第27話 ラストチャンス

 その後、『詳しい内容はあっちで話そう?』とのことで、ギルド会議室へと連行されていく。気乗りはしなかったが退路を断たれているので逃げ腰でも着いて行くしかない。


「先に言っておきますけど、俺召喚術師になりましたからね。」


 ただ、それでもこのままいけば訪れる不幸を粛々と受け止めるつもりはない。到着早々の先制攻撃である。元々弥生さんには伝えたいと思っていたので、盗聴防止の魔道具がある会議室は丁度良かったのだ。


「わぁ、おめでとう~~!! もしかしてあの時の階層渡りの魔石から出たの? 頑張った甲斐があったね。」


 素直な祝福の言葉と共に『話が脱線しちゃうけど』と続けて弥生さん。


「それで、どんな召喚カードを引き当てたの?」

「それが、少し変わったエリア召喚でして。 あと、それとは別にハズレアも引いちゃったので、俺のガチャ人生は終わりました……。」

「あらら、それは残念ね……。」

「まあ、そういうことですから、先程の話は他の魔道具師に割り振って貰えると。」

「あはははは、それとこれとは話が別だよ? それに、エリア召喚なら戦い方は今までと変わらないでしょ? それなら魔道具師として出られるよ。」


 やっぱり駄目かぁ……。

 召喚術師だって必ずしも魔道具を使わない訳では無いので召喚獣と人間が戦う絵さえ撮れれば番組的に問題ないのだろう。そんな気はしていた。


「でも、ガチャ引けなくなるなら尚更出た方が良いと思うよ? 出演料とは別に、魔道具師が勝つとクラス1召喚獣のカードが貰えるから。」

「えっ!?」


 最低でも100万を超える召喚獣がタダで貰えると言うのだから破格な報酬ではあるが……勝利条件かぁ。

 あまりにも大き過ぎる釣り餌には、当然ながら仕掛けがあるのだろう。ただ、そうと分かっていても『食いつきたい』と思ってしまう。


「……参加するにはどうしたら?」

「そうこなくっちゃね!」


 逡巡しゅんじゅんの末に俺は参加を決意する。そう、これが召喚獣を手に入れるラストチャンスだ。



◇◇◇



「それじゃあ……はい、これ。」


 参加表明を差し出された用紙で済ませたところで、続いて弥生さんが取り出したのは小さな木箱。


「なんですか、これ?」

「ほら、最初に『これは私からの依頼』って言ったでしょ? だから私からの報酬もちゃんと用意してあるんだよ。」

「それは……」


 番組側から出演料が貰えるだけでなく弥生さんからも報酬が出るのであればクエスト的には美味しい。ただ、気になるのは報酬が現金では無いってことだろう。それも番組前にわざわざ木箱に入れて持ってきたってことは……まさか、中身は魔道具だろうか?


「用意が良過ぎません? さては、どうあっても俺を参加させるつもりでしたね?」

「いやぁ……志麻くんがギルドに顔を出さないここ数日間の私の心境、分かる? せっかく用意した報酬がパァになるんじゃないかと気が気じゃなかったよ~~。」

「俺に対する心配ってそういうこと!?」

「まぁまぁ、それよりもほら、開けてみてよ!」

「はぁ……ん? コンタクトレンズですか?」


 若干勢いに流されてしまっている気はするが、弥生さんに促されるままパカりと開けてみればそこに入っていたのは見た目上ただのコンタクトレンズ。ただし、魔力の通りが良いので魔道具で間違いないだろう。そして『遠見の片眼鏡』同様に片側分しか入っていない。


「本来はダンジョン外での使用を目的とした高性能コンタクトレンズの試作品らしいんだけどね。 性能を突き詰め過ぎた結果、ダンジョン外で使うには魔力が足りなかったんだってさ。」

「魔道具の試作品ってそういうの本末転倒多いですよね……。」

「ダンジョン内では問題なく使用できるだけこれはまだマシな部類かな~?」


 当然ながら魔道具制作とは容易に実現出来ることではなく、一大プロジェクトとなる事が多い。その為、完成までにいくつもの試作品が作られていて中にはこんな感じの欠陥品も含まれているのだ。

 逆に製品版よりも良い素材を使った高性能試作品なんかもあったりするのだが、いずれにしてもそれら試作品はおいそれと入手できる代物では無い。値段の問題ではなく、最低でもコネがなければ門前払いだろう。

 弥生さん個人のツテか、はたまた冒険者ギルドとしての繋がりか。いずれにしても流石だな。


「基本的な性能は志麻くんが使用している『遠見の片眼鏡』の上位互換だと思ってくれれば良いよ。 あとはそれに追加で『視認性向上』の効果付き。」

「眼鏡タイプは兎に角使い勝手悪かったので、コンタクトタイプになっているのは良いですね。 ……それにしても視認性向上、ですか。」

「程度がどのぐらいなのかは分からないけれど、土煙や水中でもそこそこ視界が通るみたいだね。」

「それは良いなぁ!」


『おまけ程度の効果だと思った方がいいけどね~』と弥生さんは言うが、そうだとしても土煙は強襲する時だけでなく逃げる時にも利用するのだからオマケで付いてくる効果としては十分に優秀だろう。

 ただ、今後のことを考えるのであれば報酬は現金で貰えた方が良かったなぁ、なんて……いやいや、弥生さん直々の報酬に文句なんて御座いませんとも。



◇◇◇



「それで……ずばり、勝算はあるのかな?」


 とりとめのない会話で場を温めていた弥生さんがついに核心へと切り込んできた。

 そうだよな、紹介する手前やはり気になるのはそこ勝算だろう。もし俺が番組で無様を晒そうものならそれは紹介した弥生さんの評判にも関わってくる。

 まぁ、弥生さんはそんなこと気にしないだろうけどね。


「そうですねぇ……ルール無用の死闘・・・・・・・・であれば、勝ち目はほぼゼロですよ。」

「それじゃあ、競技としての決闘・・・・・・・・であれば~~?」


 絶望的な推測に対してノータイムでのレスポンス。流石は弥生さん、俺の事がよく分かっている。



 今回の番組企画ではクラス2召喚術師とやりあった時と同じルールが適用される。それなら、どの召喚術師が相手だろうと魔道具師の序盤有利は覆らない。つまり、勝ち目もゼロではない。

 それに今回は……不敵な笑みを浮かべながら、弥生さんに宣言してみせる。


「番狂わせがあった方が、番組的に盛り上がると思いません?」

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