第43話 別にこっくりさんはしたくない

「そう言えば聞いた? あの話、うちの町だけじゃなかったらしいよ」

「あの話?」

「アレだよ、今話題になってる。……ホラ、町中の車が一斉に止まったり、町中が一瞬だけ停電したりってやつ」

「……あぁアレか。はい、アレですね」


 っべー……。

 俺の能力じゃんかよぉぉ……。


「ちょうどオカルト部でトンネル行った時だったじゃん? でさ、そん時、日本だけじゃなくて、世界中の車とか乗り物も止まったんだって」


 物珍しそうに語る春川の視線に耐え切れず、俺は窓の外へ目を逸らす。

 ……だってぇ、そんなの聞いてないじゃん……!

 とか、こんなことなるなんて思ってないじゃん……! 


「へ、へえ」

「で、世界中の電気も全部止まったらしくて、地球が真っ暗になった様子を確認しようって宇宙ステーションと通信してみたら、なぜか宇宙ステーションも停電してたっぽくて、何にも記録できてなかったんだってさ」

「……なんだそれこえぇ!」


 我ながらかなりアホっぽい演技。

 一度親に言われたことがあるのだが、俺が嘘をくときは必ず「これは我が子か?」と疑うくらいアホになるか、或いは敬語になるらしい。

 「ターボババア」を祓った後、俺は眠ったままの春川をおぶって帰った。

 彼女が背中で目覚めたとき、状況に対する説明としてまた一つ嘘を吐いたのだが、果たしてその時も癖が出てしまっていただろうか。

 俺の話では、春川が気絶したのは「パルムかと思って拾った物がクソデカゴキブリだったから」、ということになっている。咄嗟に思いついた割に妙にリアルなので多分バレないだろう。大丈夫、バレなきゃバレない。




「今日はこっくりさんをします!」


 放課後、いつもの部室にて。

 にこにこ笑顔の十日市が、突然そんなことを。


「あっ! 届いたんですか!?」

「そう、届いたの! ……じゃじゃーん! 「DXこっくりさん」!」

「「……でらっくすこっくりさん?」」


 十日市がじゃんっと取り出したのは、やたらめったらビビッドな色遣いの、すごく頭の悪そうなデザインをした平たいパッケージ。

 いそいそと開封する十日市の隣で、空になったパッケージを手に取り表面を眺める。


「……こっくりさんの全機能を押さえたコンプリートセット! これさえあれば君もこっくりさんマスターだぜ! ヒュウ!」


 って、書いてあります……。


「なにそれ……うさんくさ……」

「いいじゃないですか、楽しそうですよ!」

「普通の商品に「ヒュウ!」なんて書いてるワケないじゃん……」


 何だよ、こっくりさんの全機能って。こっくりさんって何かのシステムだったの?

 それに、「こっくりさんマスター」ってどういうことだよ。心を病んだオカルトオタクのあだ名かよ。

 手当たり次第に突っ込んだところで、十日市さんの準備が整ったよう。


「出来た!」

「これが……?」


 机の上の、何の変哲もない紙。

 何やら色々書かれているが、普通のこっくりさん用の紙とはあまり大差ないようだが……。


「何これ? なんか違う?」

「ぜんっぜん違うよ! もう、ちょーDXだよ! ほらこことか見て!」


 十日市の細く白い指が指すところには、こっくりさん用紙ではよく見る「はい」「いいえ」の他に、「知りません」「答えたくありません」「聞いてどうするのですか?」「分かりません」の選択肢。

 ……はい、やった。やってるわコレ。完全にやってる。

 もう明らかにツッコミ待ちじゃん。これ作った奴、こっくりさんナメてるだろ。


「なんと! 「こっくりさんDX」には、「はい」「いいえ」以外の応えもついてるんだよ!」

「ヤバいですね!」

「「知らん」と「分からん」同じじゃん……」


 さすが春川、気が合うぜ。オカルトに染まり切った奴らとは大違いだ。

 本仮屋なんて、プリコネのペコリーヌみたいになってたもん。怖いよ。

 プリンセス・ストラーイク!の威力におののいていると、オカルト部のヤバい奴のもう一人・顔はキャルちゃん似の十日市藤花が、形の良い胸をえっへんと張って自信満々に言う。


「いつも幽霊いない妖怪いない都市伝説いないば~っかり言ってる城ケ崎君には、Mr.コックリの凄さを知ってもらいます!」


 キャルちゃんの「ヤバいわよ!」と同じで、俺それあんま言ってないからね? それにしてもMr.コックリのMr.マリック感は異常。

 すると、正面の本仮屋が嫌らしく口角を上げて、身振り手振りを交えながら急にキザったく話し始めた。


「……熱力学第四法則がアレでぇ、割れ窓理論がアレだからぁ、幽霊なんかいねーんだよぉなあぁ~」

「……オイそれ俺の真似?」

「はははっ! 本加ちゃん似てる!」

「あはははは! 城ケ崎コレお前にそっくりじゃん! ふふふふっ! ウケる!」

 

 ……本仮屋テメェ。

 あと、熱力学第四法則は存在しないし、割れ窓理論はなんか治安が悪くなるやつだろ。

 ……決めた。こっくりさん(DX!)に、外も歩けなくなるような恥ずかしい秘密を聞いてやろう。ヒュウ!


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