第8回 初の難敵 最弱の戦い方
『キサラギさん、防衛の様子は?』
『『ユノ』マジで『王』と『女王』入れてるしー。魔力炉バフ様々だわ。これなかったらムリゲー』
『オイラはもう『女王』終わったよ。『王』と平行して他削ってる』
『はっや、まだ私『王』の動きに慣れないんだけどー!』
『即死しないだけリッチェルさんは凄いと思うよ。ワイは『女王』の初手でやらかしてやり直し中。やっぱ反則だわあの範囲攻撃魔法』
先行のキサラギさん談だと防衛内容は
1マリスブレイド・クルーエルキング
2ウルティマギア・カースドクイーン
3センジュ
4デスレイクセイジ・マーリン
5キュウビ
『ユノ』の情報買っておいてよかった、『キュウビ』の情報をみんなに配っておかなかったら最後でやり直しさせられるところだった。
『キュウビ』は即死こそしづらいものの、呪いが付いた火の玉を大量に発生させる魔物。
当たれば当たるほど身体が重くなったり視界が悪くなったり……他の魔物とも戦うギルドバトルにおいてはかなり嫌がらせとして効く魔物。
ただ事前に『火の玉に当たるな』と言われていれば片手間でも回避できるほどその速度は遅い、それが速くなるのはある程度弱ってからのため、最後まで削らずに残しておけばただの置物だ。
それにしても、この前『アザミ』に倒されたばかりなのにもう『親愛の鐘』手に入れたんだ……凄いなぁ。
「じゃあ、そろそろ難易度『ふつう』組も行こう。でないと間に合わなくなる」
「うー、緊張する」
「大丈夫だよ、マリアさん。失敗しても死ぬ訳じゃない」
「でもでも、私が抜けれなくて負ける可能性も」
「全く無いわけではないね」
「アイクくーん!どうしてそんなに冷静でいられるの!?」
後発部隊は私、トロアさん、クルーナさん、タソガレさん、ナギさん、アイクくん、マリアさん。
トロアさんを除く、サードランカーとセコンズランカーのみんなは既に出撃済み。
先行組は失敗してもやり直せるように即座に出て貰った。
いくら優秀なメンバーでも魔力炉バフの兼ね合いで少し呼吸がズレただけで死ぬからね、現に練習で一度もミスしなかったエタさんが一度戻ってきてる。
「はーい、じゃあ確認事項その1!」
「『時間はしっかりと計る』」
『女王』は出てくる時に全体魔法を使う、タイミングが分かっていなければそれでアウトだ。
「その2!」
「『致命の一撃は絶対に避ける』」
偽物の身体とはいえ構造はそのまま、心臓を刺されたり首を飛ばされたら普通に死ぬ。
いざ『避けられない!』となっても武器を盾にしたり魔法を地面にぶつけて炸裂させ、自身を吹き飛ばす、といった方法もある。
見えてさえいれば全くどうすることもできない攻撃は少ない。
「その3!」
「『諦めが悪くあれ』」
人間、困難に直面した時には一番楽な方向に走りたくなるもの。
その最たる方向が『諦める』だ。
私達はエタさんの
まだ始まってもいないのに諦めるなんて許される筈もない。
「分かってるならいいや。じゃあ、行こうか」
「分かっているとも!それよりアヤさんその羽織可愛いね、新しく買ったの?」
軽い口調で話しかけてきたのはタソガレさん。
茶髪で常に明るいムードメイカー的存在、ちなみにナギさんと婚約している。
「これ?そうそう、私の行きつけの和装専門の装備屋のオーダーメイドなの。可愛いでしょ、これからトーナメントで勝つことを目標にするんだから見目は良くしとかないとね」
袖が広がった形の長袖の羽織、白地だが九色にも及ぶ様々な色合いの火の玉が描かれている。
胸元には丸くなって休息している狐の絵が添えられている。
「ほら、雑談終了!行くわよ」
「拗ねるなよぉ、ナギちゃん。今日も可愛いよ」
「黙れ、ナンパ男」
「その僕を束縛したのは誰かな?」
「ナ、ナギさん落ち着いて!拳を抑えて!タソガレさんも煽らないで!?」
タソガレさんへと拳を振り抜く寸前のナギさんをトロアさんが押さえつけていた。
トロアさんは黒髪短髪の女性、かなりの重量を誇る巨大なトンカチのような武器を扱う。
このギルドで一番の常識人を挙げるなら男性はマサトさん、女性だとトロアさん、となる所謂みんなのブレーキ係。
行き過ぎた行為をすれば彼女が大体止めてくれる筈。
私?私は騒ぎに同調した方が楽しいから止めないよ。
「じゃ、私は先に行ってるね。みんなもすぐに出てね」
事態の収拾をトロアさんに任せて私は戦場へ向かう台座へと寝転んだ。
(さぁ、今日も最弱なりに頑張ろう)
◇◇◇
「あ!アヤさん逃げるな!って、」
「グフッ!」
トロアさんの拘束が緩んだ瞬間、私の拳は旦那であるタソガレの頬に刺さった。
あー、スッキリした。
「え、えぇ!!大丈夫ですか!タソガレさん!」
「これが愛の痛み……!」
「……大丈夫そう、です、ね?」
「ほっといていいよ、マリアさん。こいつドMだから」
ピクピクと痙攣している尻を蹴ると『アフンッ!』と気持ち悪い声をあげる。
「冗談はさておき、俺達も早く行こうよ」
「まぁまぁ、ちょっと僕達のサブマスについて話さないか?諸君」
もう復活してるし……、何かと思えばそんな話題か。
「疑問に思ったことはないか?エタさん、うちのギルマスにあそこまで信頼されてる。しかし、僕達の誰よりも、ランクは下、それどころかトーナメントに参加するような人間の中でも下から数えた方が早いのではないか?」
「俺はエタさんが信頼してるから別に」
「本当にそうかい?アイク君」
「……不思議だなぁ、とは思ってるよ。だけど俺が異論を挟む余地はないとも思う」
「言いたいことを言えない職場が僕は快適だと思えないね。第一、彼女はまず見目麗しい防具を調達するより武器を何とかした方が良いと思っている」
武器、確かに。
彼女が使っている弓は『支援師の魔弓』、共に戦う仲間の身体能力を向上させる能力を持つ『支援師シリーズ』と呼ばれる装備の弓だ。
ただし、ギルドバトルは完全ソロでの戦い。
その性能に意味がなくなり、ただの威力が弱めの弓になる。
「彼女は確かに、教育者としては優秀なのだろう。かくいう僕も『キュウビ』や『王』、『女王』に関する彼女の知恵は助かった。情報収集能力も認めよう。だが上げられる火力を上げないのは解せないね」
「で、でも。その分他でやれることをやってる……みたいですよ?」
「ほう?マリアさん、それは何かね?」
そうタソガレに問いかけられるとさんは懐から5種類の綺麗な石、
「皆さんはルーンの構成、これと一緒ですよね?」
「ふむ、アタクイにエネミー3種、そうだね」
アタックルーン、クイックネスルーン、エネミー3種とは敵対した魔物の速度、攻撃力、防御力をそれぞれ下げるルーンだ。
大体のベルレイバーがこの構成でギルドバトルに挑んでいる。
「アヤさん、エネミーアタックダウンじゃなくてウィーク付けてました。チラッと見ただけですけど……」
「……ん!?彼女、あのクソルーンを使いこなすと言うのかい!?」
増幅結晶が発見されてから暫く経った頃、金色に輝く如何にも『高価』そうなものが見つかった。
それをとある人物が身に付けて検証したところ、魔物を倒すまでの時間が増えたらしい。
何度か同じ魔物と戦う事で判明したのは『魔物の目や関節、防御力が低そうな所を攻撃すると大きく怯んだ』そんな事だった。
付いた名前がウィークルーン。
敵の弱点を暴き、そこを重点的に狙うことが出来る者のみが真価を発揮できる、そんな代物だった。
「あれはアザミ殿が使っている事で話題になったが……あんなものを使用できるのは一握りだ」
「でも使える。じゃなきゃ今の今まで一度も出撃に失敗しないなんて真似できる筈もない」
「……今夜ギルドバトルが終わったら聞いてみようか。今日の出撃結果で自ずと分かるだろう。単なるフィフスランカーか、得体の知れない何か、か」
◇◇◇
「さて、最初の『王』の行動は……遠隔斬撃の首斬り『
現れた黒き王の一撃を大きく屈んで回避、直ぐ様『王』の方へと態勢を整えて向き直る。
「じゃ、やりますか!『
処刑の一刀の後、すぐに『親愛の鐘』を鳴らしてその魔力を身に宿す。
『トリガーハーピィ』は大型魔物としては中の下程度だが『遠距離武器全般の威力が向上』というかなり強めの効果を持っていて『遠距離武器握るならとりあえずこれ持っておけ』と協会からオススメされるほど。
当然、かの鳥は今でも乱獲されている。
ちなみに他の例だが、メイビーの使う『女王』は『魔法の威力、範囲を向上。加えて一度だけ致死ダメージを無力化する』というなんとも反則じみた効果。
当然、魔法使い系ベルレイバーの最高到達点。
(難易度『ふつう』は次の魔物が出てくるまでの間隔が20分、『ムズ』の倍は時間あるけど流石に間に合わないかなぁ……)
先日までとは比べ物にならないくらいの魔力量、魔物の耐久度もかなりのものになっている筈。
(『王』の弱点は……手足の関節。仮面剥がせば頭が一番通るけど面倒だなぁ)
仮面は何度も攻撃すると割れる、そうすることで一番ダメージの通りが良い部位が出てくる。
しかし、
正直そんな事やってる暇があったら今みたいに関節に絶え間なく矢を撃っている方が早い。
『王』の骨格は概ね人間と同様、だから関節に矢を射られれば動きに多少の支障をきたす。
目にも止まらぬ剣閃も目に写るようになる。
『強者は力で圧倒し、弱者は知恵で辛勝する』
私の最弱はそうやって最強へも牙を剥く。
情報の積み重ね、小さい努力の積み重ね。
こんな地道な戦い方でも通用することを証明する……私にとってのそんな機会がトーナメントだ。
圧倒的な力で勝ってもそれは『結果』に過ぎない、『過程』でも通用くらいはする事を証明しなければ意味がない。
このベルレイバー最盛期の時代。
新規参入は多い、しかし、始めた数だけ辞めた数も多くなっている。
挫けるのだ。
命を懸けるこの仕事に、ギルドバトル専業になろうとも上位との実力差で他の雑多と同じになることに。
人は地味を嫌う、誰しも『自分こそが主役だ』と思いたいのだ。
クソルーンだと罵られようと私は見捨てない、命が賭けの台に乗らない場所で戦っても役に立てる武器がギルドバトルでは役に立たない?良いよ、極めれば最強だって喰らうことを証明するから。
私が今回の相棒とするのはこの武器、エタさんは認めてくれた。
どうやら……一部の面々は私をあまり気に入ってないみたいだけど関係ない。
私は私の道を行く。
邪魔するものは全て倒す。
だからまずは……、
「目の前の『
ポイントを見て分かった、向こうもまだ手加減している。
その上でこちらを倒す策を取っている筈。
私の策が、その上を行けば勝ちだ。
ここは私個人の勝利とギルドの勝利を両立しよう。
『メイビー、キサラギ』
『はいはーい、こちらキサラギー』
『メイビー応答!』
ここで使うとは思ってない筈、今回私はそこを突く。
『『
『お?いいの?』
『私の予想だとこのままだとポイント稼ぎが足りない。2人が2回以上『ユノ』の防衛抜けば多分勝てる』
少し甘い目算かもしれない、ただ勝つにはこれが1番近道だ。
私の勝利は私が突破できればいい、だけどエタさんが求める勝利には1位が欲しい。
『どうせ2人は持ってることが判明してるんだ。少しくらい情報を与えたところで問題はない』
2人はそれぞれピラミッドダンジョン100階層単独初攻略、ロンドン塔ダンジョン100階層単独初攻略の功績を持つ。
何処のギルドも喉から手が出るほどの実力者だ。
私が幼馴染みだからメイビーは呼べた、とある筋で関わりがあったからキサラギは呼べた。
そんな2人が力を貸してくれるなら、
『さぁ、最初の大勝負だ。勝ちに行くよ』
『キサラギちゃん勝負しない?オイラは3周目指す』
『ウチは火力一辺倒の性能じゃないしなぁ……、ま、大人しく負けるつもりはないしー』
通信を切る。
これで……
ギルドは勝てるし私がカメラに映る事もない。
ギルドバトルは同時に何百何千という単位で開催される。
1つのギルドバトルに配備されるカメラの量は4~12、それぞれのギルドマスターには確実に付く。
そして注目度が高い人物……高ランクの人物や明らかに魔物の討伐速度が早い人物が次にカメラの対象になる。
私は……多分悪い意味で注目されてるだろうから最初は映るだろう。
だがここでメビさんとキサラギさんが暴れればそっちを注目せざるを得ない。
トーナメント終盤ならともかく、普段のギルドバトルだと1ギルドに最高3台が限界だった。
周囲に機械的な視線は感じない、あるのは殺意の王から感じる視線のみ。
「さぁ、『王』よ。2人で踊ろうじゃないか」
黒の剣が濃い殺意と共に腕、足、首を奪いに来る。
「……フフッ」
全身が震えるほどの濃密な殺意に口元が思わず弛んでしまう、いけないなぁ、これは絶対にいけない。
教え子達には絶対に見せられない。
「所詮はニセモノ。なのにこんなに殺意をぶつけてくるなんて……、ヒリつくなぁ、良い空気だ!!」
ただ行儀よく振る舞ってるだけの戦闘狂だなんて
世界には知らない方が良いこともある……なるほど、至言だね?
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