること。夏休みに会えないのが寂しいと思ったこと。考える前に、触れてしまっていたこと。
いつの間にか、伊原と一緒にいることは、私にとって罰ゲームではなくなっていた。私が伊原を好きだから。それは心境の変化を説明するのに、十分すぎるくらい腑に落ちる理由だった。
「す、好きなのかもしれない……」
私の言葉に、神堂が呆れたような顔で溜息を吐いた。口に出すと、改めて実感させられる。私、伊原のことが好きなんだ。くすぐったいような、泣き出したくなるような、よくわからない気持ちになる。
だけど、あと1ヶ月後に私は伊原に種明かしをしなくてはならない。私たちは、罰ゲームで友達になったこと。本当は友達なんかじゃないこと。
その時、伊原はどんな顔をするのだろう。感情を表に出さない彼でも、泣いたり、傷付いたりするのだろうか。伊原の気持ちを想像すると、今にも胸が張り裂けそうだった。
夏休み、多香子に言おう。罰ゲームは終わらせて欲しいと。それから、伊原に本当の想いを伝えよう。傷付けてしまわないよう、真相は隠したまま。
自分でも都合が良いとは思いつつ、そんなことを考えた。そんなに容易く済むはずがなかったのに。
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