第9回 初の難敵 結果
なんか異常に文字数多くなったので今日は一度のみの更新
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……これはこれは。また随分と頑張ったことで……」
「おい、シンシア。勝てる試合だったんじゃないのか?」
うちのエース格の1人、セコンズランカー12位にして刀剣部門の2位、レインが結果を見て文句を垂れ流す。
「まぁ別にいいんじゃない。うちもフルメンバーじゃなかったし、出撃は1度、『焼肉処 白鐘』のみって制限もかけたんだから。フラウ、突破状況は?」
それを宥めるのはファーストランカー8位、打撃部門2位のメチェーレ。
彼女が呼び掛けたのはサードランカー416位のフラウ、私が直々に情報戦略を叩き込んでる弟子の1人。
「えぇっと……『焼肉処』さんの突破人数は17人、回数は20ですね」
「……つーことは誰かが失敗分も補った、だから負けたってことか?」
「うちの突破人数、というか出席人数は19人でしたし向こうの方が稼ぎも大分大きいので負けますね」
「確実に『特典』持ってるのはメイビーとキサラギ、多分その2人は連続出撃確定でしょう?残り1人は……」
「いや、多分これはメイビー氏が3回出撃してますね、でしょう?」
3人が同時タイミングで再出撃していたにしては点差が少なすぎる。
銃ランキング5位のキサラギ氏は確か『敵の死角からの攻撃力強化』の『デッドリーブレイド・ジェネラル』とその『特典品』。
その効果は知らないがあとで映像を見て想像するとして……恐らくはメイビー氏より火力が低い。
『女王狩り』のメイビー氏が持つ『特典品』は有名、というか彼が隠そうともしない。
効果としては『常に魔法の威力が倍増し、1度死を覆す』だ。
『特典品』を着けたメイビーは『女王』の鐘の効果も相まって2回まで死を覆せる、そんな反則じみたベルレイバーだ。
「……正解です。流石です、お師匠」
「彼は間違いなく他の者より大胆に動けますからね。そういう役は積極的に務めるでしょうね」
「……ってことはこの状況は完璧に出し抜かれたって事か?」
「んー、私の考えに過ぎないですが……」
恐らくですが私達が手加減していることには気づいている。
その通り、私は大まかな予測を立てて出来るだけ『『焼肉処 白鐘』のメンバー全員がうちの防衛を突破すれば勝てる』そんな点差を目指した。
結果的には少しだけ『焼肉処 白鐘』のポイントが予想以上の数値になっていたがそれはそれ。
だが私の予想では抜けれてもせいぜい10人くらい、だが実際はそれ以上の結果を見せられた。
「じゃあ情報は取れたのか?」
「とりあえずトップシークレットが取れたかどうかの確認を……『キュウビ』の情報を買った人のリスト、ありますか?」
「あ、はい!確か……こちらですね」
渡されたタブレット端末の名簿を確認していく。
私は日頃から取引した人物のランクと名前、所属は必ず控えるように教えている、戦闘員、補助要員問わず。
(これで『焼肉処 白鐘』のメンバー名が無かったら確定なんですが……!まぁ、そう簡単にボロは出さないですよね)
見つけた名前は670位ハルカナ氏。
なるほど、適任だ。
彼女は商売人の出だ、うちとの取引でもなんなく使えるだろう。
「失敗ですね。うーん、なかなかお上手だ。ボロを出してくれない。今日のところは完敗といったところですね」
「んで、これがお前が見込んだ軍師のやり方か?」
「……いいえ、彼にしては荒削り、というかパワープレイだとは思います。まだメンバー全員の戦闘力が整っていないからか2人に頼りすぎかと……あの2人がいないと成立しない戦い方でしたね」
これも私の予想にすぎないが、エタ氏としては『今日は負けても仕方ない』くらいのノリで戦っていたのではないか?と私は考える。
思い切った作戦過ぎる。
彼ならば自信無い人は今日は中規模だった異空穴と他のギルドに出撃して2位死守、そしてあわよくばで自信ある人だけで『ユノ』殴ろう、といった感じの策を取る。
(ならばこれは違う人物の策……アヤ氏かな?)
こんな脳筋戦術を取ってくるとは思わなかった。
しかし、彼女ならば、私の疑い通りならば取ってきても不思議ではない策だった。
大型魔物の情報など大量に頭に入れてあるだろうから。
「アヤ氏の戦闘映像はありましたか?」
「ライブの映像は撮ってありましたが……出撃後の数分以外は映ってないですね。ギルドマスターとサード、セコンズランカー、それとキサラギ、メイビーの両名の驚異的な映像しか無いです」
それはそれで興味深い映像だが……そうかそうか、出撃時は映っていたのか。
私がメンバーリストを公開したからか彼女には少し注目が集まっている。
しかし、大体の諜報員が探れる範囲といえば、本部直属でかつ基本的に後進を育てる事を重視しているタイプの珍しいベルレイバーであることくらい。
ベルレイバーになってから長いのに極端に経歴が薄っぺらいためか、実は上位勢からも情報を求める声があがっている。
『焼肉処 白鐘』のメンバーでの情報人気は1位エタ氏、2位アヤ氏、3位キサラギ氏だ。
今日の戦績が公開されればリッチェル氏やゲーレ氏にも注目が集まりそうだ。
ちなみにメイビー氏は本人がかなりオープンな性格なため、わざわざうちに頼まないところが大半。
旧ピラミッドダンジョンに向かえば大体会えるのもあるだろう。
あそこに挑めないような者が頼んでくることはあるがあのダンジョンに挑めないような者はそもそもあのギルドの相手にならない。
「一応みんなにも共有しておきます。まだ100%ではないのでトップシークレットです。絶対に外に漏らしてはいけません」
「あ?随分と大げさだな」
「それは例のアヤさん?に関することかしら?彼女凄いわよね、『支援師の魔弓』みたいなギルドバトルにおける雑魚武器であの防衛をちゃんと抜けれてるなんて」
そう、失敗したメンバーの中にアヤ氏は含まれていない。
『王』『女王』を含む防衛を突破していたのだ。
「恐らく、今のところ8割くらいの可能性でアヤ氏は……」
その言葉を聞いてレインが椅子を吹き飛ばす勢いで立ち上がった。
いつも面倒そうにバトル後の会合に参加している彼が珍しく目を輝かせていた。
「それ、本当か?」
「まだ8割、ですが私の予想が外れたことはありましたか?」
「何度かある。だが回数ってなると片手で数えるほどしか無いかもな。真面目な時は」
「あはは、真面目な時は、ね。いつも私は真面目なつもりですが?」
「今回は大分ふざけてたように見えたわよ。なによ、『エタ氏にフラれたからマッチングしそうなレートまで下げましょう』って。これがおふざけじゃなかったら何よ」
ふむ、確かにちょっと真面目とは言えないかもしれない。
不純な動機ですね、
『上位の格の違いを見せつけてあわよくば諦めさせて勧誘する』なんて
「まぁ続きは本番の時に、全力で戦うとしましょう」
「……俄然やる気出てきた」
「空回りしないようにね、レイン」
「うっせ、メチェーレ」
うちの頼りになるエースの士気は上々、また日陰に潜るとしますか。
「あとは他のギルドに任せて、まぁトナメまでほどほどに、敗北しない程度に過ごしましょう」
「了解」
「分かったわ」
「承知しました」
次は本気でやります、トーナメントが更に楽しみになりました。
1位『焼肉処白鐘』9110万
2位『YOU KNOW』8990万
3位『ホロウマギカ』2200万
4位『魔法こそ最強!!』1520万
『『女王』は間違いなく1.990オーバー、『王』は比較基準が少ない、しかし2.000に近い可能性が高い』
シンシアの手元の紙にはそう、書き留められていた。
◇◇◇
「勝利!!」
「イェイ、オイラの勝ちー」
「ちぇ、やっぱバ火力だわ、メイビー。ウチじゃ相性悪いー!」
それぞれ、ゲーレさん、メビさん、キサラギさん。
しかし、この3人は例外的な反応だった。
他の面々はというと……、
「……え、勝っちゃった?」
「マジかよ……」
「私ミスっちゃったのに……、突破できなかったのに……勝ててる?」
殆どの人がこの結果を正面から受け入れられずに呆然としていた。
「フッ、少し面食らってしまったが、当然の結果だろう!!」
「『キュウビ』削りすぎて『死海魔術師』と狐火にボコボコにされた奴が何を偉そうに」
「おや、見ててくれたのかい?愛しい私の勇姿を゛ッッ!!?」
あー……痛そ……、腹抉れるレベルの一撃で沈められちゃったよ、タソガレさん。
今回突破できなかったのはタソガレさん、ナギさん、マリアさんの3人。
他は時間がかなりギリギリだった者も居たが全員突破できていた。
「殺気でチビりそうだったんだけど!?あれマジで他の魔物を殺されまくってキレた結果、最強になったって説、正しいんじゃね?」
「きたねぇ。臭いぞ、寄るんじゃねぇよ」
「チビりそうだったってだけだ!断じてチビってない!……たとえチビっててもこの身体は臭くなってない!」
「自信ないのかよ、ダッサ」
ソラ君とアイク君もいつもの調子に戻っていた、それどころかいつもよりじゃれあいが激しいような……あれ、殴り合いになってる?トロアさん、マサトさんヘルプ!!あれ止めてぇ!?
「おい、ギルマスが話したそうにしてるぞ。喧嘩は後にしろ」
「はーい」
「ちぇっ、わかったよ、マサトのオッサン」
「オッサンじゃねぇ、おじ様と呼べ」
「「合わねー」」
「クソガキ共め……」
猫を叱るかのように2人の襟元を後ろから掴み、無理矢理引き離すマサトさん。
顎に無精髭を生やした40代前半の男性、オッサンと呼ばれるのを嫌うけどおじ様って呼ぼうとは思えない……。
言ってもおじさんだと思う、ごめんね、擁護するつもりだったけど出来なかった。
「はい、みんな本日はお疲れさまでした。正直なところ勝てるとは思っていませんでした、みんなを舐めていたようで若干申し訳なく思ってます」
「俺達を舐めるなー!」
「そうだそうだー!」
「……アヤさんの鬼畜演習が無かったら多分無理だったわね」
「役に立ったならよかったよ。過剰かな?とも思ったから」
『王』『女王』と来て3体目に『暗殺騎士』だ、出てきた瞬間に殺された人も何人かいた。
初手の即死攻撃3連続、これが私の出した演習時の防衛編成だった。
同時に本番でも順番こそ逆だったが3連初手即死。
だが流石は『ユノ』
20人中19人突破していた。
残りの1人は欠席だったと想定する、全員問題なく抜けれると考えておいた方がいい。
それぐらいじゃないとトーナメントで毎回決勝の4ギルドに残れるとは思えない。
「明日はとりあえず休み、特に用事が無い人はまたギルドホールで『週ベル』でも見よう、じゃあ解散!」
「それなら私は一足先に失礼するね。ちょっと野暮用が」
「1つだけ良いかな?アヤさん」
ん?タソガレさんか、なんだろう。
「どうやら君は相当強いらしい」
「失礼な、私はこのギルドで最弱だよ」
「……まぁそうありたいのならそう言い続ければいい。だが僕はそんな君の事があまり好ましく思えないんだ」
あー、そういうこと。
「要は『最弱ロールプレイしてもいいけど武器くらいはそんなゴミ使ってないでちゃんとしたの持てよ』ってやつ?」
「……少々口が悪すぎる気もするが、内容としてはそれで間違っていないよ」
悪すぎる?
うん、悪すぎる言い方したもん、当然でしょ。
私の邪魔をする人が内部にもいるとは思わなかったなぁ?
「んー、私の行動の邪魔はしない。てんちょーが勧誘した際に書いた契約書の最後にそう書かれてなかったかな?」
「確かにあった。だが全員真剣なんだ、それを君はっ!」
ちっ
あー、もううるさい、うるさい……!
「……あ、姫がキレそう」
誰かがボソリと呟いた。
声音と呼び方からリッチェルさんだと気づいたが今それは関係ない。
「タソガレさん。逆に聞くけど、数多のベルレイバーがギルドバトルに求めるものって一緒だと思う?」
「……否だ、普段は危険すぎて体験できない刺激を求める者もいれば人気を得ることで承認欲求を満たしている者もいるだろうな」
「私が求めてる者もその類いなんだよね。クソだ、ゴミだと罵られた武器が表に出ることで再評価される、バかにしていたのに手の平を返す。私が扱う『支援師の魔弓』、その特徴言える?」
タソガレさんは少しだけ考え込む、だがそれも5秒ほどで済む。
「周囲の人間の身体能力を微力ながら上昇させる、かな?」
あー、理解が浅い。
『魔弓』の重要性を理解してない
「半分しか正解してない。完全な解答はね、『人類が初めて作り出した『魔弓』』これも言ってくれないと満点はあげられない」
「……そうか、『物理矢』ではなく『魔力矢』が初めて運用されたのはその武器だったのか!」
『支援師の魔弓』はダンジョンの素材を利用して作られた初の『矢が必要ない弓』だ。
弦の部分に使用者の魔力を微量吸収する機構が備わっており、実質『魔法』とも言える武器。
魔法ほど疲れないが威力も小さい、しかし、狙いが正確なら、ウィークルーンを使うなら、その性能は格段に上がる。
「事実、今の私の注目度は高い。てんちょーの名がそこそこ売れてたのもあるけど私の順位じゃあり得ない戦績を得ている点だけでも気になるだろう。実際『ユノ』の監視員も見かけるし」
「……では初心者に『支援師の魔弓』を勧めている、と?」
「希望をもって欲しいんだよ、私は」
ベルレイバーになったからには上を目指して欲しい。
自らを教えた人物が表で大活躍しているのを見て自分も『ああいう人物になりたい』『あの場所に立ちたい』、そう思って欲しい。
あんな武器でも努力すれば勝てるんだ、と。
「……して、それ込みで私は最弱なんだよ」
「ずっと思っていたのだが君にとって最弱とはなんなんだ。そこまで魅力的な称号か?」
まぁ最も弱いだもんなぁ、良いイメージは無いと思う。
「実際私がやってる細々とした小細工は使わずに正面から薙ぎ倒す。それが出来るならみんなに教えることはない、でも、君達にはそんなつまらない人生を歩んで欲しくない」
「だが勢い任せの戦いも爽快で良いだろう?」
「うん、でもその先には圧倒的強者がいる。『異物』に真っ正面から殴りかかって私達が勝てると思うなら、そうすれば良いよ」
『異物』とは『アブノーマラーズ』の事。
『異物の道化師』ミッシェルが率いるセコンズランカー50位以内の人物しかいない現在最強のギルドだ。
策などに必要ない、全て力で捩じ伏せる、そんなギルドだ。
私は正面からあのギルドに勝てるギルドは存在しないと思っている。
だから策を練る、手札を増やす、敵の取れる択を減らす。
これは弱者の戦い。
それは極めた所で無双が出来る訳じゃない。
勝利はいつだって紙一重だ。
「私は知恵を与える、悪巧みを考える。それをみんなが実行する、そうしたらどうだろう?基礎がみんなの方が上なんだ。結果的には私が最弱になる……そうは思わない?」
私の戦いは最弱の攻撃力を如何に最前線レベルまで持っていくか、みんなの戦いは如何に自分の火力を適切に使うか、論点が違うのだ。
「……理解はした。だが君の言う『最弱の戦い方』が通用するうちは良い、だが通用しなくなった場合は、どうするのかな?」
「うん、いいね。そうなったら私も楽しいだろうなぁ」
私の知恵が通じない?大いに結構、既知は自分の力の証明にもなるけど何より、未知を攻略するのも面白い。
「でも残念。私はこの言葉を贈るよ……『
「っ!?」
少し驚いたような表情、あれ、殺気漏れた?
いけないなぁ、ちょっとテンション上がりすぎてた。
戦闘の余韻が残ってて身体の管理がゆるゆるだ。
「じゃ、今日はお疲れさま。またね」
私はその場を去った。
殆どのメンバーがその背中を見ていたことを私は知らなかった。
◇◇◇
「てんちょー。アヤさんって何者ー?」
「絶対強いよね、今度1回だけタイマンで戦わせて貰おうかなー?」
お調子者2人……アイク君とソラ君が会話の口火を切る。
年少組が張り詰めた空気を良い感じにぶっ壊してくれて助かるよ。
アヤさんの殺気の余波でみんな黙っちゃってたから……。
(きっと今日は楽しかったんだろうなぁ……)
実は今日彼女が指揮を取ったのはワイの意思じゃない。
彼女自身が打診してきたのだった。
彼女曰く、『ここら辺でみんなの『やる気』を見ておきたい』とのこと。
きっと何処でもいいから『王』とかの最上位クラスの魔物を所有してるギルドとぶつかりたかったのだろう。
ワイとしては『手痛い敗北』で良かったんだけど……彼女はそれを良しとしないみたいだった。
そして今日分かった。
多分彼女は今月のうちに『異物』と戦ってみたいと思ってる。
まだ今月は2週目、残り2週間丸々ではないがそれなりに日にちは残ってる。
勝ち続ければ1700からのSSレートまで登り詰めることは充分可能だ。
情報操作もない、秘匿情報もない、ただ単純に強い。
そんなギルドが『異物』こと『アブノーマラーズ』。
各武器でトップの座を欲しいままにするメンバーが揃っている。
20人全員が定住メンバーのため、メンバー変更による変化もない。
小細工など不要、力こそ正義、といったアヤさんと正反対の考え方のギルドだ。
「アヤさんに関してはワイも詳しくは知らないんだ。ただ『この人は強い』と思ったから前回のトナメ終わりに真っ先に勧誘した」
「てんちょーに拾われた私が我流で甘々だった戦闘スタイルをまともにしてくれたのは姫だよ」
「俺は新人教育の引率担当同士で知り合ったね。弓なのに前衛やってて『あぁ、この人ぶっ飛んでて面白い』ってのが第一印象」
ワイ、リッチェルさん、ゲーレさんの順にアヤさんに関して語る、だが結局強さの根源は分からない。
「ふむ、僕はそんな謎の信頼を得ている彼女の最弱に勝たねばならないようだね」
「つ、次こそは頑張ります!!」
「まぁ確かに『あの武器で抜けれるんだから私も』って気にはなるわね。今日の出撃、見直さないと」
今度はタソガレさん、マリアさん、ナギさんだ。
「あー、全員わざと避けてるのか?」
マサトさんがメイビーさんとキサラギさんを見ながら呟く。
「どうしたのー?おじ様」
「オイラがどうかした?」
「てんちょー、制御できない戦力は少ない方が良いぞ。この2人、個別回線でアヤさんから途中で指示が飛んでいたかもしれん」
あー、それはちょっと思った。
2人には個人的にカメラ飛ばしてたけど、明らかに途中から殴るペース変わったからね。
カメラは事前に指定したギルドメンバーに対して飛ばすことができる、値段的には大体うちの1日の売上の3割程。
元々1台持ってたけど今回トナメに挑むにあたって追加購入した。
ちなみに一般的なベルレイバーの月収はフォースで5~10万、サードで10~20万。ちなみにワイの経験調べ。
武器とか防具とか生活費とかでそこそこお金がかかるから収入ゼロに等しい時もあったなぁ……。
いつもはアヤさんと他のメンバーの誰かに飛ばしていたが今日はメイビーさんとキサラギさん……アヤさんが連れてきた2人に付けていた。
ギルドバトル開催中はギルド外との連絡は禁止されている、だが同ギルド内ならいくらでも話せる。
今の携帯端末は便利だ、思考するだけで話すことができる。
事前にチャットのグループさえ作っておけば2人だけに指示を飛ばす事は充分可能だ。
「というか、お2人とアヤさんってどういう関係なんでしょうか……?」
「幼馴染み」
「ウチは姉さんから紹介された~。新人の時だね」
マリアさんの質問にメイビーさん、キサラギさんの順に答えが返ってくる。
メイビーさんに関してはワイも知ってた、流石にセコンズランカー13位の加入理由は知りたいしね。
「まさか『
「えぇ!?2人とも『
「見せて見せてー!」
『
その人物しか持っていない特別な物、武器、防具、道具等様々な形がある。
「おい、マナー違反だぞ。ベルレイバー間の『
無邪気に『見せて』と言ったアイク君にマサトさんが忠告する。
そう、入手方法的に『特典品』の詮索はあまり良くないのだ。
というか、協会は公式に『特典品』の入手方法を開示していない。
だが、公然の秘密だ。
『その大型魔物を初めてかつ単独で倒した者に贈られる』
つまりは普通は安全のために数人がかりで挑む新しい大型魔物に無謀にも1人で挑んで勝ち取る物だ。
危険を侵した価値がある物が手に入ればいいが中にはハズレもあるらしい。
噂ではファーストランカー1位のアザミは全身『特典品』。
最も大型魔物を単独討伐しているらしいから不可能な話ではないだろうなぁ……。
「つーわけで、基本的に『特典品』は詮索するな、わかったか?」
「「はーい」」
年少組に対して同じ説明をマサトさんがしていた。
そうか、2人はまだベルレイバーになってから1年程度しか経ってないからあまり会ったことがないのか。
ファースト、セコンズ上位の化け物達に。
上位30位以内になると『特典品』を持っていない人の方が少ないらしい、ワイが前回組んだピートさんは持ってた。
「お察しの通り、オイラとキサラギちゃんはアヤさんの指示で『特典品』を使ったよ。オイラ達が2、3周すれば勝てる計算だってね」
「実際勝てたからいいが、ただ情報を漏洩しただけになる可能性もあった。『特典品』なんて日常のギルドバトルで使うものじゃあない」
マサトさんの主張は真っ当、日常的に『特典品』を使用してるベルレイバーなど殆どいない。
大多数が地球でのダンジョン攻略やトーナメントでしかそれを使うことはない。
「うーん、どこまで計算していたのかは知らないけど、凄いなぁ。こんなにギリギリ勝つなんて」
電子計算機を睨むのはクルーナさん。
ギルドバトルは出撃時の対象ギルドのポイントから奪える点数を求めることができる。
その計算をしていたのだろう。
「これ『ユノ』側は1度しか出撃しないかつ、『
「うーん、シンシアさんがやりそうだなぁ……」
「でも、これは難易度が『ムズ』前提、うちが『ふつう』で出撃するメンバーが居た以上、そこを補填する必要がある」
「だから2人に使わせたってか。随分とパワープレイで……」
メイビーさんが3回目に突入する頃には『ユノ』のメンバーも突破し始めている、だから3%削るところを2%しか削れないメンバーがいようと、全く削れなかったメンバーがいようと勝てた。
アヤさんとしては『完膚なきまでに叩き潰す』、だったのか『何人か抜けれないだろうから予防策で叩け』だったなのか。
本人がいないから今日のうちに真相は確かめられない。
「来週には方針決めておけよ?」
「分かったよ。いつもありがとう、マサトさん」
20代から30代が多いベルレイバーの中で少し上の世代の彼にはいつもお世話になってる。
元々軍人だったからか銃の扱いも人一倍上手だし皆が気づかないところにも気づいてくれる。
彼がいなかったらこのギルドも空中分解の可能性があったかもなぁ……。
ワイもしっかりしないと!
とりあえず……
「2人とも、強制はしないけどできたら『特典品』の性能教えて、あと、アヤさんがそれを知ってるかどうかも」
「オイラは別にいいよ、他の人にも教えてるから有名だし」
「ウチのはアヤさんとメイビーくらいしか詳細は知らないかな?想像はされてるだろうからいいよ、教える」
ギルドメンバーをもっと知るところから始めよう。
◇◇◇
「ぷっはぁ……疲れた」
ギルドホールで騒ぐ声が聞こえる、毎日晩餐してて二日酔いにならないのかな、あれ。
「でも久し振りにワクワクしたなぁ」
そう言いながら無表情な彼女は今日唯一の『YOU KNOW』以外での『焼肉処白鐘』防衛の突破者。
「あんなデッカイ『王』とは戦ったことなかったなぁ。一体誰が仕入れたんだろ」
『ユノ』の公式データベースから引っ張ってきたメンバーリストを睨む。
あのギルドは有料と無料の2種類のデータベースがある。
とは言っても有料の方は直接ギルドへと出向かないと入手できないし、足が付くからあまり行きたくない。
あのギルドの人達、いつも目がギラついてて苦手。
「あーあ、良いところから勧誘来ないかなぁ、出来ればアザミ様が建てた秘密のギルドとか見つからないかなぁ」
憧れの存在、アザミはギルドバトルの舞台に1度も姿を見せない。
絶対に強いのに、『アブノーマラーズ』に勝てそうなのはあの人なのに。
『アブノーマラーズ』の弱点、私が思うにそれは1位を冠する者がミッシェルしかいないこと。
他のメンバーは武器ランキングでベスト5くらいに入るメンバー達、1位はみんな我が強いから当然と言えば当然。
加えて2位もいない。
要するに『1つの武器でのトップも2位も取れない負け組の集まり』だ。
こんなこと言ったら過激派の彼等にボコボコにされそうだから言わないけどね。
その代わりミッシェルは並び立つものが魔法のメイビーくらいしかいないほどの遠距離武器の名手。
ならず者達の手綱も握れるただ1人の最高のギルドマスターだ。
「『焼肉処 白鐘』さんは面白そうだなぁ……欠員が出たりしないかな、わりと真面目に入りたい」
そんな独り言を言いながら夜更けの街を1人歩く。
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