第6回 初の難敵 出撃1時間前


「あーあ、今日も小さい『女王』しかデレねぇ……」

「姫、姫~、一応言われた魔物の『親愛の鐘』、手に入れてきたよ。1.850しか落ちなかったけど」

「は!?リッチェルさん、そのサイズ今日だけでデレたの!?っはぁー!オイラは毎日潜ってるってのに……」

「ありがと、リッチェルさん。相変わらずの豪運で」

「豪運ゴリッチェルさんちっすちっす」

「ゲーレさん、そんなに殴られたいなら言ってよぉ、そこに直れ」

「嫌だ!!」

 やたらと運が良い人、どこの世界にもいるよね。

 リッチェルさんはベルレイバーの中のその枠の人。

 彼女はまだサードランカーだが近いうちにセカンドランカーに至るだろう。

 単純に戦闘力も高い、魔物との連続戦闘も楽しむ、『親愛の鐘』の保有量もかなりのもの、ランクが上がらない要素が逆に見つからない。

 エタさんが見つけてきた新人らしいが一体何処でこんな逸材を探し当てたのだろうか。


「ウチも家の倉庫から持ってきたけど必要ないみたいだね」

「一応万が一を考えてたからね。ありがと、キサラギさん」

 ショッキングピンクのポニーテールを揺らす彼女はキサラギさん。

 派手な見た目からは想像できないが武器は銃。

 私の知り合いの中でも随一の遠距離戦の名手、セカンドランカー47位。

 今日リッチェルさんに周回してもらった大型魔物の『親愛の鐘』は彼女も持っている……というかキサラギさんはとりあえず全魔物の鐘を集めている人だ。

 多分持ってないのは『道化師』くらいだと思う。

『ウチ、アイツと相性悪すぎ。毎っ回ハズレ個体引くから戦いたくない。だーれが『道化師の裁配ジャッジメント・ジョーカー』で『四賽、死に染まるダブルフォーカード』を三回連続で引かなきゃいけないのさ、やってられないっしょ』とは彼女自身の言葉だ。

『道化師』は出現時、十三面のサイコロを四個振る。

 この結果によって、『道化師』の能力が変わるのだ。


 キサラギさんが三回連続で引いたのは全てのサイコロが4の数字で揃っている状態、強さとしては上から4番目にあたる。

 噂によると『道化師』は『道化師の裁配』で数字が3つ以上揃っていないと『親愛の鐘』が絶対に落ちないらしい。

 本当なのかは不明だ。


「はいはーい、全員ご静聴。うちの副店長兼参謀のアヤさんからお話しがあるよ」

「作戦立案は大体てんちょーの役目でしょう?シンシアさんにもその手腕は認められているようで」

「過大評価だよ。ワイはワイの出来る限りをするだけ、その先に勝手に勝利が転がってきてるだけ。今日はアヤさんの指揮がワイの理想だよ」

「はぁ、調子の良いことで。……さて。じゃあ僭越ながら今日は私が指揮です。今日は皆さんに前提調査として事前に復幻装置を使って練習して貰います。内容としては、『王』と『女王』を同時に相手取り、善戦して欲しい」

 ホール内が少しざわつく、事前に伝えてあったキサラギさん、メビさん、それとエタさん、ゲーレさん、リッチェルさん、ハルカナさんの創立メンバーは全く動じてない。

 私達の目標はギルドバトルトーナメントの優勝だ、いつかは上位のギルド……私達が持ってるような強力な大型魔物を倒せるようになる必要がある。


「一時間じゃ多分倒しきれないからとりあえず死なない事が課題、本番だとこちらの動きも変わるし敵の魔力炉の具合によっては同時に相手する事はないかもしれない。これは最悪を想定しての課題です、出来なくても問題はないよ。ね?てんちょー」

「正直なところ、ワイもやったことないからね。これからまだトーナメントの開幕まで1ヶ月あるから慌てる必要はない」

 3つの鐘が置かれた復幻装置、前半2つに『王』と『女王』が配置されている。

 3枠目の鐘は今回リッチェルさんが入手したもの、これは……ただの予想に過ぎない、けどわりと防衛入りする可能性が高い、汎用性が高い大型魔物を入れておいた。

 勿論、本番でもうちの防衛入りさせる予定、その他2枠にも最前線でよく使われる大型魔物を使って様子見するつもり。

 実際は4番目『女王』の5番目『王』だが演習の仕様上今はこの構成。


「出来ないなら出来ないで良い。努力する時間はまだあるからね」

 現状で出来るのは半分もいないかもしれない、最終的にトーナメントで上位ギルドと当たるまでに出来てくれればそれでいい。


 ……努力もできない人を見極めるにはちょうど良い機会かもしれないね。


 本日の『焼肉処白鐘』防衛

 1クイントロス

 2??????

 3??????

 4ウルティマギア・カースドクイーン

 5マリスブレイド・クルーエルキング



 ◇◇◇




『本日のギルドバトル、夜の部まで30分前となりました。本日のマッチング内魔力炉貢献度ランキングを表示します』

 1位『焼肉処 白鐘』メイビー2000万

 2位『YOU KNOW』メチェーレ1800万

 3位『焼肉処 白鐘』リッチェル1500万

 4位『焼肉処 白鐘』ゲーレ1000万

 5位『YOU KNOW』レイン850万


『続いて総ポイントを表示の上、順位を一時的に表示します』

 1位『YOU KNOW』1億2000万

 2位『焼肉処 白鐘』6200万

 3位『魔法こそ最強!!』820万

 4位『ホロウマギカ』790万




 ◇◇◇




「……まぁ概ね想像通りの状態ですね」

 確かに『焼肉処 白鐘』は脅威だ。

 今日魔力炉ランキングに食い込んできた二人に関しても改めて調べる必要があるだろう。


 だが、現にスコアは2倍近く離れている、こちらもフルメンバーで動いていたわけではないがあちらよりは動かせる人数が多い、当然の帰結として昼間は勝てる。



 むしろ本番はだ。


 こちらとしても一瞬しか映らなかった『王』のサイズを測るまたとない機会であり、向こうの突破力もこれから伸びはするが最低値は把握できる。


 テレビの注目も集めている、あからさまに手を抜けば目が肥えているギルドバトルファンは総叩きにするだろう。

 既に業界には知れ渡っている、ギルドバトルルームでのチャットは別に非公開ではないため、何処かのギルドが提供すればそこでの会話はおおやけになる。


「『優勝を目指す』……か。エタ君も大きく出たものだ」

 上の者達の強さも知っているだろうに、私に付いてくればもう少し楽な道だったかもしれないのに……。


 いや、でも君は多分こういうんだろうな。


『上に連れてってもらいたいわけじゃない』って。


 あくまでも、彼がそこに自力で至りたい。

 誰かに連れられて行くのは彼の主義に反するのだろう。


「さて、じゃあ君が選んだ相棒と、仲間達の力を見せてくれ。楽しいバトルにしようじゃないか!」

『焼肉処 白鐘』にとって、最初の難敵との直接対決が今始まる。






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