第15回 人類最強
前置き
アヤ『ピンチからの成長は私の仕事じゃない』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(やっぱり神話に出てくるようなバケモノの『特典品』は強いな、同格の存在でなければ容赦なく殺せる)
たとえ『王』の呪いによって強化されていようと知ったことではない。
元々縛りの無いダンジョンでの戦いは私にとって一太刀で片が付く相手が殆どだ、それが更に確実になっただけの事。
旧ロスキレ大聖堂ダンジョン
そこには何故か北欧神話由来のバケモノやアイテムが集まっている。
未だ攻略されていないダンジョンの1つだが私やファースト、セコンズの中でも最前線を開拓することを生き甲斐としているベルレイバーによって完全攻略の日も近い。
100階層で終わりではない可能性を考えなければ、という言葉が付く前提の話だが。
私が今一撃で2体の大型魔物を殺したのは単純な大太刀の威力にどんな魔物にも通る凶悪な毒を武器に付与する蛇のバケモノ、ヨルムンガンドの『特典品』による影響が大きい。
(……ま、どうせコイツには効かないんだろうなぁ?)
距離にして3メートルもない、お互い余裕で相手の首を飛ばせる間合い。
(多分後ろの2体はすぐ終わる、シンシアもメイビーも弱くないから。となると……私も急がないとね)
膠着状態を続けている意味もない。
どうせ叩き潰すんだ、時間をかけずに行こう。
『『
ギルドの防衛に回していた『王』、あれは本当はキサラギが持っているものではない。
私が手に入れた、旧ロンドン塔を難攻不落に仕立て上げていた最初の『王』にして最強の『王』だ。
鐘の効果としては『刀剣武器の切れ味向上、意思による最大3倍の攻撃範囲拡張』だ。
後者のは恐らく『
前者は定番効果ではあるが上昇幅が異常だ。
ただのシルバーナイフがダイヤモンドを軽々と両断できるようになる、と言えば分かるだろうか。
『王』を『
あれを一般人が単独で
私が戦闘態勢に入ったのを感じたのか刀を構える『王』。
だが残念、これは戦いではない。
ただの蹂躙だ。
私が何故大太刀という大振りな、それもマイナーな方の武器を選んだのか。
私にとってはこれが一番『我流で振ってもバケモノを殺せる』と思ったからだ。
私が刀でアンストラグランを殺したのが広まった後は当然、ありとあらゆる剣術が見直された。
有名剣術から我流に近い聞いたこともない剣術まで様々なものが蔓延った。
それでも私は剣術を選ばなかった。
それは何故か。
既存の剣術ではバケモノは殺せないからだ。
剣術師範も段々と気づき始める、人間を相手取るのとバケモノを相手取るのとは違うと。
それに合わせて教えを変えるが師範は教える都合上ダンジョンに潜る暇など無い。
伝聞でしかバケモノの話を聞けないのだ。
今でこそ便利な世の中になったが当時はダンジョン内でしか魔物とは戦えない。
数歩出遅れるのは当然だった。
私が求めたのはとにかく、人を越えるバケモノを無理矢理にでも両断できる刀。
師が持ち出した様々な候補の中から私が選んだのが大太刀だった。
未だ私しか出来ない増幅結晶からの直接魔力供給を利用した『人間がしていい動きではない』と言われる身体能力を元来ある身体を扱うセンスを利用して発揮。
最速、最強の一撃を繰り出す……大抵はこれで終わる。
『来なよ、ニセモノ。あんたなんかここの本当の主の数段弱い』
『先駆者の黒衣』によってノイズがかかったような私の言葉に食い気味で刀を振るう王だったが既にそこには私はいない。
バキッと硬いものが砕ける音が響く……私が右手に握る増幅結晶を左の大太刀の鍔に当てて砕いた音だ。
(1等級なんて必要ない。2等級で充分だ)
砕いた増幅結晶の種類はアタックルーン……純度は2等級と呼ばれる上から2番目に効果が高いもの。
王の知覚速度を上回る回避は既に砕いてあったボルテクスルーン……雷を扱うルーンで無理矢理身体を動かした結果だ。
ボルテクスルーンは本来こんな使い方は出来ない、身体に直接魔力を叩き込んでるから出来る所業だ。
人類は雷を身に宿すことなど本来出来る筈もないのだから。
『遅いのは仕方ないにしても先を読むくらいしろよ。何故今になって創られたか、何の意図で創られたか知らないが』
雷鳴は轟き、王の冠に向けて暴威が走る。
『殺意が足りない、意思が足りない、何より……』
『全くもって強さが足りない』
王の肩から黒い液体が噴き出る。
先の一瞬で与えた袈裟斬りを肉体がやっと認識したようだ。
『……もう私が戦場の空気で満足することはなさそう……』
先のギルドバトル、あれは良かった。
枯れ果てた報復が蘇った訳ではない。
所詮は
ただ、あの人間の限界を試すかのような現実ではあり得ない魔物の集団が現れた時、間違いなく、抑えていた枷が一つ軽々と外れた感じがした。
だがこれでいい。このくらいで済んでいた方が人類にとって都合がいいんだ。
私は
私が娯楽に興じているくらいがちょうどいいんだ。
だから、
それまでは私は、
『お前らのような
剣を杖代わりに立ち上がる王、既に瀕死に近い。
(またメイビーに『参考にならない』って言われるや)
私の戦いは弱点を徹底的に突く方法、現実ならば即死があり得る場所を狙うがギルドバトルは所詮はエンターテイメント。
公平性の問題で魔物の即死はあり得ず、一定のダメージでブレーキがかかる。
つまり最速を目指すには……
即死の連続攻撃を考えなければならない。
幸い、目の前には中々にしぶとい王、試すにはちょうど良いかもしれない。
(……あ、あの装備。ゴミかと思ったけど使えるかも)
懐から取り出したのは灰色の数珠。
手首にかける形でそれを装備し、肘の間接を狙って大太刀を振るう。
振るわれた剣は一度、しかし王は複数回に分けてズリズリと後ろへと飛ぶ衝撃を与えられていた。
旧東大寺ダンジョン最下層88階層
『金剛大仏』から手に入れた『特典品』、『五劫の数珠玉』
これを装備した者の攻撃は強制的に五分割される。
入手した当初は『なんだこのゴミは』と思ったが一撃の威力を充分に確保できるようになった今なら……と使ってみた結果、この通り。
腕を飛ばされ、王は倒れた。
念のためにその首を飛ばし、転がった頭に大太刀を突き刺す。
過剰な追い討ちだと思う?
頭だけになっても動くバケモノもいるんだ、王はその類いではないが呪いの影響がある可能性を考慮して過剰な追い討ちは必要だろう。
血を払う必要はない、魔王の魂は錆びも穢れも無縁の存在。
むしろ斬れば斬るほど、血を纏えば纏うほど鋭さと美しさを増す魔性の刀だ。
背後を見れば既に戦いは終わっていた。
……少し遊び過ぎたみたいだ。
入り口の黒泥は消え去り、110階層の入り口とエレベーターがあった。
『……あとは任せた。情報屋』
「任せてくれたまえ。ここからは私の得意分野だ」
こうして旧ロンドン塔ダンジョンで起こった事件、私の仕事は終わった。
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