第28話 召喚獣チャンネル
弥生さんからクエストを引き受けた2日後。そう、たったの2日後だったのだ。召喚獣チャンネルの大型企画『どっちが強い? 召喚術師vs魔道具師!』が開催されたのは。もう少し時間に余裕がほしかった……。
『ああっと、またもや魔道具師は遠距離攻撃を繰り出すのか!? これには客席からのブーイングも鳴り止みませんッ!』
ただまぁ、俺はここまでの試合結果から既にこの企画は失敗だったんじゃないかと思っている。
◇◇◇
逃げ回る魔道具師と飛び交う魔道具……そしてそれ以上に飛ばされているのが客席からの
番組企画第2試合、召喚獣との真っ向勝負を避け続ける魔道具師を前に実況も場の盛り上げに難儀しているようだ。
(これだったら、まだ第1試合の方が見応えあったな。)
ちなみに、その第1試合の様子はどうだったのかと言うと、新進気鋭の魔道具師……と言うか、大した魔道具さえ持たない新米冒険者がクラス1召喚獣とぶつかった。
ただ、新米と言っても番組に招集されるだけあって武道の心得を持つ魔道具師の動きは悪くない。あの実力ならダンジョン第1階層でも十分にやっていけるだろう。そう考えれば悪くない
なまじ武道の心得があったからこそ、魔道具師は召喚獣が召喚されるまでに先手を取ろうとしなかった。武道により得た勝機を武道の精神性で破棄してしまったのだから元も子もない。
尚、呼び出された召喚獣はクラス1中位の動物系召喚獣『ハイジャイアントパンダ』、漢字で書くと大大熊猫である。ここまで来るともう猫要素は感じられない。それでも見た目の愛らしさは健在なのでお茶の間人気は高く、番組企画的にも適役だろう。
名前に『ハイ』と付いているだけあって一般的なパンダから一線を画したサイズ感は魔道具師が倒すには火力不足で、魔道具師の体力が尽きてからは一方的な展開になった。そこそこ被弾したところで足早に『降参』を宣言してしまったのも無理は無い。
『先程から魔道具を投げてばかりですけども、彼は普段からこんな感じでダンジョン探索しているのでしょうか? これなら、私でも魔道具師になれる気がしてしまいますねえ(笑)』
『ははははは、流石にそれは言い過ぎでしょうっ? コントロールの良さぐらいは認めてあげないと。 まぁ、それなら冒険者よりも曲芸師の方がお似合いですなぁ!』
決闘になっていた第1試合と違って、2番手の魔道具師は召喚術師にも召喚獣にも近づこうとしない。ひたすら遠距離から魔道具による地味な攻撃を繰り返していた。恐らくは召喚術師の魔力切れを狙っているのだと思うが、会場からは当然のように大ブーイングである。ついには実況も彼を笑い物として消費する方針にシフトしたようだ。
(外野は好きなように言えばいいさ。 卑怯だろうと、これが魔道具師の戦い方なんだよ。)
それに、どんな手を使おうとも勝ちを狙う魔道具師の気持ちが俺にはよく分かる。なにせ、ここで一度勝てさえすれば
『ついに魔道具が尽きたのか!? 魔道具師、最後は呆気なくもリタイアーッ! いやはや、もう少し根性を見せてほしかったですねえ……。』
そう思っていたのに、魔道具が尽きた後には被弾さえしないうちから『降参』したのである。おい、そこまで勝ちに徹したのなら最後まで窮鼠でいてくれよ。
おかげで後に残ったのはシラケた場の空気と、そこに次に行かなくてはいけない俺。要するに貧乏くじである。
『第3回戦に登場するのは冒険者歴10年のベテラン、
冷えきった空気を盛り上げようと実況が俺の紹介に熱を入れると、客席からは『おおー』とほんの少しの歓声が上がった。期待半分暇潰し半分と言ったところだろうか。観客のお目当てが召喚獣であることを考えれば、まぁ、そんなものだろう。
実況を含めたあらゆる外部の音はセーフエリアの召喚が完了すると内部からは聞こえなくなってしまうが、それにしたってその紹介文は誇張が過ぎる。撃退と言えば聞こえは良いが、俺が階層渡りにトドメをさせた事なんて1度もない。どれも命拾いしてきただけだ。そもそも、どれだけ持ち上げようとも俺もこれまでの魔道具師同様クラス1なんだけど……どうやらその点には触れないらしい。盛り上げる為なら嘘も方便なのかね。
実況に無理やり押された背中が気になりながらも横浜ダンジョン第1階層『
『なになに……? 噂によると、彼はつい先日も第1階層に出現した階層渡りの討伐に貢献したそうです。 第2回戦とは違った熱い試合を期待しましょう!』
聞こえる段階での実況はもしかして俺に対する釘刺しだろうか?前の試合結果を払拭したいからってやることが露骨過ぎる……。
まあでも、そんなことを言われずとも熱い試合、熱い展開にしてやるつもりだ。第1試合、第2試合レベルの召喚術師が相手であれば、どんでん返しを見せてやろうじゃないか。……ん?
『そして、第3回戦の召喚術師は……ッ!!』
『『わあああーー!!!』』
客席は今日1番の盛り上がり。溢れんばかりの歓声に対して、俺の口から零れたのはたったの一言だった。
「嘘だろ……っ?」
カツカツと歩いているだけなのに人目を惹き付ける出で立ちと反して、まるで一切の人目を気にしていない絶世の美少女。銀緑の長髪を靡かせる冒険者なんて、一人しかいない。
『最も可憐なクラス3召喚術師、『妖精姫』の2つ名でもお馴染みの……
そこに立っていたのは紛れもなく、つい先日階層渡りから救ってくれた少女、妖精姫だったのだ。なるほど、どうやら番組企画は本気で魔道具師に勝たせるつもりはないらしいな。
……いやいやいや、なんでこんな企画にクラス3が出てくるんだよ!俺だけ難易度高過ぎない?
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