第14回 『女王狩り』と『情報屋』

予約投稿忘れてましたわ、申し訳ない

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 アヤ氏……いや、アザミ氏が3体の魔物へと駆けていった。

 残されたのは2体と2人……折角だから楽しもう。


「うん。そうだ、メイビー氏。提案があるのだけど」

「つまらないものだったらオイラはやらないよ」

「つれないなぁ。ちょっとしたデモンストレーションだよ」

 メイビー氏は首を傾げる、まぁこの状況ですぐに思い付く方がおかしい。


「折角ちょっと強い『四諸侯』が1体ずつ割り当てられたんだ。競争しよう」

「……事前に与えたダメージが均等じゃないんだけど?」

『死海魔術師』は完全に無傷。キサラギ氏は防御重視で動いていたのだろう。対して『魔氷の絶剣』は少しだけ傷が付いている。


「その分君の方が火力は上だ、ちょうど良いハンディキャップと許して欲しいね」

 はぁ……とため息を返される。

 やっぱりメイビー氏、私の事嫌いだろう?


「……やるからにはオイラは負けないよ?『親愛の鐘ディアーベル解放リリース』!『ウルティマギア・カースドクイーン』!」

「私も頑張ろう。さて今日はどの武器でやろうか……まぁとりあえず『親愛の鐘ディアーベル解放リリース』『デウス・エクス・マキナ』」

「そこから?……やっぱオイラ、あんたとは合わない」

 それぞれ『親愛の鐘』を解放、だが私はまだ武器を構えてすらいない。

 ……あぁ、そうか。

 メイビー氏は私の自由すぎる戦い方が気に入らないタイプか。


 まぁ私のは、先駆者がいなければ成り立たない欠陥の戦いだからね。


「あんたは何処か達観してるんだ。自分は命のやり取りの外に居る、自分が死ぬことはない、って。そんなだから自分の武器相棒をずっと決めていない」

「複数の武器が得意な者も居るだろう?ミッシェル氏とか」

「あの女は極めてるから良い。人間的には嫌いだけど強さは認めてる。でもあんたは……全部2位以下だ」

「当然さ。私は『情報屋』だからね」

「そんな奴に……」

 メイビー氏の纏う気配が、魔力が世界に影響を与え始める。


「オイラは、負けるわけにはいかないんだよね!!」

 杖に埋め込まれたルーンが輝く。

 彼は火水雷の3種の魔法を多用するがその中でも特に得意な魔法、それは……


「轟け、『天雷槍』!!」

 雷魔法だ。


 彼の周囲の魔力が輝き、『死海魔術師』へと殺到する。

 無論これだけで死ぬ程、柔ではない筈だが……。


「……半分くらいは外されたかな?」

 見れば『死海魔術師』は薄い膜のような結界を纏っていた。

 半壊していたそれは修復を始め、再び守りを固めようと企んでいる。


「させるわけないでしょ、『万雷世界』」

 次は魔力が『死海魔術師』の頭上へと殺到、連続で雷鳴が轟いた。

 防御に必死でこちらを攻撃する余裕もない。


(ふむ。やはり驚異的な魔力量と常識外の魔法を実現させる魔力操作精度……ファーストランカーでもおかしくない)

 遠距離最強のミッシェルに唯一、1つの分野のみとはいえ勝てる見込みがある人物、それがメイビー氏。


 普通はここまで魔力を自由に操作して敵の頭上からのみ雷を落とすなんて事は出来ない。

 自滅覚悟の技が『万雷世界』と名付けた人物の本来の使い方。

 これの攻撃範囲をメイビー氏は完全に支配し、敵にのみ雷を連続で落とす最強の技へと昇華させたのだった。


(上への野心が無いのが惜しいなぁ……)

 そう、メイビー氏はランキングなんて気にしていない。

 本当の意味で『やりたい事をやってるだけ』なのだった。


『野心は人を強くし、狡猾にする』……私の持論だ。

 彼にこれ以上の成長は見込めない。


 ……いつか彼女アザミに捨てられそうになったら……また化けるかもしれないね。


「……おっと、いけないいけない。勝負が終わってしまう」

「オイラの方はもう虫の息だ。仕方ないから20秒だけ待ってるよ」

 おー、優しいね。

 ……じゃああれで行こう。


「『変貌神器ドッペルウエポン』魔炎の杖、それと、折角だから大太刀で行こう」

 そう告げると同時に私の懐にあった護身用の短剣が姿を変えて顕現する。


 黒と赤の増幅結晶が先端に填められた腕程の長さの短杖と巨大な太刀がそれぞれ左と右に握られる。


「……やっぱり素の力だと使えるものじゃないね、これ」

 ただし、大太刀は地面に引き摺るような状態、とてもじゃないが戦えそうには見えないだろう。


 なのでこうする、というか……。


 残り10と数秒で殺し切るにはこうするしかない。


「『魔武器再誕マギウエポン・リバース』」

 魔炎の杖を炎魔法の暴発による爆破で砕く。

 そしてそれを大太刀と私自身の力へと還元する。


 これはベルレイバーに取って切り札とも言える行為。

 魔力が宿っている武具を破壊し、メイン武器や自身の身体能力を一時的に向上させる手段だ。


 だが私はそれをノーリスクで出来る。

 それが私の『特典品』である『変貌神器ドッペルウエポン』だ。

 これは私が見た最高の武具を約7割の性能で再現することが出来る変化する武器。

 そしてその武技も、私は7割ほどで再現することが出来る。


 この武器は私のためにある。


 私は『情報屋』として自分で数多のベルレイバーの活躍の場へと足を運んだ。

 時に畏怖し、時に憧れた。

 同時に私にはいつまでも追い付けない場所に彼等が居ることも察していた。


 私には突出した武芸の才能は無い、元軍人のミッシェル達や天性の武器の才能を持ったファーストランカーの猛者には勝てない。


 分かっていた、分かっていたけども……。


 夢は捨てれないものなんだよ。


 そんな私に贈られた私が見た最強を模倣する『特典品』。


 これさえあれば、これさえあればっ!!


 再誕に使われた武器の素材によって力の贈与量は変わる、強ければ強いほど良い。


 最強を砕き続ければ……私は最強になれるっ!!



 こうして、ファーストランカー9位。情報屋のシンシアは覚醒した。

 彼女は時間をかければかけるほど強くなる、それこそ『特典品』が模倣する武器をわざと破壊し続け、勢い余って魔力が枯渇しない限り。勿論、そんな間抜けを晒すような人物はファーストランカーにはなれない。



 ミッシェルの杖の再現である魔炎の杖は本来火、雷、闇属性の増幅結晶が填められた物だが再現体であるこれは火、闇の2属性のみ。

 それをこの5秒で5本砕いた。残りは約5秒。


「待たせたね。そして……さようなら」

 大太刀が纏う炎を暴発させることで私は一瞬で距離を詰め、『魔氷の絶剣』を縦に両断した。

 周囲の一般ベルレイバーから見たら一瞬で私が『魔氷』の背後に移動して何故か縦にパックリ割れてる光景が見えただろうね。


(さて、これは私の勝……ち)

 ハラハラと光の粒子が散り、姿が消え始める『魔氷の絶剣』。

 しかし、メイビー氏が相手をしていた『死海魔術師』は姿が無く、粒子が舞うだけだった。


「……間違いなく20秒以内に仕留めたと思ったんだけど、これはどういうことかな?」

「オイラの主観では20秒きっかりでトドメ刺したよ?数え方が悪かったんじゃないかな?」

 ……白々しい。

 今の会話のやり取りは10秒ほど、懐の銀時計を見ても30秒も経っていない。

 明らかにメイビー氏は早く動いた。


「そこまで私が嫌いかい?メイビー氏」

「嫌いに決まってる。あんたがアザミの武器で拙い剣術を披露する度に未熟すぎてイライラする」

 ……あれ、そういうこと?

 私ではなくアザミの真似をする私が嫌いなのか?


「じゃあ今度は別の誰かの武芸を披露しよう」

「再現するならもう少し上を目指せよ、情報屋」

「生憎と、これが私と『変貌神器この子』の限界点らしい。これ以上を望むなら私は本当に命を懸けないといけなくなる」

「……まぁ、あれ・・に並べる人間なんて、多分それは人間じゃないね」

 2人が見つめる先は『王』と相対する1人の人間。

 そこまでの道程には光の粒子が散らばっていた。




 ◇◇◇




「すっげぇ……」「オレ、シンシアさんの本気の武器初めて見た!!何処で売ってるんだろ」「バーカ、あれ『特典品』だろ。誰にも作れっこねぇだろ、あんな武器」


(……手加減無しとは言えここまで地力の差があると嫌になるね)

 先程まで怯えていたとは思えないほど皆はしゃいでいた。

 ウチはというと、警戒するのも馬鹿馬鹿しくなって既に肩の力を抜いてこの騒動の顛末を見つめている。


 武器を何度も壊して糧にするシンシア。

 派手な雷魔法で目を引くメイビー。

 そして……、


 その影で『暗殺騎士』と『腐湖の魔剣士』を一撃で粒子へと変えたアヤさんの剣技。


「なぁ、キサラギさん」

「なーに?タソガレさん」

「彼女は……アヤさんはあのアザミなのか?」

 って……他にあの呪われそうな大太刀を持ってるアザミがいるなら教えて欲しいよね。


「そうだよ。アヤさんは正真正銘。我らが最強のベルレイバー『アザミ』」

 多分トーナメントを戦う仲間には明かすことにしたのだろう、だったらウチが秘密にする必要はない。


「ハハ、最弱なんてとんでもない。実は最強ってやつか」

「まぁこの戦いが終わったら好きに質問攻めにすればいいと思うよ?」

「そうするとしよう。今は彼女の戦いを見たい」

 ウチだって久し振りだ。

 いつだって彼女は、


 メイビー以外の人間を隣に立たせたことはない。


 ウチがアヤさん=アザミだと知ったのは本当にたまたまだ。

 ただ協会の職員である姉が担当していたベルレイバーの名簿をチラ見してしまっただけ。

 実際その名簿は最高機密だったらしいが多忙による居眠りでウチの目が届く場所に置かれていたらしい。


 あの時は驚いたよね、ウチが名簿を見たことに気づいた姉が土下座で『まだ死にたくないから黙っていてください』って半泣きで懇願してきたんだもん……。


 当時高校を卒業してベルレイバーになろうとしていたウチは交換条件として『どっちの姿ででもいいからウチにその人を紹介してほしい』と言った。それが私とアヤさんの始まり。


 第一印象としては……とてもじゃないが強そうには見えなかった。

 それもその筈、アザミの姿で出会っていたならともかく当時新人のフリをしたアヤさんと会ったんだ、当然と言える。


 今思えばおかしいと思う、本当はどんな魔物だろうと殺せるのに人畜無害そうな雰囲気で立っていたというのが不気味でしかない。


 そして何度か共にダンジョンに潜ることで確信に変わる。

『あぁ、この人はおかしい』と。


 弓と銃のタッグでダンジョンに挑むなんて正気じゃないと思ったが、いざ挑んでみるとアヤさんが全ての魔物から視線を奪い取ってウチには全く攻撃が来ない。

 常にアヤさんが的確に遠距離攻撃を潰し、ウチが銃……特にスナイパーライフルという単発高火力の武装での攻撃力を充分に発揮できる環境が整っていた。

 そして自身は全ての近接攻撃をギリギリで避け、反撃を加え続ける。

 自然と彼女は魔物から狙われ続ける。


 それが出来るのは自身の身体の動きを完全に理解し、相手の攻撃を充分に理解し、ある程度読めていなければ不可能。

 これまでに積み上げてきた下地が途方もないものだと分かった。

 同時に本気のアヤさん……つまりはアザミから学びたいという欲が出た。


『……それって、協会が契約違反を行ったって事かな?』



 あの時は超怖かった……、人間相手に初めて命の危機を感じたよね。

 ウチがアヤさんの事を知ったのは偶然で姉は悪くないことを説明するとすぐにその殺気……?というか妙な圧迫感は一瞬で消え去った。


『まぁミナヅキさんには負担かけたし、漏れた範囲が分かってるなら良いや』って。

 とても数秒前に命の危機を感じた相手とは思えないほど和やかな雰囲気でアヤさんは『いいよ、じゃあロンドン塔行こっか』と軽く私に告げた。


 当時、92階層までしか到達していない未踏破ダンジョンに行こう、と……


 アヤさん曰く、『最前線ほど危険かつ修行に向いてるところはない』らしい。

 念には念をいれて、とアヤさんはアザミの姿で、そして1人信頼できる人間を用意してウチを最前線へと連れていってくれた。

 その時、初めてメイビーと出会ったのだった。


『お、可愛い子じゃん。オイラはメイビーだよ』

『ウチはキサラギです。『雷神』さんに出会えるとは光栄です』

 当時まだ『女王』が現れていない頃、既に雷魔法の天才だったメイビーは『雷神』を名乗り、セコンズランカー21位だった。


『んで、アザミ。どうしたのこの子』

『私の正体を知っている。彼女は後衛型の上に見所があるから育てることにした』

『ふーん、まぁオイラは前寄りの魔法使いだからちょうど良いかもね。最前線に連れてきたって事はやっぱり?』

 その言葉に頷きだけで返すアザミ、ウチは何を言われているのか理解できなかった。


 それからはウチに戦闘技術を教えるのはメイビーの役割になった。

 その修行方法は『とにかく魔物を倒す』

 前衛をつとめるアザミは背の太刀を抜かず、脇差しほどの長さの刀を駆使して魔物の攻撃をいなし、攻撃はウチだけで行っていた。


『アザミの弓、全く参考にならなかったでしょ?まずはちゃんとした後衛の役割をオイラが教えるよ』

 確かに、アザミ……アヤさんの弓は一般の遠距離武器とは違う立ち回りだろう、だけど……


 メイビーも異常の部類だった。


『銃弾ぐらい魔力で曲げろ!!現代の常識を捨てろ!!魔法よりは自由度は低いが攻撃力はピカイチなのが銃の有利な点だ!ほら、アザミが射線開けた!撃て!頭蓋ぶち抜くのは得策じゃないから狙うなら心臓か眼球だ!!』


 ハッキリ言おう、スパルタにもほどがあった。


 確かに魔力を纏わせる事で銃弾をある程度コントロール出来る、出来るけど……ほんの少しズラすだけでもかなりしんどい。


 人はダンジョンに初めて入った時に血中に魔力を取り込む、その濃度は人によって様々だ。

 大抵の人はその濃度は5%ほど、ベルレイバーに限定すると平均10%。

 濃度が高くてもデメリットは無く、ただ魔力の扱いや魔法を使う時に使える魔力が多くなる。

 そしてダンジョン入り後の身体能力の向上も濃度が高いほど大きい。


 そしてこの濃度は、どんなことがあろうと変化しないと言われている。

 故に、ベルレイバーになる上で必要となる才能はダンジョンに入った時に決まる。


『キサラギちゃん魔力濃度20%あるんだって?だったら余裕余裕』

 話を戻そう

 ウチはその中でも才能がある方と分類されるベルレイバー平均の2倍の濃度、そんなウチでもキツい事をメイビーはやらせようとしているのだった。


『ちなみにオイラは40%ね』とか軽々とウチの倍の数値を言うメイビー、堪忍袋の尾が切れるのも当然だと思う。


『んー、アザミが鍛えるって言うからオイラも全力で指導したんだけど……』

『ウチはあんた達と違って天才じゃないんだよ!?なによ魔力濃度40%って、大胆に魔力使えるからそりゃ曲がるだろうね!?』

 見本を見せてと言われたメイビーは真上に放った幾つかの銃弾の軌道を軽々と曲げて魔物の真上から降らせた、一発が限界のウチへの当て付けのように。


『魔力を伝わせるコツがあるんだよ、アザミでも出来るんだからキサラギちゃんは多分余裕だよ』

『ウチはあんな化け物みたいな強さを持ってない』

『オイラからすると彼女が1番人間なんだけどなぁ……だって、』


 アザミの魔力濃度、1%だよ?




 彼女の基礎能力は1番人間そのままだ、しかしそれでも人類の壁となった最初の大型魔物を殺し、現在に至るまで誰にも前を譲っていない。


「3人とも、あれを真似しろとは言わない。でもこれだけは理解して欲しい」


「アザミはただ強いだけじゃない。逆境にも負けず、使える力を模索し続けた先にあの最強が誕生したんだ、ってね」






 ◇◇◇◇◇◇◇

 作者コメ

 最弱詐欺?いやいや、ちゃんと最弱ですとも

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