第3回 初の休日


「んー!今日は休みかぁ。ワイはさっさと上の方のレートまで上げたいんだけどなぁ!」

「しゃあないしゃあない、日曜日は全ギルド、ギルドバトル休みが義務なんだから」

 水曜日に初戦を勝利で飾り、以降、木、金、土曜日も余裕の1位で破竹の勢いでレートを駆け上がる『焼肉処 白鐘』

 その勢いも今日で強制的に止められてしまった。


「……月曜から始めた方がよかったかな?」

「そりゃ厳しいよ、てんちょー。大体仕入れ業者も日曜日休みだし、今みたいに契約勝ち取れたなら良いけどなんの実績もなかった先週までの私達じゃムリムリ」

 ハルカナさんは現在書類と格闘中。

 肉や野菜の仕入れ先と正式に取引することになったため、契約関係の書類が回ってきたのだった。


 アヤさん、メイビーさんは私用で外出、他の面々の殆どはギルドホール……店の事務所に設置された200インチのテレビ画面にかじりついていた。


『さーて、日曜昼過ぎ午後イチバン!『週刊ベルレイバー』のお時間です!!』

「……お、始まったね」

 ハルカナさんが書類を見ながら耳に入ってきた音声に反応する。

 そう、今日はみんなこの番組を一緒に見るために集まっていたのだった。


『週刊ベルレイバー』

 その週のギルドバトルで特に視聴率が高かったマッチングやSNSで話題になった出来事、新たなダンジョンや最下層の到達等々、ベルレイバーに関する話題のみがピックアップされるこの番組。

 新進気鋭、圧倒的勝利でデビューを飾った自分達が映るのでは?とみんな楽しみにしていたのだった。


『では早速、今週の話題トップ10から行きましょう!10位から6位まではご覧の通りです!』

 表のように並べられた出来事は下から順の5つ、その中に自分達の話題は入っていないことに安堵する者が数名。


(……みんな当然のように入ってると思ってるみたいだけど入ってない可能性もあると思うなぁ)

 現在、約5000ものギルドが存在している。

 SS、S+、S、A、B、Cと強さごとにマッチングギルドが分かれている中でもワイらのマッチはA。

 上位勢ではない。

 そんな簡単に話題にされるとは思えない


「てんちょー、もしかしてベスト5に入ってないと思ってるん?」

 そんな空気を察したのかゲーレさんが声をかけてきた。


「いやー、爆弾発言したは良いけどさ。所詮はAレートの話、そんなピックアップされるとは思えないんよ」

「これ見てもそんな事言える?」

 ゲーレさんが操作していたタブレットをこちらに向けてきた。


(えっと……、『Aレートに突如出現!『女王』と『王』を保有するギルド、爆誕!!』……は?)

 思わず目を見開く、それを見たゲーレさんはイタズラ成功、と言わんばかりにニヤニヤしていた。


「最初のマッチングのギルマスさん。ちょっと頑張ったらしくてうちの5番目を見ちゃったんよ。当然ギルドバトルは生配信、頑張ってるギルマスさんの視点は撮ってるよね」

 そうか、


 だからその後の数日はうちへの出撃数が一気に減ったのか……。


「『女王狩り』のメイビーが居る時点で『女王』は確定、そこで大体の人が振り落とされ、『王』で完全に心が折れる。ちなみにあの『王』持ち込んだのって誰?」

「いやぁ、ワイは防衛編成に関してはアヤさんに一任してるから把握してないや」

「姫か。じゃあ姫が連れてきたもう一人が持ってきたってのが1番現実的かな」

 通称『王』

『マリスブレイド・クルーエルキング』は複数人での挑戦ならば500位以下の人間で可能、だが単身では50位以内でなければ入ることすら許可されない。

 つまりワイは挑めないし殆どのメンバーが一人で挑めない。

『親愛の鐘』は一人で挑まなければ絶対に出現しない。

『王』はそれを持つだけでセコンズランカー中位以上であることが確定だ。


『お待たせしました!ベスト3スリーです!』

 あ、5位と4位見そびれた。

 まぁ後で全部タイトルは見れるからいっか。


『3位!旧日本、伏見稲荷ダンジョンの50階、最下層のボスが判明!九本の尾を持つキツネ『キュウビ』!』

「お、ついに出たか。化けギツネ」

 ダンジョン最下層のボスはそのダンジョンに関わるものが多い。

『女王』だってミイラだろうし『王』はイギリスだから多分騎士王伝説が元だろう。


 日本は妖怪系が多い、今回出現した『キュウビ』や雑魚魔物の中にも『コマ』という狛犬モドキがいたり、腕が4本足が4本の化け物の『スクナ』がいたり。


 新しい大型魔物は倒すのに1週間程度かかることが大半だ。

 理由としては魔物の動きが全く分からないため、調べるために何度も生存重視の装備の人間が複数人でアタックするため。

 死なない戦いが流行した現代、ベルレイバーの死は大きな話題となり、場合によってはその者が所属していたギルドのマスターが責任を取ってその役職を辞する場合もある。

 軽くなってきていた人の死の重さが正常に戻ったのもギルドバトルの功績の1つかもしれない。


『続いて、第2位!!』

 パッと伏見稲荷ダンジョンから変わった画面にはうちの店の看板が映っていた。


『あー!!』

 1位を逃した嘆きの声がギルドホールに響く。

 最下層ボスの判明より上なんだから充分だと思うけどなぁ。


『店を営業しながらギルドバトルをする、というのは前例があります。ですが!他店は大体バーや酒場といったギルドバトルを終えてからの営業です。しかしこのギルドはギルドバトル中に営業し、出撃フェイズの1時間前に営業を終えるという異色の経営方針です』

 そう、上位のギルドに店とバトルを両立させてるギルドはある。

 しかし、ここまで大々的に営業しているのはうちが初めてだ。


『週の折り返しに突然Aレートに登場!圧倒的なポイント量と出撃成功率、そして極悪な防衛魔物を保有するギルド、『焼肉処 白鐘』!!彼らの無双が視聴者の目に鋭く突き刺さりました!!』

『イェーイ!!』

「……」

 落胆の声があがったかと思えば誉め倒され、大喜びのギルドメンバーを若干引いた目で見てしまった。


「てんちょー」

「なに?ゲーレさん」

「これがてんちょーが集めたメンバーだよ」

「ちょっとお調子者集めすぎたかなぁ~!?」

 明るい雰囲気なのは別に良い。


 でもちょっとはしゃぎすぎじゃない!?


『そして堂々の1位は!!』

 次に画面に映ったのは見覚えのある魔法使い。

 それがカメラに向けてピースしている映像だった。


『『焼肉処白鐘』でトーナメントに出るとSNSで正式に表明したセコンズランカー13位、メイビーさんが『女王』討伐数1万を突破したとの話です!!その圧倒的な数とそれでも最大サイズ2000が落ちない不運が第1位を獲得しました!!』

『はぁ!!??』

 いや、これは文句が出ても仕方ない。


 まさかの話題が1位だった。


『ごめん、そんなにオイラが注目されてたとは思わなかった』

 後にギルド内チャットで袋叩きにされる男の最初の言葉であった。




 ◇◇◇




『ランキングが終わったところで、スタジオに帰ってきました、皆様毎週見てくださりありがとうございます!わたくし万年777位のナナです!さて、今週は唯一ギルドバトルの話題だった2位をピックアップ!『焼肉処 白鐘』さんについて、何がすごいの?との疑問にお答えしていただくべく、ゲストにお越しいただきました』

『皆さん、初めましての方は初めまして。ファーストランカー9位『YOU KNOW』のギルドマスターのシンシアです』


『早速ですがシンシアさん。彼らの強み、とは一体なんなのでしょうか?』

『うーん、そうですね……それは複数あります。1つ目は圧倒的な戦闘力ですね』

『というと?』

『そもそも、『女王狩り』のメイビー氏を始め、1人1人の魔力貢献量が高いです。恐らくS+の上位になるまで彼らを止めれるギルドは居ないでしょう』


『ですがお店を経営しながら、となると人員が足りないわけですが』

『何処のギルドだって20人全員が魔力結晶集めに奮闘できるわけではありません。少しだけそれが大きくなるだけであまり弱点にはならないと思います。いざとなったら彼……失礼、ギルドマスターであるエタ氏、彼ならば店を一度閉めて全力を尽くすでしょう』

『ギルドマスターをご存じで?』

『えぇ、彼は優秀な策士です。うちにも欲しかったのですが……フラれてしまいましたね』

『なるほど……、ではまだ彼らは余力を残している、と』

『それは間違いありません。さて、二つ目ですが、これは例の初戦の動画を見る方が早いですね』

『例の初戦、というと『トライデント』ギルドマスター、グレン氏の出撃を追ったカメラの映像でしょうか?』

『彼はあのレートに居るのは勿体無い逸材ですね、Aレートでいながら『女王』と2体の大型魔物の攻撃を捌いていたのですから』


『しかしその快進撃も突然終わりを告げました』

『あれはもう仕方ないです。一度も戦闘経験が無い魔物が現れた、しかもそれは最強の魔物。抵抗の間もなく首を斬られても彼には称賛の声が山ほど寄せられました。かく言う私もてっきり『道化師』か適当な大型魔物が出てくると予想しましたからね』

『3位、と来たら2位が来るとは私も思いましたがまさか1位の『王』とは……。というか、シンシアさんリアルタイムで見ていたので?』

『先にも言いましたが、エタ氏にはかなり注目していましたからね。彼がようやくギルドを始動させたのでついつい見てしまいました』


『『道化師』が出てきたらここまで称賛の声はあがってなかったでしょうね。『王』と『女王』に比べると知名度は低く、インパクトにも欠けますから……。さて、ここで疑問が生まれます』

『というと?』

『誰が『王』……『マリスブレイド・クルーエルキング』の『親愛の鐘』を所有しているか、です。知らない人も居るでしょうから言いますが『王』の『親愛の鐘』は……簡単に言うとセコンズランカー中位、50位以上のベルレイバーでなければ絶対に手に入らない代物なのです』

『……セコンズランカー13位のメイビー氏なら可能なのでは?』

『『女王狩り』に『女王』を出させないならそれもありでしょうね。彼ならば『王』に挑む資格がありますから。するとあの最大サイズに近い『女王』を他のメンバーが提供……しかし彼も上位ランカーゆえにそれなりにプライドが高いですからそれを許容できるか、ですね。うちが独自に調査したギルドメンバーリストがこちらです』

 マスター エタ 303位

 サブマスター アヤ 56000位

 リッチェル 510位

 ゲーレ 291位

 ハルカナ 670位

 ソラ 871位

 イオ 39位

 チョー 560位

 アイク 2100位

 クルーナ 1547位

 マリア 2741位

 ツナ 340位

 マサト 81位

 カミラ 48位

 トロア 914位

 エイブ 298位

 タソガレ 1700位

 ナギ 1702位

 メイビー 13位

 キサラギ 47位


『これは……流石は諜報ギルド『YOU KNOW』ですね』

『いやぁこの短い間に調べるのは苦労しましたよ。大半がセコンズ、サードだったのでまだ楽な方でしたがね。っと私の苦労話は置いておいて、これを見るに『王』を所有している候補に加えられるのはイオ氏、カミラ氏、キサラギ氏、あとはまぁ多分ないとは思いますがメイビー氏ですね』


『不思議なのはサブマスターさんですね。これだけ精鋭揃いなのにフィフスランカーが居るのが異様なのにサブマスターというマスターの補佐をする立場に付いているとは……』

『彼女は一応前々回トーナメントでエタ氏と共に出場していますが……戦績としては可も不可もなく。強いて言うならば彼らが敗退した試合以外は一度も出撃を失敗してない点が少し引っかかるところですが、それだけでエタ氏がサブマスターの権限を与えるほど信頼するとは到底思えませんね』

『さて、色々と気になるところではありますが本日の『週刊ベルレイバー』の終わりの時間が近づいてきました。……え?臨時ニュース?』

 視界のナナが一度カメラから外れる。

 戻ってきた彼女は1枚の紙を手にしていた。


『し、失礼しました。ただいま臨時のニュースが入ってきました!!なんと旧日本、伏見稲荷ダンジョンのボス『キュウビ』の討伐第1号が確認されました!』

『おや、これまた随分と早い。うちのギルドも討伐隊に加わっていたようですが……どうやら先を越されてしまったらしい』

 シンシアは自分の携帯端末に連絡が入っていないことを確認。少し肩を竦めていた。


『討伐者はファーストランカー1位!黒いフード、紫のスカーフに隠された謎の正体!あまり大柄ではないその身体から高速で振るわれるのは身長を大きく超える大太刀!あらゆる魔物を両断する爽快な戦闘は万人を興奮させます。正体不明にして最強のベルレイバー『アザミ』氏です!!』




 ◇◇◇




「相変わらず綱渡りな戦闘してるよね」

『……メイビーか』

「おうとも、君の友達メイビーさ。オイラに周辺の人払いを頼んだかと思えば新ボスを『週刊ベルレイバー』流しながら倒しちゃうんだもん、流石のオイラも度肝を抜かれるよね」

『5匹目の防衛が初日に割れたのは想定外だろうな』

「そーそー、オイラもビックリしたよ。まさか本気で突破しようという気概がある人間があの低レートにいるとは思わなかったよ」

 岩場に座り、サンドイッチを食べる黒いフードの人物の隣に腰を下ろすメイビー。

 彼を咎めることはなかった。


『……今週のニュース1位』

「あ、見た?オイラももうそろそろ運命の出会いがあってもいいと思うんだよね。早くオイラに大きい『女王』がデレて欲しいよぉ」

『あのタイミング、完全にわざとだろう』

 ニコニコしていた顔が一瞬凍り付き、次には笑顔が消えて真顔になった。


「まぁね。ちょっと情報操作しようかと思っただけ。アヤと出るって決めたまでは良いけどギリギリまで『ユノ』に目を付けられたくなかったから。結果としてはガッツのあるAレートギルドのお陰で注目されちゃったけど。それでもオイラのネームバリューで少しは誤魔化せると思っただけだよ」

『ユノ』とは『YOU KNOWユー・ノウ』の略称、他の上位ギルドは軽い下調べだけで真っ向勝負が好みのギルドが多い。

 だが『ユノ』は膨大な下調べの元にギルドバトルに臨む。

 前回、前々回トーナメント総合3位ギルド、『YOU KNOW』は情報戦において最強を誇るギルドなのだ。


「少なくとも直接マッチングするのはトーナメントまで避けたい。なんか策あるかな」

『……私に聞くな、ギルドバトルに関しては私は知らない』

「ほんまにー?オイラとしては君はシンシアと同じタイプだと思ってるんだけど」

 メイビーは知っている、横に座る人物が才能と共に膨大な情報を頭に詰め込んでいる努力も備えた人物であることを。


『同じ人間のことなど知るか。勝手に安全圏で戦っていればいい』

 サンドイッチの包みを赤い結晶から放った小さな火で灰にする。

 そしてメイビーが座った右側とは逆に横たわる巨大な刀を背負いながら立ち上がった。


『私は、私がやるべき事を、強者が負うべき責任を果たすだけだ』

 はファーストランカー1位、『孤高無敗の報復花』アザミ。


 世界で最もボスを初討伐している最強のベルレイバーだ。




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