第44話 何この後輩イジると可愛い
用紙の上に置かれた五百円玉に、四人分の人差し指が集まる。
「五百円じゃないとDXじゃないから」とのことで、これは俺の五百円玉。……こっくりさんって490円ぽっちでDXになるのか?
「それじゃあみんな、力を抜いてね。……こっくりさんこっくりさん、どうぞお越しください……」
「………………う、動いた!」
四人の指を乗せた五百円玉は、まるで意志を持っているかのように用紙の上をするすると動き始めた。
「ええええすごおおおおお!!」
「ヤバいですヤバいですヤバいです!!」
……こいつらの反応新鮮過ぎるだろ。テレビショッピングかよ。水素の音でも聞いたのかよ。
そんなことを思っていると、ふと、従来の「こっくりさん」との違和感。
「……なんか速くね?」
「うん、DXだから解答速度も上がってるらしいよ」
何だよ解答速度って。こっくりさんに作業効率求めちゃダメだろ。
iPhoneかよってくらいヌルヌル動く五百円玉の軌跡を、本仮屋が読み上げる。
「『お か る と ぶ の み ん な ! お っ は る ん !』」
「え? 何?」
「挨拶だよ! 私たちも挨拶返さないと! ホラ元気よく! おっはるん!」
「「お、おっはるん……?」」
「『う ー ! お ー る お っ け ー ! そ れ じ ゃ あ こ っ く り さ ん に き き た い こ と は あ る か な ?』」
……無駄が多いな!
不審に思い、隣の十日市にこそっと話しかける。
「ねぇ、何でこんなんなの?」
「DXだからだよ」
一言で済ますな。全然済んでないんだよ。
心の中で思いっきりツッコんでいると、正面の本仮屋が元気よく手を上げた。
「はい! はい!」
「『じ ゃ あ え ー え ー か っ ぷ の き み !』」
「……おい」
声ひっく! もとかたん声ひっく! 本加のレイジ怖すぎるだろ!
「『き み が き き た い こ と は ?』」
こっくりさんの度胸すげぇな、今完全に流したぞ。……やっぱDXだと違うのかなぁ?
と、胸元に虚無を抱えた幼女は、神相手にはさすがにギャンギャン怒れないらしく、溜飲を下げて質問に臨む。
「こっくりさんこっくりさん、……春川先輩が城ケ崎先輩にお弁当食べさせてたって本当ですか?」
「ハァ!?」
にっこにっこにーな本仮屋の笑顔に、黒い感情が見え隠れするのは多分気のせいではない。
どうやら春川先輩を怒りの捌け口にするつもりらしい。
「ち、ちち違っ……」
「『も ち !』」
春川の口から出かけた否定の言葉は、たった二文字の肯定によって打ち切られた。
「じょ、城ケ崎君、本当?」
「ああ、めっっっっちゃ美味かったぞ」
「へ? ……ほ、ほんとう?」
目を丸くして尋ねる春川。
何その反応とは思いつつも、ここは礼の一つでも言っておかなくては。
「ああ。マジ美味かった、ありがとう」
「……うん、あ、はぁ、へぇ、おお、ふぅん、そう」
春川は下を向き、金色に艶々と輝く前髪を
「『あ た し の り ょ う り じ ょ う が さ き に お い し い っ て い っ て も ら え た ! う れ し い !』」
「オイ! 心の中盗聴すんな!」
え、弁当自分で作ってんのかよ、すげぇな。俺の得意料理とかおにぎりだぞ。
「はい!」
白く綺麗な手がぴっと上がり、今度は十日市が質問を求める。
「『え ふ か っ ぷ の き み ど う ぞ !』……チッ」
もとかたん、今、読み上げた後軽く舌打ちしたよね?
……でも、十日市さん、Fカップかぁ……。これがFなんだぁ……へぇ……。……あ別に興味あるとかじゃないですよ勘違いしないで貰っていいですか?
「ちょ、じょ、城ケ崎君、見ないでよ……」
片手でやんわりと胸を隠し、赤くなった顔でジト目を向けてくる十日市。
それはまるで、白く透き通った陶磁器に鮮やかな紅が溶け出しているよう。
「すすっ、すいません……。そんなことより、ホラ、しっ質問しなよ」
「え、あ、う、そっそうだね、えっと……こっくりさんこっくりさん、こっくりさんの本名は? 年齢は? 彼女はいるの?」
何その、ネットでよく見るユーチューバーまとめサイトみたいなやつ。
それに対する回答はというと。
「『聞いてどうするのですか?』」
さ、早速使ったぁ! それは俺もちょっと思ったぁ! 自分と全然違う世界に住む人の個人情報とかどーでもいーだろ。知ってどうすんだよ。……でもやっぱりあーゆーサイトって見ちゃうよね!
「ええっ!?」
「いや、そらそーだろ……。知ってどうすんだよ」
十日市の質問がさっと流された具合、俺の中でもちょうど質問が決まった。
ということで、このDXらしいこっくりさんに質問を!
……本仮屋さん、私、結構根に持つタイプなのよ?
「はい」
「『お お き い ほ う が こ の み な き み !』……うえぇん!」
「あ! 城ケ崎が本仮屋泣かせた!」
「城ケ崎君ひどい! 小さい方も好きだって言ってあげなよ!」
「ねぇ、その追い打ちは無自覚なの?」
嘘泣きをする本仮屋、本仮屋を執拗に追い込む十日市。ドS市さんと嘘仮屋は放っておいて、俺は質問を口にする。
「……では、こっくりさんこっくりさん」
「『な ー に ー ?』」
「なんか本仮屋の恥ずかしい話とかないですか?」
「『た っ く さ ん あ る よ ー ! た と え ば ち っ ち ゃ い こ ろ に す き な ひ と か ら も ら っ た は ん か ち を ま く ら も と に お い て る と か』……ってちょおおおい!」
一瞬で真っ赤になった本仮屋は、チカチカと光る五百円玉に向かって喚き散らす。
……いやそれ、自分で読み上げてるんだから、聞かれたくないなら読まなきゃいいじゃん……。
にしても、うん、ちょっとね、その、まぁ、可愛いな。きゃわわ!
「うわぁ、本加ちゃんいちずぅ~! ひゅう!」
「え、可愛い! 本仮屋可愛いんだけど!」
「ちょ、や、やめてください……!」
二人の先輩のニヤニヤした視線を全身に浴び、お顔まっかっかの本仮屋は居心地悪そうに身を
「……城ケ崎先輩のせいですからね」
むすっとした赤い顔が、少し下からこちらをじと~っと睨む。
火照った頬、いじけた表情、きゅっと結んだ口元。
……ヤダ何この子イジると超可愛い。
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