第48話 最終話 わたくしは海賊ルカンですわ!

「やはり、あなたは気づいていましたか」

「赤いサメへのラトマの信頼具合と、赤いサメと聞いて。ナイアさんが赤の女王なら、サメも赤かろうと」


 おそらくラトマは、ナイアさんを犠牲にしてサメの術を得たのでしょう。


「ご想像のとおりです。私はラトマに殺されて、サメとなりました。殺されて当然ですが」

「ナイアさん。どうして、実の娘にまでひどいマネを」

「彼女なら乗り越えられると思ったのですが、厳しく育てすぎました。やはり血筋が悪かったのでしょうか。愛情を注げませんでした。結果、私も殺されたのです」

「どんな血が流れていようと、親子は親子でございましょう!?」


 わたくしは、ナイアさんの愛が理解できません。歪みすぎていました。


「親戚を殺害されて、心を傷めなかったあなたが言いますか?」


 一瞬、わたくしは言葉に詰まります。


「ひとは誰も、親を選べない。私だって、外宇宙から生み出されなければ人として生まれたかった。それが、人の子どもを身ごもりたい感情につながったのでしょう」

「だったら、なおのことラトマを愛せば!」

「あなたでなければ、ダメでした。あなたは優しすぎた。私はラトマに、あなたを求めすぎたのです」

「ラトマはわたくしではありません!」


 わたくしは、ナイアさんをひっぱたきました。


「今からでも遅くはありませんわ! ラトマを見て差し上げて! ラトマを、ラトマとして愛して差し上げてください! あの子の強さも、弱さも、受け入れなさって!」

「ありがとう、ラトマを憎まずにいてくれて。しかし、私はもうこの世界から消滅します」


 ナイアさんを形成する魔力が、消えていきます。


「遅かったですね。あなたにもっと早くお会いしていれば」

「わたくしの力なんてなくたって! ラトマの母親は、あなたあなたしかいないのですわ!」


 ナイアさんの視線が、ラトマに向けられました。


 ラトマは、複雑な表情を浮かべています。ナイアさんを愛していいのか。


「あとは、あなたたち次第ですわ」


 わたくしは、ヤリを抜きます。


 ラトマが、ナイアさんの元へ駆けつけました。

 こちらを見て、ラトマは何かを言いたそうにしています。

 しかし、何も言いません。


「ルカン、大丈夫なの? このままヤリを刺しておかないと、この人はまた復活してしまう」

「そうなったら、また一緒に戦ってくださいまし」


 霧の中へ消滅していく二人を見ながら、わたくしはただ立ち尽くしていました。


 残ったのは、またサメの渦が舞う砂浜のみ。


「勝ったのか?」

「おそらくは」


 デジレに尋ねられても、そうとしか答えられません。


「大団円……というわけにはいかないか」

「そう、ですわね」


 エビちゃんさんの言葉は、わたくしに重くのしかかります。


 わたくしの敵だった親戚筋とはいえ、多くの血が流れました。


「でも、大丈夫かな? また、世界を支配しに襲ってくるんじゃないかって思うよ」


 ステイサメさんの心配も、わかります。


「もう攻撃する力など、残っていないでしょう」


 わたくしには、あの二人がまた世界を襲うなんて考えられませんの。

 彼女らは静かな海へと、帰っていった気がしますわ。


「見事だった、ルクレツィア。お前は、サメ世界の勇者だ」

「ありがとうございます、おとうさま」


 ヤリを返却して、わたくしはステイサメさんの手を取ります。


「これから、どうするんだ?」

「決まっていますわ! 海賊稼業に精を出します!」


 財宝を集めては、貧しい民に分配して義賊三昧ですわ。


「そうか。俺はまたサメの守護者として、世界に留まる」

「ええ。お互いがんばりましょう」


 我々は、ラトマの残した赤い船に乗り込みました。


「ああ。達者でな」


 父の導きにより、わたくしたちは渦から外へ出ます。


 海軍たちとは、渦を出たと同時に別れました。


 広がっているのは、一面の海ですわ。あるのは、水平線のみ。我々を隔てるものも、陸地もなにもありません。


「何処へ行く、ルカン?」

「進む先が、わたくしたちの行く道ですわ!」


 わたくしたちは、太陽の方角へと前進しました。


(完!)

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Z級スキル『サメ使い』の令嬢! ~呪われしスキルを手にして追放された令嬢は、サメの勇者に拾われて義賊三昧ですわっ!~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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