第26話 第2ラウンド
1度集落を壊滅させてしまえばあとは流れ作業である。軍隊バッタは自身が食べた物で召喚維持に掛かる魔力を代用できるので、ゴブリンで腹が満ちている間に次のゴブリンを用意するだけでいいのだ。
また、ダンジョン内の草木からも僅かながらの魔力を補えるのでそれらを狩り尽くす結果、小麦が通った後には草木1本残らない。要するにこれが【根絶やし】の由来である。
「何度見ても、ダンジョン外だったら環境問題になりそうな光景だなぁ……。」
「やだなぁ、ダンジョン外では魔力が足りなないので、ここまで大それたことは出来ないですよぅ!」
その後に付け足された『試してみたい気持ちはありますけども~』発言は聞かなかったことにする。勿論、冗談だよな?責任の一端も背負いたくないので、これ以上関わらないでおくけども。
そんな感じで幾つかの集落を壊滅させ、お土産分の魔石とドロップアイテムを確保した俺と小麦は日が暮れる前に冒険者ギルドで解散する事となった。
「志麻先輩、ダンジョンに未練が残っているのならボクとパーティーを組むって手がありますからね~?」
そして別れ際には何時もの誘い文句である。第1階層の魔石でガチャが回せなくなる以上、第2階層で狩らなくちゃいけないことを考えるならばこの誘いはひどく魅力的だ。
なにせ、小麦は先日戦ったクラス2召喚術師よりも格段に頼りになる。彼女なら階層渡りを目前にしてもパーティーメンバーを見捨てたりはしないだろう。この上ない誘いではある。だが……
「そうは言っても、小麦の召喚獣と俺は相性悪いだろ。 バッタ召喚後は小麦の護衛ぐらいしか俺の役目残ってないし。」
そう、この理由があるからこそ、これまでも誘いを断ってきていたのだ。なににも貢献出来ないパーティーメンバーなんて、ただのお荷物でしかない。
「献身的にボクの事だけを支えてくれるなら、それでも良いですよぅ?」
「それは流石にカッコ悪すぎるだろ……。」
性能検証も済んだことだし、そろそろ進退を決めないといけないなぁ。
◇◇◇
「年下女子とのデートは楽しかったですか~~?」
「えっと……弥生さん? デートと言うか、普通にダンジョン潜ってただけですからね?」
帰る前に荷物整理しようと弥生さんの所に立ち寄った結果がコレである。なんてこった、ダンジョンで楽をした分のツケがこうも早くに押し寄せてくるとは。
今すぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯だったが、アイテムの換金途中なのでお金を受け取るまでは『逃げる』のコマンドは使えない。そして何故、弥生さんは鑑定の手を止めているのだろうか。……ははぁ、これが回避不能の負けイベントってやつかぁ。
「もしかして、心配かけました?」
「騒動を起こした翌日から姿を見なくなったら、そりゃあ心配するよね~~? それとももしかして、志麻くんは私のことをそれぐらいの事では心配しない薄情者……とでも思っていたのかなぁ?」
「迷惑かけておきながら本当にすみませんでしたぁ! この埋め合わせは必ずしますので!」
「……何事もなかったんだよね?」
こくり、と頷いてみせると真摯な謝罪が功を奏したのか思いの外あっさりとお許しを頂けた。
「ちょっと休養してただけです。 それに何事もないどころか、何もかもが無いって感じですかね……。」
そう、夢とか希望とか、ね。
第二階層のモンスターだろうと事前準備さえ済ませていれば狩れないことはない。ただ、そのためには一時も集中を切らすわけにはいかなくなるし、どれだけ準備してもモンスターが複数体になれば形勢は崩される。
あまりにも安全性と効率が宜しくないのだ。第二階層がソロ魔道具師にとっての限界と呼ばれているのも当然だろう。
「そうなんだ? ところで話は変わるけど、志麻くんはテレビ番組の『召喚獣チャンネル』って知ってるよね?」
「そりゃまあ、冒険者で知らない人は居ないでしょ。 リアタイでは見れてないですけど。」
通称を『召チャン』と言い、召喚獣に関するあらゆる事柄を特集しているテレビ番組だ。この番組に出演する事を目標にしている冒険者も多い。
「次の召チャンの特集、知ってる? 魔道具師と召喚術師のガチ対決だってさ。」
「ええぇ? 撮るまでもなく結果は見えていると思いますけど……。」
「相変わらず、志麻くんの中での魔道具師評価は低いなぁ~~。 まぁでも、やっぱり魔道具師の参加者は足りてないみたいなんだよね。」
「そりゃそうでしょうね。」
召喚獣チャンネルはタイトル通り、召喚獣を贔屓にしている。そんな状況下で魔道具師が勝負を挑むとなれば針のむしろで戦うようなものだろう。それに誰だって生き恥は晒したくない。
「それでね、『番組に出演する魔道具師を紹介してほしい』ってギルドに依頼があったんだ。」
「……んん?」
ちょっと待て。これは、嫌な方向に話が進んでいないか?換金を捨て置いてでも逃げに徹した方が良いと俺の直感も告げている。
「あ、そういえば今日はこの後予定があるんでした。 それじゃ俺はこれで失礼して。」
「これは私からの指名依頼だよ。 勿論、引き受けてくれるんだよね~~?」
逃げ切るよりも先に俺の目の前にずいっと持ってきた右手人差し指を曲げたり伸ばしたりしながらも、弥生さん。要するに、さっき言ったばかりの『埋め合わせ』にこのクエストをチョイスしているのだろう。
いや、確かに俺にだって出来る埋め合わせではあるけどさ……負けイベントを乗り越えたと思ったら、また負けイベントが発生するのは理不尽過ぎない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます