第43話 父の戦い、決着を付けますわ!

 初めて、父が自ら攻撃を仕掛けてきました。女といえ、娘といえど容赦がありません。


 ですが、我々はただの父と娘なのではないのです。試練なんて、そんなものなのでしょう。


 わたくしは、サメ拳で応戦します。手をサメの牙に見立てて、掌打で攻撃と防御を繰り返しました。


「けりゃああ!」


 飛びかかった父が、わたくしの首にチョップを食らわせようとします。


 わたくしは、サメの牙を意識した手で受け流しました。


「ルカン、そっちはオトリだ!」


 ステイサメさんから、アドバイスが飛んできます。


 受け流したと思っていた手刀が、わたしの腕を掴みました。


 後頭部への膝蹴りに、わたしは対処できません。


「もらった!」


 そう思っていたでしょう。


「なあ!?」


 わたくしは、読んでいました。


 ヒザを反対の手で受け止めて、おとうさまの動きを封じます。跳躍し、両方の足でアゴに蹴りを浴びせました。


「ごほおお!」


 おとうさまが、初の本格的なダメージを受けます。仰向けになって、動きません。


 ですが、わたくしもノーダメージというわけではありません。後頭部を強打し、意識は朦朧としています。


 しかし、父に勝ちました。


「はあ、はあ。やりましたわ」


 砂浜に横たわりながら、わたくしは勝利を実感します。


「ああ。俺の負けだ。よくやったな。ルクレツィア」

「いいえ。おとうさま。わたくしはもうルクレツィアではありませんわ。わたくしはルカン。海賊ルカンですわ」


 父を越えたことで、わたくしはようやく自分を勝ち取ったように思えました。


 これでもう、わたくしは父の代理ではありません。自分の意思で、自分の力でサメの救世主となるのです。伝説のサメ勇者【ダーク・ワーカー】に。


「おとうさま。わたくしは、おとうさまともっと遊びたかった。その思いが、この戦いに込められていました。だけど、もうおしまいなのです。おとうさまと、話せてよかった。わたくしは、発たねばなりません。みなの待つ、地上へ」


 息を整えながら、わたくしは思いの丈をおとうさまにぶつけました。


「ステイサメさんだって、わかってくださるはず。わたくしを危険な戦地へ送りたくないって気持ちは、痛いほど伝わってくるのですが」

「わかった。立たせてOKか? もう少し寝ておくか?」


 父が、わたくしの手を腕相撲のように取ります。


「いえ。平気ですわ」


 ゆっくりと起き上がらせます。


「ではルクレツィア……ルカン、お前にこれを授ける」


 おとうさまから、ヤリの先端をいただきました。


「おお、キャンディケインまで手に入れていたか」

「これがどうかなさって?」

「この杖こそ、ヤリの先とこの棍を繋ぐ、大事なアイテムだった」


 キャンディケインを手に入れたのは、ステイサメさんです。


「キミが、この至宝を守ってくれていたんだな。感謝する」

「いえ。ワタシは」


 ステイサメさんが、頬を染めました。


「ありがとうございます、ステイサメさん」


 わたくしはステイサメさんに感謝し、ヤリと棍棒を繋げます。


 黄金の輝きを、ヤリが放ちました。財宝よりも眩しい、魔力の光です。


「ぎ、ぎいい!」


 これまで感じたことのない魔力の吸収を、わたくしは感じました。サメ使いとしてのスキルポイントを、すべてヤリに持っていかれたような感覚です。


 光が収まると、わたくしは自由になりました。


「大丈夫、ルカン? どうもしない?」

「肉体自体は、なんともありませんわ。このヤリと、わたくしが完全にシンクロした感触はありますが」


 まるで自分の手足のように、ヤリがなじんでいますわ。


「ルカン……どうしても行くんだね?」

「ええ。もう、後戻りはしません。妹と、決着を付けないと」


 わたくしが、決意を新たにしたそのときでした。


「わざわざ出向く必要はないわ。姉さん」


 赤い船が、聖地を突き破ってきたではありませんか。


 船首にいるのは、やはりラトマです。

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