第42話 父と決闘ですわ!

 この場に一生平和に留まるか、ヤリの先端を手に入れて地上へ戻るか。

 わたくしは、どちらかを選ばなければなりません。


「ルカン、どうするの?」

「そんなの、決まっていますわ。ステイサメさん!」


 実の父に、わたくしは飛び蹴りを入れますわ。


「仲間のいる地上へ、戻らないといけませんの!」


 今でも、地上ではエビちゃんさんやデジレが、ラトマさんと戦っているはず。


 ラトマ相手では、いくら最強のお二方と言っても分が悪いでしょう。


「そうか。お前の心意気、しかと見届けた。しかし、実力が伴っていなければ!」


 廻し受けで、おとうさまはジャンプキックを受け流しました。


 やはり、一筋縄では参りませんね。


「ルカン!」

「ステイサメさんは、手を出さないでくださいまし!」


 これは、わたくしが乗り越えなければ意味がありません。だからこそ、父はわたくしに厳しく当たっているのですから。


 最初で最後の、親子げんかの始まりですわ!


「こおおお!」


 父のあの構えは、貝の型。


「水棲五獣の拳を会得しているのが、お前だけとは思うな!」

「まさか! 技をどこで覚えたと!?」

「俺はいくつもの海を渡ってきた。自分を鍛えるためにな。水棲五獣の拳は、旅先のマスタークラスに教わったのだ。お前よりも強いぜ」


 わたくしは、エビちゃんさんにしか技を教わっていません。それぞれのマスタークラスに教わった相手に、敵うのでしょうか?


「どうした、急に拳が弱まったぞ」


 二連続手刀の後、膝蹴りが飛んできます。これはウニの型です。


 わたくしの皮膚が切れていました。


 爪を伸ばさなくても、手刀で十分に傷を付けられるのですね。


 わたくしは父の膝を抱え込みました。そのままタコツボの型で、平衡感覚を狂わせます。


 ですが、父は掌底でわたくしを突き放しました。


 また飛び膝蹴りが飛んできます。


 腕でガードして、わたくしは迎え撃ちました。


 しかし、父は膝蹴りを崩したではありませんか。砂を蹴って、こちらの視界を奪います。ウミウシの型ですわね。


「でやああ!」


 父は片足で、わたくしの首を巻きつけます。これは、タコツボの型ですわ。


「タコツボの型は、本来こうやるのだ!」


 わたくしの首を、父は足で締め上げます。


「ぬん!」


 わたくしは小さく跳躍し、父の軸足を蹴り払いました。


 体勢が崩れたところで、わたくしは脱出します。


「ケホケホ!」

「ルカン!」

「来てはいけません!」


 駆け寄ろうとするステイサメさんを、わたくしは制しました。


 父だって、サメ使いです。ステイサメさんのような召喚サメがいるに違いありません。しかし、父はサメに頼らない戦いを選んでいます。


 ならば、わたくしもソレにならうが道理!


「あきらめろ、ルクレツィア! お前は試練を受ける資格はない! 深きものにも寿命がある。それまで待てばいい」

「イヤですわ! その間に、仲間は死んでしまいますもの」

「ならば、お前は死ぬしかない! 娘に手をかける父を許せ、ルクレツィア!」


 父の膝蹴りが、再び襲ってきました。


 わたくしは、父が見たこともない構えを取ります。手を「サメのように」上下に伸ばして。


「なんだその拳法は? 貝の型の変形か? にわか仕込みの技が、父に通用するとでも……なに!?」


 わたくしは、父のヒザを手で抱え込みました。そのまま体をねじって、回転と同時に投げます。わたくしも転倒しますが、父も受け身が取れませんでした。


「ダメージはない。しかし、俺の技を完全無力化した。今のはいったい」

「わかりませんの? サメの型ですわ!」


 わたくしは、もう一度構えます。


「たった今、思いつきましたの。水棲生物の型があるなら、サメの拳もありましょう?」

「ぬう。そんなデタラメな拳法で、父を超えられると思うな!」

「それは、わたくしに勝ってからおっしゃいまし!」

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