第11回 それぞれの日曜日
「さて、今日は……タソガレさんとナギさん、それとマリアさんがダンジョン。キサラギさんはイギリス支部で新人の引率、メイビーさんはいつも通り『女王』の所か」
「意外とみんな外出してるね」
「思うところがあったんだろ。その3人に関しては」
煙を吹きながら言うマサトさん。
彼はタバコ好きだが今は禁煙中、電子タバコで済ませているらしい。
さて、今回は何日もつのだろうか。
「今日はアヤさんもこっちなのー?」
「遠距離武器での『王』のコツ教えてー?」
「私に聞く?あとで引率から帰って来たキサラギさんに聞いた方が身になると思うよ?」
年少組はアヤさんに絡んでいる。
昨日のバトル後に話した件が関係してるんだろうなぁ。
アヤさんはあのランクからじゃ信じられないくらい強い。
それも武器は弾数がほぼ無限なだけで威力は下から数えた方が早い魔力弓だ、それでも勝てる彼女に興味を持つなという方が無理だろう。
「そろそろ始まるよ、終わってからにしなさい」
「「はーい」」
クルーナさんの言うとおり、あと3分もしない内に番組が始まる。
今はCM中だ。
『『キュウビ人形』!ムーンクロス人形店より発売!!16分の1サイズで再現されたモフモフの手触りを是非あなたに!』
つい先日倒されたばかりの大型魔物を早速商品化してる……、商売人ってのは本当に手が早いなぁ。
ムーンクロス人形店は魔物の人形専門。
一番人気はデフォルメされてかなり可愛い風貌になった16分の1『五つ首犬クイントロス人形』。
毎回その魔物の毛を利用して作られているため無駄に再現度が高いと話題だ。
毛の出所は不明、だがそこそこ実力のあるベルレイバーを雇っているのは確かだ。
『おーまたせしましたぁ!日曜昼過ぎ午後イチバン!『週刊ベルレイバー』のお時間です!』
お、始まった。
今週は流石にうちと『ユノ』がぶつかったギルドバトルが1位だろうなぁ。
それ以上に話題になりそうな出来事は多分起こってない、SNSでもトレンド入りしているのは昨日の事だけ、視聴者の予想はほぼ1つに絞られていた。
『さて、本日は先にスタジオからお届けしています。万年スリーセブン、ナナです!いやぁ、今日は番組編成班がすごい悩んでまして……まず
ピンクのツインテールを振りながら巨大モニターの傍に立つ女性が頭を下げる。
彼女はサードランカー777位のナナ。
ギルド『美少女戦士』のギルドマスター兼『週ベル』コメンテーターだ。
愛嬌があり、トークも悪くなかった彼女は数々の企業のイメージキャラクターも勤めている、というか彼女のギルドのメンバーはそういった人物が多い。
メインはベルレイバーだが副業としてモデル、コメンテーター等のメディア露出も積極的に行うギルドだ。
強さ自体は中堅から上位最下層に食い込むか?くらいだが知名度は高い。
アイドル、までは行かないがこういった路線で活動しているベルレイバーの中では一番実力もあるし成功している。
『そして番組編成班の悩みの結果、話題ランキングの10位から2位まではダイジェストになりました、それでは、ドンッ!!』
モニターに一気に9項目の内容が文字のみで映った。
それを口頭で下から順に語っていくナナ。
編成班、大分思いきった事をするなぁ……。
ちなみに『焼肉処 白鐘』の名はまだ出ていない……ということは1位は
『それでは1位!!今週土曜日、先週の話題第2位の中心となった『焼肉処 白鐘』、強敵『YOU KNOW』相手に勝利!!』
「まぁそうだろうな?」
「「やったー!!」」
前回は思わぬ伏兵が身内に居た、しかし今回はそれも無い。
文句無しの1位だった。
『今回解説席には『アブノーマラーズ』ギルドマスター、ファーストランカー2位の『異物の道化師』ことミッシェルさんをお招きしました!本日はよろしくお願いします』
『よろしくお願いします。久し振りにテレビに映ったので正直緊張してます、お手柔らかに』
「うわ、2位の人だ!」
「すっげぇー、流石『週ベル』」
『異物の道化師』ミッシェル。
白髪赤目の彼女は見ただけで『異質だ』と思われ、そして次には『美しい』が来る。
アルビノ体質による世界の異物とも言える存在、だが魔性の魅力がある。そんな人物がミッシェルだ。
殆どメディアに露出しない彼女はテレビに映るだけでも大きな話題になる。
『週刊ベルレイバー』は協会や大手企業がスポンサーの番組、ここくらいでないとミッシェルを解説席に呼び出すなんて真似は出来ない。
『いやぁ、この快挙。ミッシェルさんはどう思いますか?』
そしてミッシェルがメディア露出しない理由、それは……。
『全く、シンシアは遊びが過ぎる、と思ってます』
『……遊び、とは?』
冗談や建前というものを知らないのだ。
『大方、シンシアは彼ら……『焼肉処 白鐘』さん?を試したかったのでしょうね、えぇ、彼女らは全く本気を出してませんから』
『そ、そうなのでしょうか?』
『リアルタイムで見てましたが、勝つ気ならレイン、メチェーレ含む上位数人はまだまだ出撃できましたしもっと魔力炉バフも積めました。茶番ですよ茶番。困りますよ、あれくらいでSSに勝てる、トーナメントで勝てる、なんて思われたら』
彼女は確かな分析力と圧倒的な実力を誇る。
唯一、アザミにだけは負けているがそれは実績の話。
直接対決すれば互角なのでは?条件次第ではミッシェルの方に軍配が上がるのでは?と言う意見も少なくない。
要するに、彼女はかなり自信家で、正直者で、
弱者を嫌う最強の2番手なのだ。
『で、でもこのまま行けば『焼肉処 白鐘』は、』
『そうですね、多分SSには来ます。でもそこまでです』
『私達には勝てない』
寒気がした。
ただのカメラ目線の筈なのに、視聴者を射殺すような鋭い目で宣言しただけなのに。
本当に『あぁ、次元が違う』と錯覚してしまった。
「……チッ、やってみなきゃ分からないでしょうが」
そんな中で1人だけ、平然とその言葉に反論を叩きつけていた。
テレビで語る白亜の美女を睨むように見つめていたのはアヤさんだった。
『たとえ策を重ねようとも圧倒的な力の前では無意味。何人かはうちのメンバーに匹敵する者も居るようですが……その者達も付く者を間違えた。シンシアは評価していたようですが私には分からない』
「見る目が無いなぁ?うちのマスターはなかなか肝が座ってるぜ?間違えなんて言わせねぇ」
これはマサトさんだ。
『フォースランカーを入れてる時点で勝ちを捨てている』
「なにをー!」
「フィフスランカーでもすっごい強い人がいるんだぞー!」
ソラ君、アイク君も……ワイは恵まれてるんだなぁ……。
「心配せんでもええよ、てんちょー。俺らはあれを倒すために腕を磨いてきたんだから」
「あれ?姫の事もバカにしてる?2位でも目が節穴なんだね」
ゲーレさん、リッチェルさん。
そうだ、怯える必要なんて無い。
みんなワイの大事な仲間なんだ。
寒気は消えた、ワイに力を貸してくれるという選択を、みんなの決断を、
無意味なものだったなんて、間違えだなんて言わせない。
「ありがとう。みんな」
証明するんだ。
トーナメントで勝って、単純な力だけで戦いの結末は決まらないことを。
『戦えば私達が必ず勝つ』
「必ず、世界一を獲るんだ」
決断の声は届かない、だが声に出すことに意味がある。
「強くなろう」
時間はまだある。
可能性を増やそう。
この19人の仲間と共に……
ガタンッ
少し離れたところで物音がした。
目を向けるとそこに居た筈の……アヤさんがいない。
それとほぼ同時にテレビの画面に写るものが切り替わった。
『臨時ニュースです。現在イギリス、旧ロンドン塔ダンジョンにて異常が発生しました。臨時ニュースです、現在……』
テレビから事務的な、それでも少し慌てた様子のキャスターがニュースを読み上げている。
あれ、旧ロンドン塔ダンジョンって確か……。
今日タソガレさん達が行ってる場所じゃなかったっけ?
まさか、
「ちょっとアヤさん!何処へ……」
扉を蹴り開けるようにして外に出たアヤさん、その拍子に携帯端末が床に落ちた。
「……え?」
見えてしまったその画面はSNSの個別トーク画面。
『ごめん、死ぬかも』
それだけ書かれた画面が表示されている。
それはキサラギさんからのメッセージだった。
◇◇◇
「ふぅ」
「お疲れ。やっぱりギルバトのバフが無いと違うわね」
「うむ、万全を期して3人で来たけど……なかなか大変だったねぇ」
「すみません、あまりお役に立てず……」
旧ロンドン塔ダンジョン100階、ここには『デッドリーブレイド・ジェネラル』が居座っている。
タソガレ、ナギ、マリアの3人は協力し、それを10分ほどで倒したのだった。
「……だが少しおかしくないか?」
「なにが?」
「僕達は先日のミスを気にしてダンジョンで修練をしに来た、だが本来1人でも相対する事が出来る筈の『暗殺騎士』相手に危険を感じ、3人で戦うことにした」
「……死にたくないから当然ではないですか?」
そこだよ、マリアさん。とタソガレさんは告げる。
「我々が死の危機を感じる、ということは普段より『暗殺騎士』が強かったのでは?と僕は疑っている」
「……まぁ確かに昨日戦った『暗殺騎士』の方がバフの都合上強い筈……よね?」
「そしてさっきから念のために警戒してるのだがね?何故死体が消えない」
横目でずっと見ていた。
普通、ダンジョン内で死んだ魔物は魔力の粒子に分解されて消える、だがこの『暗殺騎士』はまだ消えない。
「生きてる……?」
「そ、そんな!間違いなく倒した証の魔石は手に入れたのに……」
どういう原理か、魔物を倒すと手元に自動的に魔石が産み出されるというこの世界。
倒した合図として周知の事実。
この前提が適応されてないかもしれない……となると。
「嫌な予感しかしない」
「早くここから離れましょう」
「怖いこと言わないでくださいよぉ。急いで出ましょう?」
3人の意見は一致していた。
逃げられるかはともかく……
100階層の入り口へと戻り、攻略済みの階層を行き来する魔力駆動エレベーターへと急ぐ3人の背後で騎士は音も無く起き上がった。
「っ!?急げ!!2人とも!」
一足先にエレベーターへとたどり着いたタソガレが『暗殺騎士』に気づいた。
だがもう遅かった。
『暗殺騎士』から溢れ出す黒い何かが100階層を覆い尽くす。
エレベーターにたどり着いていたタソガレも例外ではない。
そしてその黒は、100階層未満の階層に居たベルレイバーも巻き込んでいた。
◇◇◇
(……?……なにか、来る?)
同時刻、キサラギは旧ロンドン塔ダンジョン10階層にて、新人ベルレイバー4人の引率をしていた。
そこにいた大型魔物、ダークレインディアは既に討伐済み、自分達の力だけで倒せて大喜びの新人達を少し離れた所から見ていたキサラギは下の階層で何かが蠢くような奇妙な気配を感じていた。
それは突如地面から滲み出る形で現れた。
「うわっ!」「なんだこれ!?」「みんな!落ち着いて!」「でも、こんなの『攻略本』でも見たこと無いよ!?」
「っ!!抜けない!?」
突如現れた黒はまるで底無し沼のように沈んだものを逃がさない。
多くの高性能装備を持つキサラギでも抜け出すことが出来なかった。
「……あーあ、やっぱり旧ロンドン塔ダンジョンって。ヤバいとこだなぁ……」
沈みゆく身体を感じながら最後に沈むように高く腕を上げ、携帯端末を操作する。
「一応これが最後でも良いように……あとは頼んだよ、ウチらのヒーローさん」
こうして、旧ロンドン塔ダンジョンは全て黒に呑まれた。
探索していた合計20人のベルレイバーの生死は不明。
異常を報告されたベルレイバー協会はセコンズランカー20位以内の人間に緊急連絡を飛ばしたのだった。
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